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黒鬼の旅  作者: 葉都綿毛
第三章 死面の篝火
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食事は平和がよい

ギィヤァア--ンーー




硬質な音が響き渡る。




ギィヤァア--ンーー




(鐘の音?)


青柳は辺りを見回した。

複数の音が組み合わさったその音が、どこから来るのかわからずキョロキョロしていると、なまずのようなヤモリのような姿をした黒紫色の魔物がのそのそと動いたのが見えた。

倒れていた老人たちをむずと掴み、身を起こさせた。


「おやおや、もうそんな時間か…」


白い髭の老人は呟き、ため息をついた。


「困ったな。」

「ええ、困りますねェ。」



ギィヤァア--ンーー



頭を黄色い花柄の散る三角巾で包み、明るい茶色のワンピース姿の老女もため息をついた。


(?!)


青柳は目を剥いた。

老人は黒いベストを、老女は黒い上掛けを身に付けていた。

形は違うが、どちらにも銀色の欠片が鎮座していた。

黒色には持ち主の力を破壊し、銀色には持ち主を癒す力が宿っている。

黒鬼と銀鳥の造った代物だ。

半分灰にされるという血も涙もない刑に処せられる罪人が身に付けるものだ。

青柳の両腕にも張り付いているそれは、ソロイというらしい。


(こんなじーさんとばーさんまで?!灰にすんのか?!あんなんくらったら心臓止まっちまうだろッ?!!)



ギィヤァア--ンーー



顔を引きつらせていた青柳の着物が、くいくいと引っ張られた。

橙色の長い髪をした小さな女の子、フィユルが、桃色の大きな目で青柳を見上げている。


「ヤギさん、しーーイッだよ。」

「?」


フィユルは、小さな唇に人差し指を当てている。


「あのね、「フィユル」


フィユルの顔を白くて大きな手が覆った。


「特別扱いはダメだよ?」


黒髪の優男、ファウスが、フィユルを長い腕に抱き上げようとしている。


「食事の時間だよ。」


そんな、にやけた男の顔が反転した。






!--------!







真白いモノが視界を埋める。

よく見れば、白としか判断出来なかったそれには、シワのように横線があった。

艶々とした光を反射させる、ヌメヌメとしたモノだった。


(?????)


白い者は、黄色と白の縞模様の入った服を着ていて、首に黒色の布を巻いていた。

頭は、のっぺらぼうのように、目も鼻も、口も耳もなく、髪もない。

ヌメヌメしていて、シワの横線があるだけ。

手足も同じで、指がない。

固まる青柳から、音もなく身を引いたソイツは、軽やかに飛ぶように去っていく。


そんなヤツらが、そこかしこでいっぱい跳ねていた。



(えなにあれ)



つるつるでネトネトの手(?)の上に、黒い皿をのせている。

大皿の上には、ぷるぷるとした白いもの。

真っ青な液体がかかっている。



(なにあれ)



もう片方の手には黄色い皿をのせている

皿の上には、真っ黒な小石の山。

粒々のある真っ赤な液体がかかっている。



(なんなんだあれ)



ソイツらは、手にのせた皿を、目の前に横たわる白くて長い石の上に置いていく。


石は道のように伸びて、ぐるりぐるりと円を描きながら、闇の中に浮かんでいた。

西から東へ、天から地へ、伸びる石の上に置かれた皿は、不思議なことに雨のように地に落ちない。

石の前に座る、人間や魔物たちも落ちることもない。

黒鬼に捕まった罪人たちだろう者たちの視線が、こちらを向いていた。

憎き黒鬼の側にいた人間が現れた。

当然だ。

憎悪、嫌悪、猜疑の情念が青柳に落とされる。

殺せずとも死なない程度に手は出したいはず、罵倒のひとつもしたいはず、

なのに、誰も微動だにしない。

だから、青柳も動かない。


(フィユルが、静かにしろって、たぶん言ってたしな…)


別れ際のフィユルの言葉を思い出し、ファウスのにやけ顔を思い出し、眉間にシワを寄せながら青柳は視線を目の前にやる。


(食事って、これがか…)


白いミミズみたいな生き物が置いていった皿の上のそれは、異常な色彩で、ちっとも美味しそうに見えない。

配膳を終えたらしい白ミミズたちが、動きを止めた。

直立不動なソイツらの、頭の真ん中が横に裂け、黒い穴がほの見える。



キィヤァア--ンーー


ギィヤァア--ンーー


ギィヤァアアル--ンンーー



甲高い金属のような音が飛び出した。

それを合図に、人間と魔物たちが、皿に手をつけ始めた。

青柳は側にあった銀色の匙を手に取る。

とりあえず、食べられそうな形態をしている青い液体のかかった白いものを掬った。


(まあ、食うけど…)


