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黒鬼の旅  作者: 葉都綿毛
第二章 地の底の緑
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探しに






「あいつの声しか聞きたくねーんだ。」







白い髪、白い肌がまとう、赤玉石の数珠飾り。

身動みじろぐたび、石床にこすれて、じゃらじゃらと音をたてる。


それは、にひひ、と笑う。





「だってよ」




「おれを空から落っことしたのは、アイツだ。」




「だから」






にっこりと微笑むそれ。





「あいつが死ねって言うなら死ぬよ。」





闇の中、灰色の鬼は、黄色の目を細める。



『……そうか。』



黒朗くろうは、笑うそれを眺めた。

牢の小さな窓から射し込む月明かり



その、照らしきれない暗闇を眺めた。















ふわふわの銀色の髪をした赤ん坊は、むしゃ、と3つ目になる赤い瓢箪ひょうたんのような実にかじりついた。

格子柄こうしがらの群青の着物が、さらに果実から溢れる果汁で濡れた。

ト、ト、と灰色の小鳥が、近付く。

が、赤ん坊は邪魔とばかりに小鳥を叩こうとして、小さな手をぶんと振るう。

小鳥は、ト、ト、ト、と距離をおき、赤ん坊の側に転がっている赤い実をくちばしでつつく。




「ああ?何だって?」

『…服をとってくる。』

「あ?」

『…服をとってくる。…耳は腐り落ちてないようだが…。』

「腐るかッ!!」


樽の上で、胡座あぐらで座っていた青柳あおやぎは、目の前に立つ灰色の鬼に、目を細め歯を剥いた。

10才くらいの少年の姿から、15才の少年のそれとなった灰色肌の鬼の黒朗。

炎のように揺らめく灰色の髪から、灰色の一本角がのぞく。

優美な顔に、月のように煌めく黄色の目。

その身に纏う黒い着物は、元々くたびれていたが、銀髪の鬼、ラユシュとの戦いで袖が切れたり、穴があいたり、ボロボロだ。

茶色の袴も、背丈が伸びた黒朗には短すぎ、膝までしかない。

つんつるてんだ。


三夜みつよばーさんが、息子のお古をずらーって持ってきてたじゃねーか。」


神主も、村長も、嬉々として色々な着物を黒朗に見せていた。

これもいい、あれもいいわね、と彼を着飾るのを楽しんでいた。

けれど、黒朗は首を振るだけで、どれも選ぼうとしなかった。

ボロボロの着物に愛着があるのだろうか。

さすがに裸同然の姿になったら無理やりでも着せないと、目のやりばに困ると青柳は思っていた。


『…あれは駄目だ。人間の作った衣服では…』


黒朗は、着物の胸元をぐいと引く。

白く輝く渦が、衣と灰色の肌の間からぶわりと浮かび上がり、その光は、突風とともに、あたりに飛び散った。


「?!」


のけ反った青柳の、座っていた樽が破裂した。

水と布が吹き出す。


「何だ、今のー?!…つーか、アアー!!クソッ!」


ずぶ濡れになりながら青柳は、砕けた樽に地面を叩く。


【ダメだよー、集中しないとー】


異国風の赤い屋根の家に、ジグザグに掛けられた物干し縄を、するすると降りてきた水色の蛇が、鎌首を上げてにょろにょろと青柳に近付いてくる。


【まったく、青柳はまだまだだね~、全然だね~、僕がついてないとね~】


鼻歌を歌いながら、水色の蛇は、壊れた樽の一部に乗る。

こぼれた水と共に、樽の部品が元に戻った。

樽の中には、水と汚れた布。

ぐるぐると水は渦巻き、水の中から、白い布たちが飛び出した。

それは、次々と物干し縄に飛びかかると、自らをぎゅうぎゅう絞り………天日干しされた。

青空の下、気持ち良さそうに風と一緒にそよぎはじめる。


「クソッ!今日こそは、ヤツらを奴隷のように操ってやるって思ってたんだッ!…必ず、やり遂げてやるクソッ…!絶対にッ!寝ながらにすべてを操る力、手にいれてやるさッ!!」

