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黒鬼の旅  作者: 葉都綿毛
第三章 死面の篝火
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薄雲




-- その昔、悪逆無道の土蜘蛛あり --






「うーん…」




あたりには、闇が広がっていた。

足元だけが、煌々と、赤く輝いている。




「どこここ?」




-- 村を襲っては、人々を喰らい --



-ー 家畜を喰らい、破壊の限りを尽くした -ー




「あつい、な…」




-- 悪逆無道な化け物から --ー



-- 人々を救わんと --ー



-- 名だたる武者らが立ち上がる --ー




「あ、青柳…、生きてるっぽい、…へんなかお~、オオ?!うわ?!ハハッ!」




ーー その戦いは、三百三十三夜続いた --



-- 生きとし生けるものの屍が--ー



-- 血が、悲嘆が --ー



-- 大地を埋め尽くした ーーー




「青柳はひどいよな~、あんなまずいの食わせるなんてさ~、言うこと聞かなかったのは悪かったけどさ~、仕方ないじゃん」




-- だが、遂に ー-ー



-- 土蜘蛛は敗れ、伏す ー--




「だって、強そうなのがいっぱいいたからさ。それなのに殺意は溢れてて。なんだかおもしろそうなことになりそうだったんだよなァ。」




-- 土蜘蛛は --ー



-- 己を倒した勇士に命を乞う ー--




「…大丈夫だぜ」




-- 二度と悪事をせぬ、と --ー



-- 誓いて ---




「ちゃんと、守るからさ」




ーー そうして --ー



-- 土蜘蛛は --ー




「…あーー、まずい」




右腕の革の手袋が裂けていた。

裂けたそこは、鋼色の毛に覆われている。



「ハァ…、ユトがいたらなー、どっかにいないかなァ?」



-- 勇士、のちの初代帝の忠実なる家臣となり ーー



-- ともに国を繁栄へと導いた --ー




「あれ、は……」





遠く、闇の中、


金色の燐光が舞っている。

















あたたかい …






音がする …






だいすきな音がする …





あたたかい …





あちらからだ …






いこう …





まっている …





まっているから …













「う…」



開いた青い目に映ったのは、カラカラに乾いた土の色。

槍のような葉先を空へと向ける木々たち、

真っ青な空を走る箒雲。


遠くに、小さな人影が、

ぽつり、ぽつりと見える。

陽炎が揺らめいて、定まらない。



「どこだ、ここ…、」


(たしか、でかい、)



青柳は、大蛇のような白いミミズの化け物の青い舌に捕らわれたことを思い出す。



(アラキムってヤツに食われ…)



青柳は、硬直した。

ワサワサと青柳の腰に何かが巻き付いてた。

鋼色の毛に覆われた大きな腕、青柳の腰ほどの太さのある腕だった。

それが、青柳を抱えている。



「グギュルリ」


(??!!)



青柳の顔の横で、変な音が聞こえた。


横に動いた青い目に映ったのは、鋼色の毛がモッサモッサに生えた、昆虫のような頭だった。



「なんだてめえエエエアアアアアアアア?!」

(ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア)



毛だらけの顔の中に、大きなまん丸の鋼色の目玉が、ぴかぴかと4つ埋まっている。

その下にも小さな目玉が4つ並んでいる。

目玉の幾つかが、赤く妖しく光っては、元の色へと戻っていく。

青柳の3倍はある体躯は、鋼色の毛に覆われていた。

叫ぶ青柳を鋼の玉に映した昆虫頭は、モッサリとしたひげ毛を上下に動かした。



「オレ…、…」



ガラスが砕け絡みあう、そんな音が混じる声。



「オレハ、キキエンシ」

「キキエンシ?」


(………?キキ、エンシ?)



鋼色の異形の胴体には、ボロボロに裂けた墨色の長羽織と白い着物と黒袴に、革靴の出で立ち。

革の手袋が消えて、毛むくじゃらの長い異形の手が伸びてはいるが…


鋼色の子供の姿が、青柳の脳裏をよぎる。



“キキ!!”

“やめろ青柳!!”



青柳と鋼色の子供が争った時、紅羽の制止の言葉と同時に、緑色の髪の子供が、鋼色の髪の子供をそう呼んでいた。



“アオヤギとエンシのことだ。キミらは、お母さんを怒らせてしまったんだ。”



そして、1つ目の魔物が、青柳の名と共にもう一つ呼んだ名がエンシだった。

魔物に、自分の名前が知られているのが不可解ではあるが…。



(アイツが、キキエンシッ!)



