黒の牢
火が燃える
白い火が
うめつくす
手を、足を、
身体中を、白火に覆われていた
熱くはない
痛みも、苦しみもない
燃えて
消えていく
燃えて
紅羽は、消えていく
-----ぽつり
黒い穴が、白景に浮き出した
それは、点々と、
そこかしこに姿を現し
蠢いた
集まった
固まった
増殖した
紅羽の腕にも、それは出現した
ちりばめられた、黒点
(これは…、水、?)
黒く、ヌラリと輝くそれは、
(--ー--!!)
紅羽の身に激痛をもたらした
流れ込んだ
(タリナイ)
胸をかきむしるほどの
(タリナイ)
苛烈な
(タリナイ)
飢餓感
黒い水は、紅羽の身体を黒く染めていく
灰色が視界に入った。
それが、部屋の天井だと気づき、紅羽は身体に違和感を覚えた。
視線を下へ向けると、紅羽の腹の上で、灰銀色の髪と青銅色の目をした美しい女が、彼の着物の端に手をかけているのが見えた。
大きな白い胸が、女の動きにあわせて揺れている。
紅羽は着物を引く女の手を掴んだ、近づく肩を押し止めて、己に今にも引っ付きそうなそれを全力で防いだ。
他の手遅れな部分の知覚は、断絶する。
「あら?離してくださる?」
目を瞬かせた女は、悪気なさそうに見えた。
が、紅羽の力をぐぐぐと押しかえし、動きを止めようとしない。
「何してる…」
「脱がそうかと。」
「なぜ脱がすッッ!!」
「あなたの身体に興味がありましたの。」
「?!」
そして、つるりと紅羽の手を逃れると、紅羽の着物を引っ張り始めた。
脱がし始めた。
「あなたの身体、傷が多いですわねぇ、人間は弱いのですから、もっと大事にするべきですわ。下の方は…」
「??!!」
「どうしたん……」
灰色の開いた扉から、黒髪と青い目の少年、いや少女、青柳が顔を出した。
その手には、椀や皿が載ったお盆。
青柳は、紅羽とガラディーの攻防を見ると、深く何度も頷きながら、お盆を寝床の横の机に置いた。
「青柳…!コイツをッ…」
「安心しろ、紅羽!」
青柳はいい笑顔で胸を張った。
「他のヤツらが、邪魔しないようにオレ頑張るからさッ!」
「……?!コイツをどかせろッ!!」
「?なんでだよ?ガラディー様とイチャイチャできていいじゃないかよおー」
「?!」
艶めく青い目は、紅羽の言葉に不服を申し立てる。
そういえば、青柳は、またガラディーの魅了術にかかってしまっていたのだ、と紅羽は思い出した。
青柳の肩に巻き付いていた水色の蛇を睨み付ける。
青柳の守護神は、焦った顔で紅羽から目を反らした。
「そういえば、アオヤギは、わたくしがクレハとイチャイチャすると嬉しいと言ってましたわね。」
ふと、動きを止めた美しい魔物が、紅羽の顔を覗き込む。
「しましょうか?…クレハ」
「-----!!」
灰色の城の中腹に、赤い亀裂が入った。
「紅羽め、突然飛び出したと思ったら、美しい妻を手に入れて帰ってくるとは、やるじゃないか。」
カラカラと笑ったのは、滅魔の五大家、火性の異能を操る比嵩一族の長、比嵩赤土。
白いふわふわの長椅子に敷いた赤布の上に座り、透明な盃にある琥珀色の酒を、ぐびり、喉に流す。
赤土の横に座っていた、緑と金の狩衣に黒い袴姿の赤髪の子供が、空いた盃に酒を注いだ。
「オレは認めませんからねッ!!あんな、あんな瓢箪みたいな嫁ッ!!」
赤土のすぐ横で叫び声が上がる。灰色の柱に、黒いモノで身体を拘束された、春風がいた。
少し離れた場所にある、白いふわふわの枕にうずくまっていた赤い狼が、閉じていた目を開けた。
〈うらやましいのか?〉
「なんでだよッ?!オレの嫁は世界一だッ!!だいたいあれ絶対悪女でしょ!!あんな嫁、若みたいなバカの手に負えるわけねーって言ってんですよ!!いや、ちがうッ!!あれは、化け物じゃないか!!なんでほっとくんですか!!」
〈あれが、オレよりも強いからだ。〉
赤い狼は、また目を閉じた。
「紅羽と可太邏との契約は、より強いあれとの契約に塗り替えられる。紅羽は、寿命を失う必要がなくなった。死ぬことはないんだ。いいことだろう?」
春風は、唇を噛んだ。
(けど、あれは、あの女は…)
灰銀色の髪と、青銅色の目を持つ美しい女、
微笑む女から流れ落ちてくるのは、魔の力。
滅魔の火神とは対極にある存在だ。
(そんなものと契約したら、若は、どうなっちまうんだよ?!)
