1.彼氏に振られました。
ぽつぽつと空から雪が降る日。吐く息は白くって、ふーっと両手に息を吹きかける。
目の前の幼馴染は、心なしか顔が赤い。妙な緊張が二人の間を走り抜ける。
「好きなんだ、藍のこと」
胸がどきんっと高鳴った。ずっと好きだった彼。返事を返さなきゃいけないのに、うまく言葉がでてこない。
思わず腕を組んで、思いっきり上から彼を見てしまう。
「ごめんなさい、私、完璧な男としか付き合わないの」
これが私の悪い癖。素直になれないバカな自分。
目の前の幼馴染の瞳がすぅっと暗くなった気がした。
多分、自分の素直のなさに磨きがかかっていたころだったと思う。
気持ちとは裏腹のことを言ってしまった今でも憎い。
それから彼を長く見ていない。
家も隣だった彼は、どこか遠くに引っ越してしまったらしい。
----------これが私の黒歴史。暗い暗い中学時代。
それから10年。
美人に磨きがかかったと思うし、仕事も順調の……はずだった。
「ごめん、別れてくれ。」
「は?」
3年ほど付き合っていたバンドマンの彼に別れを告げられた。
いや、正確に言うと、付き合ってあ・げ・て・た、だ。
顔は、まあまあ良い。顔だけは私にふさわしいはずだった、けど。
「なんか、疲れちゃったんだ。お前のわがままに」
疲れちゃった?この私に?
「顔だけは、きれいだったから一緒に居たけど……もう限界なんだ」
限界?この私に?
永沢 藍。27歳。ただ今彼氏に振られました。
☆☆☆☆☆☆☆
まあ、顔は美人なほうだと思う。自分でも。
毎日サツマイモとおかゆでスタイル維持はしてるつもりだし、
パックでお肌もつるつる。シャンプーはいいものを使ってるから、髪もつやつや。
なにより親から受け継いだ、顔のパーツのよさ!
自分で見ても惚れ惚れするくらい……
「あんたさぁ、そこまでいくともう痛いよ?」
目の前の親友、葉月は言う。
なかなかサバサバしたことを言う彼女とは長年の付き合いだ。
だからこそ、いう事も遠慮がない。
「うっさいわよ。しょうがないじゃない?こんなに美しい私が……」
「わかったから。それで、そのあとどうしたの?」
ふーっと目頭を押さえる葉月。これでも、私の事を心配してくれてる、はず。
「水ぶっかけて、股間けって、逃げた。」
ぶっきらぼうに言い話して、手にある日本酒を一気飲みする。
葉月のため息はさらに深くなった。
「しょうがないじゃない。私を振るのが悪いのよ……今さら振られたことなんてなかったのに」
「あんたさぁ、自分の立場わかってる? 27歳で独身、彼氏なしだよ?」
27歳、独身、彼氏なし。その言葉が胸にグサッと突き刺さる。
言葉にされると、意外ときつい。更にまた日本酒を飲み干す。
「ああああ、うっさいうっさい!」
じたばたと手足を動かす私。
そんな私に葉月は仕方なくといった感じで、答える。
「分かったわよ。黙って付き合ってあげる」
結構、辛辣な事を言う彼女だが、根はやさしい。
ふっと笑って、空っぽになった日本酒の瓶を追加注文してくれる。
「今夜は飲もう。」
こうやって付き合ってくれる彼女だから、言葉にはしないけど、感謝してる。
……言葉にはしないけど。
お久しぶりです!
無愛想だけど、世話焼きな男の子が振り回される話が書きたくなったので……(笑)
思わずニヤニヤしちゃうようなお話を書きたいです。
不定期&亀更新ですが、よろしくお願いします!