今更ながら青柳は、ヨメ呼ばわりする迷惑小僧の名前を知らなかったことに気が付いた。



(で、この虫野郎もキキエンシッ!!)


「オマエハ、ダレ?」



がしり、青柳の頭を大きな手が掴む。

黄みがかった真珠色の鉤爪が、青柳の肌を食む。

青柳の腰には、左腕が一本巻き付いていた。

青柳の視界に見える右腕は、ぶらりと垂れている。

青柳の頭を掴むそれは、なんなのだろう?

ぶらりと垂れる右腕の影に、もう一本の腕が見えた。



「…オレは、アオヤギだッ!」


(くそッ!!オレのせいかッ?!)



巨大な白ミミズが作ったという、奇っ怪な食べ物を季忌鉛師の口にぶちこんでしまった己の悪行に青柳は思い至っていた。



(へんなもん食わせちまったから?!)


「…アオ、ヤギ…」

「そうだアオヤギだッ!!しっかりしろキキエンシッ!!」

「アオヤギ…、」

「オレが悪かったからッ!!どうにかして人間に戻してやるからッ…!」

「…シッテル、オレノヨメ」

「しつけエぞそれッ!!」



鋼色の8つの目玉が、青柳を見つめた。



ギザギザと震えた声。



「アオヤギ…」

「ッ!!」



青柳の身体が、ガタガタと震え出した。



(虫はちょっと苦手なんだ、だからしょうがない、こんなでかいヤツとか)



鋼色の異形の姿---



(だから気のせいだ)



あの、黒鬼が重なるのは-----



(だって、コイツは人間--)



「アオヤギハ、ヨワイ」

「なッ!」



“青柳が弱いのが悪い”



黒鬼が放った言葉と同じ。



「ダカラ」

「ちょっ、まてッ!」



鋼色の大きな手たちが青柳を掴み、大きな背に乗せた。

鋼色の糸がスルリと幾本も伸びて、真珠色の糸へと変化した。

スルスルと集まった糸たちは、分かたれ紡がれ、青柳の周りを綿雲のように浮かび囲んだ。



(なんだ、これ…?)



掴もうと伸ばした指先が、止まった。



綿雲を挟んだその先に、黒い影がいた。



のっぺらぼうな黒い頭、先程見た小さい方の白いミミズ頭の生き物によく似た異形だった。

黒い長い布を首に巻いていて、紫色と黒の縞模様の服を着ている。

綿雲の薄膜の前、青柳の前、右、左に、張り付き、中を覗き込んでいた。

青柳の頭上に影が差す。

膜の上にも、もう1体。



「?!」



黒い異形と白い薄膜の間、視界に見えたのは、

真っ青な空から、次から次へと黒い雫のように落ちてくる黒い異形たちの姿。

カラカラの土が広がる大地が、黒い異形が落ちるたびに、赤く黒い鏡面のように変化していく。



キュアアアアアアアアアア----!!



「!!」



異形の裂けた口から甲高い悲鳴のような音が上がる。

鋭い槍と化した両腕を奮い、異形たちは季忌鉛師に襲い掛かる。

青柳に襲い掛かる。



「!!」



だが、奮われた黒い殺意は、薄膜を破ることはできなかった。

黒い異形の腕が薄膜にくっついてしまっている。

異形の腕が消え、胴体が消えた。

もがく頭が消える。

白い綿雲の膜に吸い込まれるかのように、溶けて消えていく。

白い膜が、ギラリと輝いた。



(食った?)



黒い異形たちが、宙に浮いている。



季忌鉛師から伸びた毛が、鋼の槍と化して、黒い異形たちを刺し留めていたのだ。

もがく異形たちは、ぐずぐずと溶けていく。

そして、鋼色の槍へと吸収されていった。



鋼色の身体が、ぶるぶると震える。



ひとまわり、大きくなった。



「グギャアアッルル」



黒い異形たちは、絶えることなく、落ちてくる。



季忌鉛師は、それを食らった。




(ヨワイヤツ)




小さな人間に、傷ひとつ付かないように。




(マモラナイト)




機嫌良さ気に、食らっていく。




(オレハ、ツヨイカラ)




その度に、季忌の身体は大きくなっていく。




(ツヨイカラ)




大きくなって、




(ツヨイ)




革靴が、びりびりと裂けて落ちる。




(オレガ、イチバン)




そこには、長くて大きな毛むくじゃらの足が、




(ツヨインダ)




