01-26 杖事情の話し
「それでもやっぱり、メイスは無いわあ」
僕は目の前で地に伏している、草原狼っていう魔物の死体を見て、改めてそう思う。
ニアによって斃されたグラスウルフ、その死体の状況は、頭が潰れて血とか色々飛び散り、素材として売れる部位である毛皮には、色々と赤黒いのとか白いのとか・・・あんまり直視したくない物塗れになってる。
そして言うまでも無く、その結果を起こしたニアも返り血とかを浴びてる訳だし。
うん、マジでグロ怖いぞ!
いやまあ、生活魔術の清浄を使えば、そうした汚れ? とかは何とかなるんだよ。なるけどさあ、そういう問題でも無いよね。
それに、綺麗にしたらしたで、この潰れて色々あれな頭の状態が、もっとはっきり見える様になるって事だよね。
実際魔物を、人型のを含めて斃し・・・いや、言葉を飾らずに言えば殺してみたけど、種族と言うか存在として上位になったからなのか、あるいはこの世界に適合した影響なのか、何も感じなかったとまでは言わないけども、それこそ気持ち悪くなったりとか、嫌悪感を感じたりとかは無かった。
でもねえ、流石に見た目グロい事とかには感情も動くんだよ。それでも元の世界に居たままの状態だったら、こんなんじゃ済まないだろうってくらいには平気なんだけど、それでも見たい訳では無いからね。
平気だからって、あえて見たいと思う? 見た目のインパクトは、軽ければそれに越した事は無いと思うんだよ僕は。
「ですけど、えっと・・・私は剣とかは、あまり得意では無くて」
得意じゃ無いって言うよりも、ニアの場合は長柄武器に適正があるって言うか、長柄武器の扱いで慣らしてきた結果って感じかな。まあそれ以前の話しとして、ニアと言うか魔術師や治術師の多くは、魔力発動体--魔力拡散を防ぎ、魔術効率を上げる--としては基本形の長杖や杖から始める訳だ。
この世界では魔術師や、それこそ一部の治術師でさえ、後衛にいて守られるだけというスタイルは取らない。その為ある程度の力を付けると、戦長杖や戦杖へと持ち替える。
ニアの場合は、万一勇者召還が成れば、その勇者の伴をして魔王との戦いにも参戦する事を想定して、より打撃攻撃力を持つ金属性のメイスに持ち替えたんだそうだし。
ちなみに、あまり攻撃的な魔術を得意としない魔術師や、魔術師を名乗れるまでの魔術を扱えない人なんかは、メイン武器を別にした上で、短杖をサブで持つ形になるらしい。その為単なる長杖や杖を使っているのは、未だ見習いで、魔術を学んでいるレベルに居ると見られるんだそうだ。
「ですが、槍は薙ぎ払いも可能とは言え、基本は突きですし、ハルバードや長柄斧では、流石に重量が・・・」
いやあ、ハルバードやバルディッシュは大物過ぎるでしょ。狭い場所では取り回しに難があるだろうし、魔力発動体としても重量があり過ぎる。
でもなあ、ニアの使っているメイスは、スパイクみたいなので刺さるとかっていう、凶悪仕様じゃ無いから、魔物の頭を狙ってても結局、何度か打たないとダメだったんだよ。だからこその惨劇と言うかグロい結果な訳だし。かと言って、あんま凶悪仕様な見た目のを持って欲しくも無いしなあ・・・。
改めて見ると、ニアのメイスは確かに造りこそゴツいけど、それでも銀って言うよりは白金って感じの白っぽい金属に、持ち手の部分は赤味の強い木製で、部分部分に金色の金属が飾りの様にあしらわれた、儀仗って言っても良い感じの作りだ。ニアは巫女だった訳だし、機能だけじゃ無くて見た目も気を遣って作られたのかもね。
それでもやっぱり、ゴツいのが気になるなんていうのは、僕がこの世界の厳しさを、未だちゃんと受け入れ切れていないからなのかもだけどね。
『マスター、それならばお持ちの杖を、奥方用に使う事をお勧めします』
いやまて、奥方って・・・。
ん? あれ、そう言えばカイって、世界の記憶をデータベースにした人工知能《AI》みたいなものだよなあ。この場合の指示操作は僕の認識とか意思とかだろうし。
そんなカイが、ニアを奥方って言うって事は・・・どういう事だろ?
それに杖って。確かに後回しにしてて、この世界に来た時点で持っていた、と言うか持たされたんだろう物については、未だ殆ど確認して無かったけど、杖なんてのもあったのかあ。
ん~と、とりあえず頭の中でインベントリを発動するイメージをする。インベントリは人の上位種から持つ能力、拡張空間を管理する魔術というか、補足能力みたいなもの。
そもそも人も含めた存在は、自分っていう存在の枠を世界に持っていて、人クラス迄の存在だと、それはこの世界に存在するに相応する枠に、少し余剰がある程度らしい。
まあ良く分からないけど、僕みたいに肉体の枠に制限された神は、その存在枠が余りまくってる状態になるんだとか。で、その余った自分の枠がイクスペースで、空間と言いつつも自分っていう存在範囲だから、それも自分の枠として使える訳だ。
で、その空間枠の一部を物品の収納先として使うのが収納空間・・・って、そんな事はどうでも良いんだよ。呼び名とかどうでも結果は変わらないし。要はそこに何か色々入ってるのは、カイとのやり取りで知ってはいたんだ。
ただねえ、昨日はもう世界神絡みは疲れたし、何故かはまあ分からない以前に予想の範囲内で、これも世界神がやったんだろうけども、僕がこの世界に来た時点で服装とか色々変わってたんだよね。そこには剣とかまで装備状態だったし、とりあえず困らなそうだから、持ち物確認を後回しにしてたんだ。
現実逃避? その通り!
でもさあ、それ以前に知らないといけない事とか、分からない事とか、不安だから押さえておきたい事とか色々、本当に色々あるからね。また何かやらかしてるかもな世界神絡みは、正直小出しで知って行かないと、精神的に保たないんだよ。
実際、この世界に来て変わってた服を含めた装備一切さえ、未だ意識して詳細確認して無いし。
まあでも、そんな中に杖もあるのかあ。
どうなんだろうね。あの世界神が用意した物なんだろ? ニアに使わせて大丈夫なのかねえ。
まあ既に、疑似空間収納の腕輪と、静域のローブっていう魔道具を、ニアに渡しちゃってるんだけどさ。




