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黒鬼の旅  作者: 葉都綿毛
第一章 銀の訪れ
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灰色の小鬼

その村には、鬼がいる。



鬼だから、肌の色からして人間と違う。

全身灰色だ。

髪はない。

というか毛髪のたぐいは基本的に生えないらしい。

つるハゲだ。

鬼に必須の角は、その額の真ん中に小さいのが一本。

それも灰色だ。

目はふくろうのようにまん丸で黄色、

歯はギザギザ。

身体は10才の子供くらいの大きさ。

編み笠を頭にかぶり、膝下まである黒い上衣に、わら色の腰帯を巻き付け、藁色の袴をはく。

灰色の裸足に黒い靴を履いている。



名前は、黒朗くろう



村外れの神社に神主と住んでいて、時折、薬草を売りに村人たちが行き交う川沿いにやってくる。

その場所は、野菜や魚、着物や木細工などを売る市場になっている。

黒朗は、その場所から離れたところにある大きな木の下にござを敷いて座る。

目を見開き、身動みじろぎもしない、川面の魚を狙うさぎの様である。

黒朗の存在に気付いた村人たちは、ざわり、目を向ける。

恐れの目、怒りの目、猜疑の目。


灰色の小さな鬼は、無表情に座っている。



「おい、この前の薬くれろ。」


しゃがれた声は、村外れの山中に1人で住んでいる三夜みつよ婆さんだ。

短い白髪頭に、小さな身体のしゃきっとした元気な80代だ。


「まあ、まあ、良かったからな。ああ、でも金は今日持ってくんの忘れたからな、今度な!」


濁った目を細めて、顔をしわくちゃにしてニヤリと笑う。前もそう言って、金は払われてはいない。


『……。』


黒朗はゆっくりと荷物から、薬草を探す。

婆さんは、近くの石に腰を下ろした。

三夜婆さんはドケチで口も悪く、おまけに手もでる、迷惑婆さんだ。

婆さんは、ふと黒朗の横にいるモノに目を向ける。

あきれたような目だ。


(ハッ、三夜婆さんに薬って必要ねーだろ。この前なんか、出会い頭に一発拳を腹に叩き込まれたんだぞ。)


青柳あおやぎ~、てめえは何しとる?」


石つぶてのような握り拳が、黒いモノに振り下ろされた。


「イッテェェーー!!」


もうダメ、絶対割れてる、頭割れてる~!と、

三夜婆さんに殴られた頭を抱え、青い目に涙を滲ませるのは、痩せ気味の15才ほどの少年だ。

長い黒髪を頭の後ろで1つにまとめ、膝までの紺色の上衣を茶色の腰帯でくくり、紺色の股引きをはく。

その腰には、黒鞘の長刀がガタガタとぶら下がっていた。

細い身体には似合わない、重そうな刀だ。


「オマエはいっつもいっつも、若いくせに何寝てんだ!」

「…あ~!?この化け物についてろって、村長に勝手に押し付けられたんだぜ。こんないい天気の日によ!虐待だよ!オレは寝てたいのに!!」


青柳の枕になっていた木箱が、婆さんの蹴りで飛んでいった。


「ふざけんな!くそババア~!」


青柳の叫びが木霊こだまする。


青柳は、黒朗が薬を売りに来る時は、村長命令で付き合わされる。

灰色の小鬼が悪いことをやらかさないか、青柳は見張る役なのだ。

だから今日も灰色の小鬼と一緒にいた。

けれど、青柳にやる気はない。

青柳は、引きこもりである。

常々家でぐうたら寝ているのである。

だからやはり、今日も灰色の小鬼の側で、寝て過ごすのである。


『…ミツヨ、これでいいか。』


黒朗は、三夜婆さんに包んだ薬草を手渡した。


『金はまた今度でいい。』

「そうかい?」

『ミツヨ、元気になれ。』

「…フフ、ありがとねぇ。」


それから客は来なかった。

いつものことだ。

青柳はゴロリと昼寝をし、

黒朗はただ座っている。







『…アオヤギ、今日もありがとう。』




夕暮れ時、黒朗と青柳は、一緒に神社までの道を歩く。


「村長に頼まれたからだよ、でなきゃオマエみたいな化け物と一緒にいねぇ。」


青柳は、興味なさそうに、周りに広がる田んぼを見つめながら答えた。


風が吹き抜ける。



『…それでも…。』



鳥居の前、長い影が伸びる。



『…嬉しいんだ。ありがとう。』



灰色の小鬼は、無表情にそう言った。


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