『……。』


青柳は、先日の銀色の鬼との戦いの中、自分の血を硬質化し、操った。

水色の蛇によるとそれは、青柳の生まれた一族が受け継ぐ能力らしい。

その力は天候さえも操り、雨を、雪を降らせ、嵐を引き起こすこともできるという。

銀色の鬼の刃にも、毒にも耐え抜く硬化を、初めての力の発動でやってのけた青柳を、水色の蛇は褒め称えた。

青柳はそれに対して、「まあ、オレ天才だしな」と答えた。

それから青柳は、水色の蛇の元、その能力を使いこなすため修行中だ。

使いこなす目的が、ぐうたら寝ながら、家事を楽々でできるようになるためになってきてはいるが。





ふいに轟音が響き、地面が波打つ。





青柳の赤い屋根の家の庭に、巨木が生え立った。

突然現れたそれには、赤い瓢箪の形をした実が、たくさん実っている。

巨木の根元に、灰色の小鳥がちょこんと立っていた。

小鳥の足元から、ぼんやりと白く波打つ光が見える。

目を剥く青柳たちを、闇色の目で、じっと見返していた。

文句あるか、コラ? いいや、そうじゃない、呪ってるな、あれ。

赤ん坊が、四つん這いで木に近寄り、木をペタペタ叩く。

木が折れ曲がり、赤い実のなる枝を、すっと差し出した。


「キュアー!!」


赤ん坊は実にかぶりついた。


「な」

(何だありゃ?!)


声を上げようとして、禍々しい呪いの目に晒され、青柳は声も身体も固まった。


(さ、すが、変な生き物出しまくってた鬼の親玉だな!)


赤ん坊を、その枝で抱えあやしだした巨木。

毒を振り撒く銀色の異形を大量に生み出していた鬼の中にいたのが、あの灰色の小鳥だった。

魔に堕ちた神様のなれのはて。

ラユシュ老人の故郷で、世界を創ったと伝えられている、空色の目をした銀色の小鳥の神様だったらしい。

神様の愛し子ラユシュが鬼になってからは、ずっとラユシュの中にいて守り、力を貸していた。

けれど鬼の切られた腕から発生した、人間のラユシュ老人によると、殺戮を後悔し死にたいが、死ねないという。

だが、黒鬼と化し、あたり一帯を一瞬で焦土にしかけた黒朗に出会い、ラユシュ老人は黒朗に殺してほしいと願った。

その願いは、黒朗が、小鳥の神様を引き剥がして消しさることで叶った、はずだった。


(鬼が、赤ん坊になっちまうとかな。)


青柳は、その時のことは、気を失っていたので知らない。

黒鬼になってしまった黒朗を元に戻そうと、青柳は、竜神の白雲しらくもの力を借りて、神社の花酒(大樽3個、その他諸々)をかっぱらった。

そして、大量の花酒を操り、小さな水の玉にすると、竜神の加護と途中で青柳の身体に入り込んできた水色の蛇の力を身にまとい、黒鬼に飲ませるべく、頭上から飛び込んだ。

ラユシュ老人に封じられた虹色の玉の中にいた時、酒に酔って眠った黒朗。

安らかだったその顔は、人間と変わらなかった。

力では、黒鬼に青柳は敵わない、けれどこの方法ならば。


酒を浴びた黒朗は、すぐに灰色肌の鬼に変わったらしい。

同時に竜神が渦を巻いた水柱を、3本空から叩きつけた。

黒朗を、銀色の鬼を飲み込み、あたり一帯を覆ったそれは、竜神の癒しの水、すべての生き物を癒し、魔を祓う水。

死にかけた銀色の鬼にとって、とどめとなる水。

鬼は、溶けて水の中に消えていく。


水が引いた後には、赤ん坊がいた。

銀色のふわふわの髪、褐色の肌、目は開かずとも、きっと空色の。


赤ん坊は、青柳の赤い屋根の家に住んでいる。


そして、いつのまにか、黒朗に消されたはずの、小鳥の神様が、赤ん坊の側に姿を現すようになった。


姿は銀色から、灰色に変化しているらしい。

黒朗と同じく力を失っている状態だそうだ。



(どいつもこいつも嘘ついてんじゃねーぞ。)



わっさわっさと緑の葉を揺らす巨木を見ながら、青柳はため息をつく。

灰色が、本調子の色じゃないらしいというのは、身近な鬼がいるからわかった。

が、人間にとっては、


(ふざけんな、ってんだよ。)


灰色とはいえ、もう小鬼ではなくなった黒朗なんか、黒鬼に近い姿である。


(強くならねーと)


青柳は、黒朗を振り返った。



いなかった。



「ああ??!!」











『…痛い。』


黒朗は、つぶやいた。

黒朗の頭の上で、灰色の小鳥が、足元に向かって嘴を高速で突いている。


『離せバケモノ!なんのつもりだ!』


小鳥の灰色の足は、黒朗の炎のように揺れる灰色の髪にからめとられ動かない。


『…タラマウカへ行く。』

『勝手に行け!』

『…おまえも連れていく。』


一瞬、黒朗の姿が、灰色から黒へ、ゆらりと変わり、そして小鳥の姿も灰色から銀色へと変わる。

2体の姿は、すぐに元の灰色へ戻った。


『…フン。』


小鳥は、灰色の髪の中にうずくまると、目を閉じた。






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