食糧がなくなる限界まで引きこもる人間系の青柳にとって、どんなに不味くても食べものは大変貴重で有難いのである。

だから、青柳は食べ物は粗末にしないのだ。

他の人間や魔物たちも食べ始めるのが、青柳の視界に入る。

両隣にいた一つ目の魔物たちも食べ始めた。

青柳は銀の匙にのったそれを口に運ぼうと手を動かした。



からん、からーん…



弾むような音が響く。

銀色の匙が、白い床へと転がっていた。


(……………)


筋骨隆々とした人間の男が、白目を剥きながら、ぷるぷると震えていた。

その隣に座る男の顔も、汗が吹き出し、顔色はどす黒い。


(……………)


ブファ----!!


魚の頭をした魔物が、ブクブクと青い血泡を吹き出していた。


(……………)


そんな魚の魔物の口に、隣にいる蛇頭の魔物が自分の皿の上にのっているものを流し入れる。


人間は、ほぼ壊滅状態で死に体を晒していた。

魔物は、5分の1が重体のようだが、顔はしかめつつもモグモグと食べ続けている。


(………まずい、死ぬな、コレ)


青柳の目の前にある匙が、ガクガクと震える。


(なんでこんなもの食わなけりゃならないんだ?死ぬだろ死んでんじゃねエかなんであんなヤバそうな魔物どもまでおとなしく文句も言わずに食ってんだよ?おかしいだろ一体なんだってんだよ誰も悲鳴すら上げないなんて)


顔を上げた青柳の視線の先で、鋼色の髪をした子供がゲロ不味~とかいった顔をして舌を出していた。

さらに何か言おうとしている子供の口に、青柳は青い水の糸を放ち、ぐるぐる巻いて閉じさせる。


(しゃ!べ!る!なッッ!!)


青柳は音を出さずに言葉を紡いだ。

それを見て、季忌鉛師ききえんしは二ッと笑みを浮かべ立ち上がる。

その両手に、鋼色の巨大な出刃包丁が現れた。

出刃包丁で狙いを定めた先にいたのは、大きな黒い毛むくじゃらの魔物だ。

草の穂のような、わさわさした黒毛の中から、ぴかぴかと星のように両目が光っている。

小山くらいの大きさの、三段腹の鏡餅のような体つきで、毛の中から黄色い鳥のような嘴が見えた。


(鳥かア--?!!コイツまさか)


季忌の出刃包丁を持つ両手が、氷で覆われた。

季忌の目が不満気に青柳を睨み付けた。


(うッるせ--!!だまれ大人しく)


「?!」


季忌の身体を覆っていた水や氷が消えていく。


「何で邪魔するんだよ、青柳。あのうまそうな鳥を捌いてやろうとしただけなのに。」



ざわり 



魔物たちの怒気が噴き上がる。


(だまれよこのバカッ!)


「なんだよ、だってあの番人が飯は出るって言ってたけど、こんな不味い飯だなんてさー!耐えらんない!」


(耐えろ!!状況を察しろオオ-----!!)



見ているのだ。



あの白ミミズたちが。



のっぺらぼうな顔を季忌に向けて、静止している。



(まずい、)



人間も、怒る魔物たちでさえも、動かない。



「それに、さ、その」



季忌が目をそらしたり、また青柳を見たりとなんだか変な動きを始めた。


「嫁には、美味しいもん食わせたいじゃん?」



(あ?よ…)



その場の視線が、いっせいに青柳に注がれた。

驚愕の視線だ。


季忌の隣にいた人間が、季忌の足をつついた。

指で青柳を差して、季忌を見た。


「うん、あれ、オレの嫁だよ。」



群衆に衝撃が走った。



別の人間が、胸にやった手で山を作って、青柳を指差してから、手で✕印を作った。


「え?確かに胸は小さかったけど、女だよ。」



群衆に衝撃が走った。



「なー、青柳!」


青柳に視線を向けた季忌は、動きを止めた。



青柳は、笑っていた。

青い目を光らせて。

微笑む顔は、艶やかで、

目を惹き付けられる。



青柳の2本の指が回る。



季忌の皿に盛られた物体が、ギュルギュルとうねり、トグロを巻いて、季忌の口に飛び込んだ。


「●◎*▼▼※-----?!」


バタリと、ぶっ倒れた季忌を一瞥した青柳は、降り注ぐ視線を気にすることなく、銀の匙を取る。

匙で掬った、青い液体のかかった白いぷるぷるを見つめる。


「……………」


チラリ、倒れた季忌の方を青柳は見た。


(もしかして死んだか?)


