残されたもの
鬼の牙に、喉笛を喰らいつかれた。
死ぬ…死ぬのか…
自分が?
(…ありえない。)
ラユシュ老人は思う。
金色の髪と目の人間たちの前
その王の前で
予言者の前で
殺された。
その時でさえ、生き返った。
何度も何度も
殺され
何度も何度も
生き返った。
「悪魔め!!」
ただ幸せに、愛した人たちと暮らしたかっただけだ。
「やはり、予言者の言葉は正しかった。」
「この男は、悪魔でありながら、神の子と偽り、この世に厄災をもたらさんとした!」
ちがう
ちがう ちがう
私は人間なのだ。
ただ、村で笑って暮らしていたかった。
ただそれだけだった。
病に苦しむ人を
泣く人を
治せた。
それだけの力だ。
ただそれだけの
それなのに
誰かを傷つけたいと、滅ぼそうなど考えたことはなかったんだ。
それなのに
「死なない!!どうすれば死ぬのだこの悪魔は?!」
「どうすればいい、予言者――――――」
金色の
侵略者たちよ
私の仲間を殺し、亡骸を物のように踏みつけ
財を、土地を奪い、笑った者たちよ
私は、
私は、
オレは、
オレは――――――――――――――
銀の鬼のなか
怒り、憎しみに、ラユシュは目を細めた。
(元に戻るだけだ…)
視界の端に映るもの。
(なんて顔をしているんだ)
ラユシュを見る青柳の顔に笑った。
心の中で。
もう、ラユシュの身体は、命溢れる泉に触れる前の、干からびた褐色の腕に戻っていたからーーー。
ごぎり
その腕は、からみつく銀色の触手に爪を立てる。
失った故郷を求めて、さまよった。
たどり着いた場所
緑あふれる
笑顔咲く
さわがしく、おだやかな、暮らし
守る
今度こそ
青柳の身体を、紅羽の身体を、春風の身体を、ふわりと、地面から飛び出た虹色の玉が包み込む。
それは、ふわふわと浮かび、銀色の大樹の枝が、根が荒れ狂う虹色の障壁の中を飛び出した。
【青柳が~!?】
銀色の根に身体を巻き付けながら、水色の蛇が悲鳴を上げる。
〈………!!〉
増える枝から、枝に飛び移りながら、赤い狼も空を見上げる。
小さな灰色の影が、ぽつりと地に立つ。
金色の
優しい
まがまがしい
きんいろ、の、め
『『『コロしテヤルきんいろおオお!!』』』
銀色の大樹から、地から、叫びが噴き出す。
虹色の障壁の中、蛇と狼と、小鬼が、銀色の大樹と化した鬼と対峙する。