「クソッ!!」
春風は、身体を縛る黒いモノから逃れようともがく。
それは、黒鬼の造りだしたモノだ。
真っ黒で、すべすべで、時々、中がぼおっと赤く光り、ちょっと温かい、わけのわからない物体だ。
そして、春風が何かしら術を使って逃げようとすると、コイツがどうやってか消してしまう。
紅羽とガラディーの契約に、大反対し、実力行使で排除しようとして、黒鬼に捕らえられてしまったのだ。
今の春風は、赤ん坊より非力である。
(黒朗のヤツもひでえじゃねーか!天敵同士だけど、少しは若に親しみを持ってくれてると思ってたのに、この仕打ちッ!!オマエなら、あんな女追っ払えるだろ!!若を助けてくれよッ!!)
春風は、白いふわふわの椅子に座っている黒鬼を睨み付けた。
灰色の城のてっぺんに来訪者たちを招いた黒鬼は、食事を出した後は、椅子に座り微動だにしない。
「さすが神に愛された人間、強運の持ち主だ。そう思いませんか?リン殿。」
火の族長の笑む黒い目が見やった先には、緑色の髪と黄緑色の目をした子供がいた。
肩まである緑髪の間からは、浅黒く、少し尖った耳がのぞいていた。
白いふわふわの長椅子の端に座った子供。
子供は、ふわりと笑った。
「……………」
その顔を、大きな異形が覗き込んでいた。
編み笠を頭に載せて、亜麻色の貫頭衣を身につけている。その長身の異形の脛まであるそれからは、青黒く緑がかった手足が伸びていた。
『ⅧΘ…?ⅧⅥЮⅨΗ?』
異形は、何か話しかけているが、何を言っているのかわからない。
敵意があるのか、ないのかもわからない。
だが、これは、あれだ。
触れてはならない者だ。
神の類い、それも、荒神だ。
その身から、零れる生気は、邪悪。
灰色の大蜘蛛が、子供の茶色い外套のフードの中から顔を出した。
そして、ピューッ、と
邪神(たぶん絶対邪神)に向かって、白い糸を吹き掛けた。
「「「!!」」」
(バカッ!!なんてことをするんだッ!!)
糸は薄暗い光に包まれて、溶け消えた。
邪神の腰に巻き付く黒い茨のような帯が、灰色の大蜘蛛に巻き付いた。
『ⅧЮⅡδЮⅡⅡ』
邪神は、黒い水底のような目を細めて、簀巻きの大蜘蛛を見る。
そして、投げた。
黒い鬼の顔面に。
「「「……………」」」
黒い手が、顔面に付いた大蜘蛛をむずりと掴む。
『……………』
投げ捨てようとして、だが、大蜘蛛の糸が黒鬼の顔に何重にも巻き付いた。
大蜘蛛から逃れた片目が、赤く揺れている。
青黒い邪神は、そんな黒鬼を指差し、腹を抱えて笑っている。
「やめろ!!季忌!!」
緑髪の子供が、必死の形相で叫んだ時、大蜘蛛の腹から、腕が飛び出した。
その手には、鋼色の剣。
柄は花のように開いた鋼、刃は杭のよう。
真っ直ぐと、黒鬼の胸へと向かう。
赤が、舞い散った。
腕が、白い糸が、蜘蛛の身体が、
赤く光り、散った。
黒い炭の塊が、ボタりと床に落ちる。
『…………』
炭の塊が蠢いて、
頭が、身体が、手が、足が現れて、
そこには、鋼色の髪をした10才くらいの少年が立っていた。
目鼻立ち整った、活発そうな子供だ。
白い着物に墨色の帯を締め、黒い袴を身に付けている。袖無しの墨色の長羽織には、黄線の紋様。
両手には肘まで革の手袋を、両足には膝まである長い革靴を履いていた。
「ククッ!」
鋼玉のような目が、輝く。
「アーハッハッハー!!これが地獄の王か!いいね!いいね!!すげェ!!イイ--ッ!!イイ--ッ!!」
跳び跳ね始めた。
『…………』
黒鬼の眉間に、シワが寄る。
『オマエは誰だ?』
「オレ?オレは、季忌鉛師!よろしくな!地獄の王!!」
『……なぜ、ここに来た?』
「そりゃあ、もちろん!地獄の王と家臣どもとた「私の!!付き添い!!です!!」
季忌に飛び付いた緑髪の子供の手が、彼の口を塞いでいた。
「私が病弱なのを心配して、旅に付いてきてくれたのです。」
「厳ついおっさんの心配なんかするかよオ「は?」、なぁ、地獄の王、オレと戦おう「季忌イイ-----!!」
ドン!