「??!」


白いものが季忌を覗き込んでいた。


とても大きい。

白ミミズたちの親玉だろうか?

小さな者たちと違い服は着ていない。

長い白蛇のような身体に、灰色の岩を纏っている。灰色の岩は、角度によって、銀にも、虹色にも輝きを放った。

大蛇のような身体に不釣り合いな、人間の腕ほどの大きさの灰色の岩で出来た手が、季忌の体を持ち上げる。


(は、な)


白いのっぺらぼうの顔に亀裂が入って、赤い口が出来上がる。

口から、青紫色の長い舌が出てきた。

宙をくるりと巡った舌は、季忌に巻き付くと、その赤い口の中へと放りこんだ。


ごくんと、巨大な白ミミズは季忌を飲み込んだ。


(そんなッ…!)



「「「「「うオオオオオオオオオオオオ---------------ンン!!!」」」」」



静寂が、人間と魔物たちの雄叫びに撃ち破られた。

人間は銀色に輝いたソロイから武器を作り、魔物は銀色の光を纏いながら、皆、戦闘形態をとった。


(どういうことだ?)


白ミミズ(大)に向かって、攻撃を仕掛ける人間と魔物たち。

降り注ぐ雷や火や槍や剣は、白ミミズ(大)には届かずに攻撃手に跳ね返る。

白ミミズ(大)の周りで、白ミミズ(小)たちは、独楽のようにクルクルと回りながら、襲い来る人間と魔物を突きと蹴りで撃退していく。


【みんな、アラキムの宝が欲しいんだ。】


青柳の隣に座る一つ目の魔物が言った。

黒い髪から赤い角が5本のぞき、黒い目と薄青の肌をしている。

薄い緑色の貫頭衣を纏った魔物は、青柳と同じくらいの背丈の少年のような姿をしていた。

その黒い目は、じっと人間と魔物たちの戦いを見つめている。


「アラキムって、あの白いミミズのことか?」


真っ黒な一つ目が、青柳を射した。


【そうだよ。とても強くて、人間や魔物では敵わない。】


ずい、と、魔物が青柳に身体を寄せてくる。

青柳を見つめながら囁いた。


【けどね、言ったんだ。アイツの宝を手に入れたなら、この牢獄から出してくれるって。…クロウがね。】

「黒朗が?」

【そうだよ。】


青柳は首をひねった。


(らしくねーな、なんだかんだ言って鬼野郎なクセに甘すぎる…………王様になったからか?)



バン!



青柳の真横に、すごい勢いで人間が落ちてきた。

赤い体液が辺りに飛び散る。


「…………」


人間の身体をソロイの銀色の光が包みこんだ。


「あ----!!くそッ!!殺られちまったぜ!!」


復活した血だらけのムキムキ男は、見上げる青柳に白い歯を見せてニカッ!と笑うと、また白ミミズ(大)に向かっていく。

視界を広げれば、どこもかしこも死に体の罪人で溢れ、ソロイの銀色の光で復活していく、そんな光景ばかり。


(……らしくなくもなくねーなぁ…)


【今日はちょうどよくエサが来たから、アラキムを誘い出して、留守の間に巣に入って宝を奪おうっていう作戦になったんだろうね。】

「…エサ…」

【アオヤギとエンシのことだ。キミらは、お母さんを怒らせてしまったんだ。】

「どオこに、お母さんいたッ??」

【アラキムだよ。アラキムはこの牢獄の食堂長、ここにいる住人たちの生命線を握った存在、いわゆるお母さんさ。】

「え??あのミミズが食事を作っ…?あのミミズが?いや、え?なぁ、アレって…」

【だからアラキムは、食事の時間に騒ぎ立てたり、食事を無駄にすることをすごく嫌う。キミらは、最悪な行いをしたんだ。】

「それで、みんな静かだったのか………」


(ん?キミら?)


「あの、さ…、もしかして、オレも?」


青柳は、恐る恐ると自分を指差した。


一つ目の魔物の黒い目には、青柳の姿も映らないで真っ黒だ。


けれど、後ろに、青柳の後ろに確かにいる。


生温かい青紫色の舌が、青柳の身体に巻き付く。


赤い口の中へと、



【ああ、キミが一番のエサだよ、アオヤギ。】



青柳の身体を放りこんだ。




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