02-06b 影響の話し
---Side・ホセファビエル
「何だと、ヴィジェーヌが近衛に捕まっただと?」
「は、はい。何でも勇者様とエウジェーニア様が御登城され、その進む先を塞いだ上で、道を空けろと言ったとかで」
チッ、馬鹿が。
エスコフィエ侯爵家の後継は頭が弱いと聞いて、ヴィジェーヌを足掛かりに、やっと侯爵家を派閥へと引きずり込めるかと思ったが、そんな事で転がり落ちるとはな。
頭が弱いにしても、程があるだろうに。
エウジェーニアは第一王女だからな、王族への不敬罪と取られるだろうが、歩みを塞ぎ暴言を吐いた程度であれば未だ、俺が動けば減刑も出来ただろうし、それを貸しに侯爵家を取り込む事も出来たかも知れんが、勇者にもとなれば流石に、減刑に動けば教会からの反発も受けかねないし、王も赦しはしないだろう。
それどころか、俺の派閥だって事で、俺にまでとばっちりが向きかねないな。
くそが、勇者だか何か知らないが、どうせ神から与えられた神器なんて物頼りのクズだろうに。神にしろ、教会にしろ、王にしろ、馬鹿貴族共にしろ、俺の邪魔ばかりだ。
大体、一番邪魔なのはエウジェーニアだ。
巫女になったなら、とっとと継承権を破棄すれば良いものを、何時までも持ち続けてるから、俺よりもエウジェーニアの方が優秀だの、王位に相応しいだのと、巫山戯た事を言う馬鹿が尽きないんだ。
そもそもが、長子である俺が王位を継ぐで良いだろうに。それを、やれ世界神が認めた存在だの、性格も良いだのと。
エウジェーニアさえ居なければ、後は未だ成人するまで何年かあるんだ、それまでに王さえどうにかしてしまえば済むが、ヤツが居る内だと、下手をすれば今よりも、ヤツに王位をなんて、巫山戯た声が増しかねない。
折角邪魔なヤツを生んだ問題の根源を利用して、魔素薬が有効だってのがハッキリしたというのに。
俺がストロエフごとき小国の王と、面倒な取引までして魔素薬を用意し、半年も掛けてやっと成果が出るところだったというのに。
「クソがっ! どいつもこいつも邪魔ばかりしやがって」
俺が王位を持てば、魔素薬の技術を持つストロエフを先ず攻め、その技術を占有出来るんだ。禁忌だ何だと馬鹿げた事で、澱んだ魔素の扱いが得られない現状では、一気に世界に覇を唱えられるというのに。
そもそもあの技術は、ストロエフごとき小国では無く、俺の此の国の様な大国こそが相応しい。しかもだ、禁忌だと言う様な馬鹿共では無く、俺の様にその有用性が分かる者にこそ相応しいんだ。
禁忌だろうが何であろうが、所詮は小国、都市国家でしか無いストロエフから、魔素薬製造の技術を奪い、それを使い目障りなフルトクヴィストを落とせば、後は目障りな獣人《畜生》共の国、ブリーゲルへと攻め込める。
獣人共など所詮は、人の姿をした獣でしか無いんだ。あの無駄に多い体力は、先兵として使い捨てるに十分だ。
澱んだ魔素の扱い方と、獣人による捨て兵を得れば、後は一気に世界へと覇を唱える事が可能だろうし、教会なんていう目障りな奴等も、黙らせる事が出来るだろう。
神なんてのは所詮、人の成す事など興味も無かろう。禁忌だ等と言ったところで、そんなものは勝手に綺麗事をぬかす馬鹿共が、偽善で主張してるに過ぎないだろうに。
使える物を使い、利を得る事に何に問題があると言うのか。
「あ、あの、王太子殿下、ヴィジェーヌ様の件は・・・」
ああそうか、こいつに何も指示を出していなかったな。
「ヴィジェーヌは捨て置け。
今俺が動けば、俺の派閥の問題だと、騒ぐ馬鹿共も居るだろう。ヤツが勝手にやらかして、勝手に自滅しただけの話しだ。
今回の件は、あくまでもエスコフィエ侯爵家の問題であり、俺の派閥は一切関与しないのが良かろう。
・・・いや待て、むしろエスコフィエの話しが表面化したら、徹底的に罵ってやれば良いだろう」
「はい、承りました」
ふん、そのくらい自分で考えれば良いものを、ヤツも使えんか。
本当に、どいつもこいつも使い物にならないヤツばかりだ。伺ってばかりでは、機を逃す事もあるというのに。
まあだからこそ、俺が上に立ち、覇を唱える事も出来るというものだがな。
それにしても勇者とエウジェーニアか。
王宮詰めの薬師や治術師にさえバレなかったのだ。大丈夫とは思うが、登城したという事は第一王妃の話しも出るかも知れんな。
ここは体調急変でもしてもらい、第一王妃には早々に消えてもらった方が良いかも知れないな。
---SideEnd
◇ ◆ ◇
---Side・エルドゥアール
「侯爵! 一大事で御座います!」
輔佐であるセヴォールが大慌てで飛び込んで来たのは、執務室で執務中の事であった。
普段は冷静と言うよりも冷徹ではないのかとさえ思うセヴォールが、ここまで取り乱す事は珍しい。それだけの事が起きたという事か。
「何事か?」
「ヴィジェーヌ殿が、不敬罪及び不遜罪で捕縛されたと、王城より緊急連絡が!」
「む、不敬罪と不遜罪だと?」
聞けば愚息が、王城で事もあろうか、登城された勇者様と、エウジェーニア第一王女殿下の行く先を塞ぎ、更には道を空けろ等と発言したという。
最近王太子派に勝手に属し、我が侯爵家の嫡子である事を鼻に掛けた行為が目立つと報告を受けていたが、そこまで愚かであったというのか。
そもそも、王太子派に属した時点で既に、あ奴は見限るつもりではあったが、まさかその様な暴挙に出るとは。
「勇者様とエウジェーニア殿下には、侯爵家として急ぎ、最大限の謝辞を示さねばならんな。
勝手に動く訳にも行かぬ。王宮にその旨伝え、謝辞を示す機会を得てもらえ」
「はっ、それは承りましたが、ヴィジェーヌ殿はいかが致しますか?」
「いかが、と言われてもなあ。
その様な暴挙を行う者など、廃嫡の上で侯爵家籍から抜く以外に何があるのか?」
「ですが、ご嫡子ですぞ」
「嫡子であろうが、罪人は罪人であろう。
愚かな行為をしたのであれば、その罪は自らの身を持ち償うべきものだ。
そもそも、その本質を我が侯爵家が曲げてしまえば、民に顔向けなど出来様も無かろうに」
貴族だから優遇されるだ等となれば、人心は離れ、貴族としての本分を失う。愚か者の所為でそうなる事は避けねばならんだろう。
「王宮にはその旨、連絡する様に。
我が家はヴィジェーヌを廃嫡とする。我が家の嫡子であるからと、減刑など一切不要であると確実に伝えよ」
「ははっ、確かに承りました」
出生による家柄を、自分の力だと勘違いする様な者など、我が家には要らん。
侯爵家という立場である以上、その本分と責務を見失うなど、あってはならん事だが、さてあ奴の教育係は、何を教えて来たと言うのか。
---SideEnd