と、比嵩赤土の席の前に、岩ほどの茶色い塊が落ちてきた。
木の根のようなものがぐるぐると巻いた球体だ。
中からは、くぐもった声が聞こえる。
そして、球は、縮んだり、膨れたり、ミキメシと蠢いた。
赤土は唇を上げ、酒を飲む。
『“ききえんし”は、オレと戦いに来たんだな。』
「ありえません。」
黒鬼が、ボソリと言った言葉に、緑髪の子供は間髪入れずにいい放った。
『時々、ああいう質の人間はいたが、全部死んだ。』
「絶対に戦いませんよ。」
『そうか』
「ええ」
『それで』
黒鬼の赤い目が、緑髪の子供を見つめる。
『オマエは、何をしにここへ来た。』
子供の黄緑色の目が見開かれた。
(私が来た理由…)
強者との戦いを好む季忌鉛師が、この国に乗り込んで、いらぬ災いを引き起こすのを止めるため。
けれど、
(本当は……)
灰色の扉が開いた。
赤い火が、足を踏み入れる。
その両手に掴んだものを、ずるずると引きずる音が、部屋に響いた。
「あら、皆さま、ごきげんよう?」
灰銀色の髪の美女、ガラディーが、紅羽の片手に服の襟首を引きずられながら優雅に微笑んだ。
その身体は、ふわりと床から浮いている。
「オレは悪くねェ!オレは悪くな、グエッ!!だいたい死にかけた紅羽が悪いんだよッ!!貧弱くそ野、ぐはアッ!!」
黒髪と青い目の少年、のように見える少女、青柳が紅羽のもう片方の手に着物の襟首を掴まれ、引きずられていた。
こちらは、優雅とはほど遠く、上へ下へドコドコと叩きつけられていた。
赤い火柱となっている青年は、両手を離した。
「若ッ!!」
春風は、叫んだ。
「何やってんすかッ!!」
(大丈夫なのか?そんな力、また血を吐くんじゃないか?ぶっ倒れんじゃないですか?このバカヤロウがッ!!)
春風が睨み付けると、紅羽がまとっていた火はかき消えた。
春風を見て、口の端を上げる。
『…………』
己に注がれる視線を感じて、床に伸びていた青柳は顔を上げた。
黒鬼が、青柳を見下ろしていた。
「………なんだよ。」
『それ』
黒鬼は、青柳の腰を指差した。
そこには、灰色の捻れた帯がくくりつけられていた。
よくみれば、その幅は太かったり細かったりと不恰好だった。
(ッ!!なんで気づきやがった!!)
「あ!!」
いつの間にやら青柳の腰から消え、黒朗の手に渡ったそれは、宙でばさりと広がると、灰色の着物に変わる。
黒鬼が、青柳に与えた着物だ。
その着物は、どんな出来事からも青柳を守った。
青柳にぶつかりそうな飛礫は砕け、毒気が無効化となり、襲いかかった魔物は弾け飛ぶ。
青柳は、むすりと起き上がった。
伏せたままの顔は、真っ赤だ。
(クアアアア-----!!紅羽のヤツ!!覚えてろあのヤロウ!!)
