01-30 職の話し
例えば、放って置くと数が増え、人的被害も出るゴブリンを例に挙げると、常設依頼報酬としては一体討伐で青銅貨二十枚。それに通常だと、角も青銅貨二十枚、魔石が青銅貨五十枚だから、一体当たり青銅貨九十枚になる。
まあ、角や魔石といった素材の売却価に関しては、市場状況とかで変動があるらしいから、大体このくらいって感じみたいだけど。
で、例えば屋台で売ってる串焼きとかの食事物が、大体青銅貨五枚から十枚くらいらしい。一回の食事で二、三品買うとして、青銅貨十五枚から三十枚、一日二食として三十枚から六十枚。
これに昼食を干し肉とかで済ませるとしても、結局のところ一日辺り黒鉄貨一枚、つまり青銅貨百枚くらいはかかる訳だ。
一般的な安宿が、大部屋--基本雑魚寝--素泊まりで黒鉄貨三枚くらいらしいから、一人辺りゴブリンを一日四体斃してトントンな感じになるね。
これでパーティーを組んでれば、その分人数割りになるから、当然多く斃す必要があるけど、聞いた話しだと一日で、ゴブリン五体から十体くらいの達成報告が多いらしい。
不足分は薬草採集や、他に多く見かける兎系や狼系の魔物討伐で稼ぐ事になる。それでもギリギリな感じになるんだろうねえ。
そうなれば当然、装備品のメンテとかにかける余裕も無いし、治療薬とかの消耗品もかなりギリギリになるだろう。
救済処置的に、ギルドが雑魚寝部屋を用意しているらしい。
それがギルド直衛の酒場兼食事処での二食付きで、一泊黒鉄貨二枚。まあ、半分くらいで生きてはいける感じになるっぽいけど、それでもなあって感じ。
うん、青銅ランクだと本当に厳しいんだなと思う。
とは言え青銅ランクは、謂わば探索者としてはお試しランクみたいなものだから、仕方無いって言えるのかもね。
厳しくても、堅実に実践経験を積み重ねて行けば、ランクは上がって、高い報酬の依頼を受ける事も出来る様になる。逆に言えば、ここで無茶をして、依頼としては受けられなくてもと、身の丈に合わない魔物を討伐に行けば、その分命の危険は格段に上がるだろうし、そんな無茶をする探索者であれば、どっちにしろ長くは保たない。
この世界では、此処みたいな都とか、大きな町では外壁とかに囲まれていて、その中で生きている分には比較的安全だけれど、村とかだと木柵で囲まれている程度になるから、普通に生活しているだけでも魔物に襲われる可能性もある。その結果、小さな頃に既に、魔物と戦った経験を持つ人とかが、探索者になる為に町とかに出て来る事も少なくない。
そう、この世界に生きる人達だと、探索者になる以前から、どの程度の魔物なら自分が戦えるのか、分かっている人の方が多いんだよ。
だから、その基準以上の魔物を討伐しようなんて場合は、壁の中で育って来た身の程知らずか、ある程度出来るからと調子付いた人になる。そういう人が例え命を落としたところで、探索者は自己責任だからねえ。
実際には一ランク上までの依頼は受けられるから、青銅Ⅰでも黒鉄Ⅰの依頼を受ける事は出来る。実力さえあれば、それなりに稼ぐ事も可能ではある辺り、シビアだなあとも思うけど・・・元の世界みたいに実力云々じゃ無くて、学歴とか年齢で、出来る事を制限されるのと果たして、どっちが良い社会なんだろうなあ、なんて事も考えちゃうのは、あの経験の所為なんだろうけどね。
まあ良いや。そういう意味では今の僕は、もうあの世界、あの国とは関係無い訳だし、どっちが良いとか考えても意味無いからね。
探索者だけじゃ無くて、他の職業もそう。
多くの職業が、そこに就く為には小さい頃から、そこに属すと言うか、大体十才から十五才の間に家業の手伝いとか、見習いとして下働きして、十五才の成人から一人前と言うか、正規職業に就くみたいな感じになってるのもあって、僕みたいに突発的に職に就かなきゃな場合は厳しいけど、逆に言えばこの世界って、『え? この職業で何でその学歴必須?』『何でこの募集で、経験よりも新卒優先なの?』みたいな、その職業要素以外をほとんど求めていないからなあ。
むしろ、その職業での経験こそが重視されるから、最初の選択--その時点で十才って事と、そもそも家業云々って環境もある訳だから、自由度が少ないけども--さえ間違えなければ、仕事に困るのなんてそれこそ、その人の事情とかになって来るだろうし。
そこに食い込む感じになるのが、探索者であり傭兵になる訳だね。
条件だけで言えば奴隷もそうだけど、奴隷は流石に職業って言うのは躊躇われるからなあ。
でも実際のところは、奴隷って重要な労働力なんだよね、この世界では。扱いの問題はあるにしても、それは事実なんだ。
探索者や傭兵こそ、体力的な事とかも考えれば、若い内からやるべきだろうけど、実際には就いてた仕事の流れから外れたり、それこそ貴族家の三男や四男とか家の事情で、ある程度年が行ってからでも就ける訳で、ある意味救済にもなってるんだよね。
僕自身も助かった部分はあるし。
ぱっと見だと、探索者も傭兵も戦闘職だけど、実際には探索者だと斥候的な、所謂情報の収集だとか、あるいは素材採集でもやって行けるし、傭兵だとそれこそ自警的な、村や農地の警備員的な事とか、商人と組んで専属的な守護職でもやって行ける。
何しろこの世界だと、村に住んでても何時魔物や盗賊に襲われるか分からない訳で、そういう意味では前提が違う。探索者や傭兵にならなくても、同じ危険から逃れられない事を考えると、やり方次第では決して条件の悪い仕事でも無いと思う。
まあそれでも、上手くやって行けずに落ちぶれたりする人達は居るっぽいけどさ。それは個人の問題も大きいんだろうからねえ。
考えてみれば元の世界でも、表向き危険とかが無かったのは、その仕事の所為ってよりも環境の所為だし、そういう環境的な条件をふまえてみると、実はこっちの世界の方が、仕事条件が良い気がするのは、僕が力を持った種としてこの世界に来たからかも知れないけどさ、それでもやっぱり、そのあたりが、元居た世界で異世界ものとかがそれなりに人気だった理由の一つとして、あったのかも知れないと思う。
もう関係無い世界ではあるけど、あの世界では十五才のガキだった僕の周りでさえ、将来に希望なんて持ってるヤツ、ほとんど居なかったからなあ。むしろ悲観したり、希望なんて考えずに流されるだけってヤツの方が多かったし。