4本伸びていた。















【ナニしてんだ?オマエ?】



緑色の長い髪をした男は、顔を覆っていた両手を離した。

顔を上げた先にいたのは、2本足で立つ茶色の大鼠と、赤茶けた黒髪と黒い目をした人間の子供。

どちらも頭に麦藁帽子をかぶっている。


「なんでこんなとこですわってるの、おじさん。」

【人間は、入ってきちゃダメなんだぞ!出ていけ!】


男は、虚ろな緑色の目で、大鼠と子供を見た。


「出て行きたくとも、出て行けんのだ。」

【?】

「?」

「見ろ」


男が目で示した所は、男の足元。

男の両足首が、白い木の根に絡みつかれ、土の中に埋まっていた。



ポンッ、



ポンッ、



木の根から、小さな緑色の双葉が身を起こす。


地面を、ぼこり、ぼこりと何かが叩く。


「すごい、おじさんサーチャーみたいだねェ!」

「さぁちゃあーとは…?」

【サーチャーの方がスゴイぞッ!】

「あおみどりで、めがまんまるで、せがたかくて、むぎわらぼうしをかぶってるまもののひとだよ。サーチャーがあるくとね、はなとかやさいがいっぱいはえるんだ!」

「……きっと、私を埋めた方と同じだ。」


長いため息をついて、男はまた顔を両手で覆った。


「一体どういうつもりだ?いや、わかる、なんとなく、わかるッ、だがなッ…!それは…!クソッ!!はやく戻らなくてはいけないのに!季忌がまた後先も考えずにやらかしてしまったのだッ!あの子まで巻き込まれてしまったッ!だが、この場所から離れた時、あの神がどう行動するか考えると、離れられないのだ…!」


その時、地面から白い根が飛び出した。

大鼠は、それをひっつかむ。

カッカッカッと白い根を食べ始める。


【これ長老の味がするぞ。】


白い根に、頬や頭を打たれながら大鼠は言った。


「ししょう、ちょうろうたべるの?」

【まあな!この根っこ、長老と一緒。人間、オマエ、長老のエサだな!】

「ちょうろうのえさ?!」

「あああああ--!!わかっていた、わかっていた!大切な御仁なのだろう?!そんなのもう行けないじゃないかッ!!季忌!頼むから大人しくしていてくれ!!頼むから」



ザシュッ!!



男の足元に絡みついていた木の根が、バラバラになって地面に落ちた。



大鼠が、鋭い爪で斬っていた。



「ししょう?」


目を丸くする人間の子供に、大鼠は言った。


【オレ長老キライ】


緑色の髪の男を担ぎ上げる。


【オマエ、いらない!】

「な、ちょ、な、待て待て--」

「ししょう!うしろ!」


男を担ぎ上げた大鼠の背後に、白い根の山が現れた。

根には、旗のようにひらり、ひらりとついていた。

人間のような、黒い目玉と、黒い口と、黒い鼻が--ー。


【へんなヤツ-】

「ししょう!」


大鼠の鼻先を掠めた何かが、地面を深く斬りつけた。

子供が、自分の背丈ほどもある剣を構える。

白いものが、うねうねと地面を転がっていた。


睨み合う、白い根と、大鼠と人間の子供。



《ЮⅡδΘЮ?》



麦藁帽子を頭にのせた長身の異形が立っていた。

亜麻色の貫頭衣からは、青黒く緑がかった手足が伸びている。

茨のような薄暗い帯が、腰からふわふわと浮いている。



《ΘδЮΗ…、ⅨⅧΘⅧⅨⅧ》



長くて細い指が、男を指差した。

薄暗い色をした帯が、ぐんと伸びて、男に向かう。



が、



ぐん、と後退した男を帯は逃してしまう。



男を抱えていた大鼠が、後退したからだ。



《ⅧΘδЮ?》



麦藁帽子の異形は、再び帯を男に向けた。


大鼠は、そんな帯から逃れる。


くるり、背を向け逃げ出した。



「ししょう!」



子供も大鼠の後に続いていく。



「何をしてるんだ、お前たちは?!あの方に逆らったら、お前たちもまずいだろうにッ!!」



叫ぶ男に、大鼠は言う。



【長老が復活するほうがヤダ!】

「その長老は、どれだけ無体な人物だったのだッ?!」

「ししょう~、みてみてサーチャーが!」



後を追ってきていた子供が声を上げる。



振り向いた視界に入ったのは、




《…ⅨⅨⅧΘδЮ……》




真っ黒い目玉を歪め、



真っ青な歯を剥き出しにして笑う、





邪神。





(ああああああああああ-------!?)




蒼白な顔をした男は、









確かにあったそれが、

途切れたのを感じた。





緑色の目を見開く。





(なんてことだ!!)




(季忌の封印が、破れたッ!!)







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