そこは、紅羽の部屋の半分ほどの広さしかない部屋だった。
紅羽の部屋から、斜め下へとぶち抜けた炎のせいで、天井が燃えて消え失せている。
部屋には、火屑と、崩れた石壁が散乱していた。
「お、オレの部屋アアア…?!」
呻く青柳をそのままに、紅羽はずんずんと部屋の中に入り、立ち止まる。
「………ここか?」
小さな灰色の箪笥があった。
不思議と傷ひとつない箪笥の、一番下の棚に手をかける。
「わ?!やめろッ!!」
それを見て青柳は慌てた。
引いた棚の中に突っ込んだ紅羽の手が、中にあるものをむずりと掴み引き出す。
「ギャアアアアアッツ!!」
青柳は、奇声を上げて仰け反った。
それは、灰色の着物だった。
月の色が滲むそれは、黒朗が青柳に渡したものだ。
「着ろ」
紅羽は、灰色の着物を青柳の顔に叩き付けた。
「ガラディーの魅了術も、これを着ていれば効かないだろう。」
灰色の着物は、強力な魔物から青柳の身を守った。
ガラディーの魅了術も、防ぐことが出来るだろう。
だが、
「やだね」
青柳は、思い切り拒絶した。
それを着れば、青柳の身は安全だろう。
邪神や魔物が闊歩する国にいるのだ、そいつらには、憎らしい黒鬼の知り合いということで、敵視されている。
異国の人間たちにだって、敵視されている。
争えば、恐ろしい半灰の刑があるとしても、青柳を害そうとする輩が出てくるかもしれない。
小さく弱い人間の青柳は、着るべきなのだ。
けれど、黒朗からもらったものを、黒朗の前で身につける。
それが、青柳には、
(恥ずかしい!!なんか恥ずかしい!!はずかしいんだよッ!!どんな顔してアイツの前に立つんだよッ!!それに、オレ、アイツをいつか倒すくらい強くなるとか言ってるんだぜ!そのオレが、これ使うとかも恥ずかしさが倍じゃねーかアアア!!)
「いでででたアアアア--ー--?!!」
真っ赤になった青柳の頭の両端に、紅羽の握りこぶしがめり込んだ。
グリグリグリグリ、無表情に、紅羽は青柳の米神を潰しにかかった。
(くそう…)
青柳は、灰色の着物を手に取った。
着物を床に広げると、熱心に畳み始めた。
「…よし」
着物は、一本の灰色の帯のようになった。
それを、青柳は自分の腰に結びつけた。
太さはちぐはぐで、不恰好である。
紅羽の細くなった目に、青柳は叫んだ。
「なんだよその目ッ!!いいだろ?ちゃんとオマエの言う通りに…、ハンッ!!これでも大丈夫さ!効果はあるさ!な!そうだよな、ガラディー様ッ!」
青柳は、後ろで様子を伺っていた美女に声を投げた。
「ええ、効かないですわね。…フフフ、困ってしまいますわ。フフフ」
「ほっ、ほらみろ!効いてねーってよッ!こ、これで…文句ない、だろッ!」
青柳は、がくりと両膝と両手を床に付いた。
一拍遅れで、奇声を上げながら、床を転がり始める。
紅羽はそんな青柳の襟を捕まえると、引きずりながら、部屋を出た。
「だいたい、こんなのいらねーんだ。紅羽のヤツが、着ろって、着ないとぶち殺すとか、いいやがッ…!?…いや!その、着ないと、ガラディー様の魅了術にかかっちまうからさ。」
『まだかかってる。』
「かかってねーよ。」
『なぜガラディーだけ、様付けで呼ぶんだ?』
おかしなことを言われたという風に見上げた青柳は、伏し目がちに逸らされた鬼の視線に目を瞬かせた。
「ガラディー様は、ガラディー様だろ?あの美しさ、神々しさ、呼びすてとかありえねーだろ?」
『オレには様をつけてない。』
「オッマエ…!……黒朗様って呼ばれたいのか?王様になったから?」
『別にどうでもいい。』
「じゃあ、いいじゃねーかよッ!」
『…ただ』
黒鬼の長い睫毛から見えた目の色を見て、青柳は気づいた。
『アイツがそう呼ばれるのを聞くたびに』
(!!)
『あたり一帯、火の海にしそうだ。』
黒朗の目は、赤く燃えていた。
「わかった呼ばねー絶対呼ばねーからやめろッ!!」
『それならいい。』
「ったく…」
『青柳』
黒朗の指先が動き、その先に灰色の紐みたいなのが引っ掛かっているな、と青柳が思っていると、
しゃりん
耳元で、甲高い音がした。
青柳の首を、灰色の二連の輪が廻る。
輪の先端には、黄色い石が付いていた。
丸く、美しい石だ。
満月のように。
「-----?!」
『着物が嫌なら、これなら問題ないだろう。細いし、軽いし、小さい。』
(は)
頷く黒鬼の手から、灰色の着物が消えていた。
(な)
きっと、着物を変えたのだ。
(ふ)
この首飾りに。
「ざけんなアアアアア!!」
青柳は、黒鬼の襟首を掴んで揺さぶる。
青柳の顔は真っ赤だ。
首も手も真っ赤だ。
「オレを殺す気か?!『別にそういうつもりじゃ』じわじわといたぶって殺す気か?!らしくねーだろ、らしくねーな?!いっそひと思いにオレを殺せエエー!!」
黒鬼は黄色い目を細めて、青柳の首にかかった灰色の首飾りを見る。
無表情に、だが、どこか満足気に。
「あ!!御堂青柳ッ!!」
木の塊の裂け目から、鋼色の髪の少年が顔を出していた。うねる根をぶちぶちと引きちぎりながら、木塊から足を踏み出す。
響いた声に、青柳は黒朗の襟首から手を離した。
真っ赤だった顔が、真っ白な能面へ、
陽を浴びた水面のような青い目が、闇夜の海へと変わっていく。
「………あ?」
月を連れた灰色の首飾りが、チリチリと震える。
「何だって…?」
「オレ、地獄の王に会いたかったんだけど、オマエにも会ってみたかったんだよね。正統な御堂一族の跡継ぎってヤツにさ。」
「…跡継ぎ……オレがか?」
「そうさ、御堂の神、水嘉多月と共に在る人間が正統な跡継ぎなんだ。あと、青い目を持っているのも特徴さ。」
「オレじゃねエ…。」
離れた床の上で、水色の蛇が青柳を見ている。
「じゃあ、あの父親と、兄貴が跡継いでくわけ?神の加護もないヤツらが?御堂の一族滅びるよ?」
「いい、それ、いいなァ、それ。」
青柳は、笑った。
心底愉快だというように、
心底不愉快だというように、
そんな顔をして笑った。
「オレは跡継ぎじゃあねェよ、その逆だ。御堂の一族は、みんな滅ぼしてやるんだからさ。」
「ふーん」
季忌は、そんな青柳を表情を変えることなく見ていた。
「わかった、そういうことなら、」
が、
「オレ、オマエを殺すよ。」
「ッ!!」
「オマエ、邪魔だから。」
ふいに宙に現れた無数の鋼の大柱が、青柳に襲いかかる。
消え失せた。
「?!」
火花が宙を舞っている。
「ハッ!」
青柳は嗤う。
鋭い白氷の槍の群れが現れた。
「季忌!!」
「やめろ青柳!!」
『…喧嘩か?』
黒鬼が、青柳と季忌の間に立っていた。
2人の間にあった、白氷は消えていた。
赤い火の粉が舞っている。
黒鬼は、首をかしげて、青柳と季忌を見た。
『喧嘩をしているのか?』
(?!)
青柳は、嫌な予感に震えた。
(まさかッ!!)
「ち、ちがうに決まってんだろ!全然ちがうぜッ!」
「そうだぜ、喧嘩じゃない!殺し合いだ!」
「ぶわかがあああああ---!!」
季忌の答えに、青柳は涙を流しながら叫んだ。
「…え?まちがえた?ごめ~ん!」
季忌は、がしがしと頭をかきながら笑う。
黒鬼の腕が伸び、手が宙をかき混ぜる。
『ダノクトでは、喧嘩したら、両方とも、半分灰にすることにしている。』
「ちょっ」
「なんて?」
『今、もうひとりの執行者がいないからな…』
灰色の城が、身を震わせる。
『牢で待っているがいい。』
宙に、真っ暗な穴が現れた。
穴から黒くて長いモノが、幾本も飛び出した。
ぼおっと赤く光り、火の粉を散らすそれは、青柳と季忌をスルリと掴まえた。
そして、穴の中へ、引き摺りこんだ。




