01-23 常識外による結果の話し
「そもそもさあ分解って、何を基準に部位毎に分けてるんだと思う?」
「ええとそれは、魔術を使う人が求める分け方、ではないのですか?」
うん、普通はそう思うよね。僕みたいに世界の記憶っていう、要は人の意識や認識の最大公約数、平均的見解っていう代物の存在を知ると、人が一般的に行う解体の結果とか、そういうのを再現させる魔術だっていうところまでは、ある程度考えが至ると思うんだ。
でも、僕は見たんだよ。探索者ギルドに行くまでの商業区、と言うよりも肉屋で、分解を使って部位毎に分けているところを。
そこでは確かに、肉や骨、皮といった感じに魔術で分割されてたんだけど、固まり残ってた血の欠片とかが消えてたんだよね。
じっくり立ち止まって見た訳じゃ無いけどさ、要は“人にとって意識の外”になる様なものは、分解が発動した時点で消えたんだ。
だから、カイに聞いてみて、この世界の人達の生活魔術に関する・・・いや違うな、魔術そのものに対する認識が、根本的に間違っている事に気が付いちゃった訳だ。
それこそ“分解”を例に挙げると、そもそもその魔術を分解って名付けたのは人なんだよね。誰が、とかそういう話しじゃ無くて、人の認識としてその魔術は、分解する為の魔術だっていう前提で認識されて来た。
でも実際はさ、人がイメージする基本分類に則って“残し分ける”魔術らしいんだよ。
まあこれは、実際にやってみながらの方が分かり易いよね。
「通常このゴブリンを処理する場合って、討伐証明部位の左耳を切って、売れる部位の頭の角を取る。後は胸の処を切り開いて、心臓よりやや中央寄りにある魔石を取る。
最後にアンデッドにならない様に、可能であれば燃やすか、最低でも手足と首、胴体を切り分けて終了。で良いんだよね」
「はい、そうなります。
ただそれは、生活魔術の分解が扱えない人の場合で、扱える場合は左耳と角、魔石、その他に分解します」
「そう、あくまでも生活魔術でやるか、自分の手で解体するかの違いで、結果は変わらない」
「はい、そうなりますね」
「つまりさ、ゴブリンの解体基準は自分の手でやった場合で、その基準に則って生活魔術の分解による結果にもなってるんだよ。
だってさ他の、例えば肉が売れるとか、毛皮が売れる魔物なら、同じ分解での結果も変わるでしょ」
「そうですね、確かに違います」
そう、この違いってのが結構大きい。
それに加えて、僕が肉屋で偶々目にした、人が意識していない、血の塊の欠片の様な部位と言うか、物質の消失。
そこから導き出せるのは。
「要はこの分解っていう生活魔術はさ、こういうものなんだと思うんだよね」
僕はイメージを固めて、分解の魔術発動を意識すると、次の瞬間にはそこにあったゴブリンの死体の内の一つが、左耳と角、魔石を残して消失した。
「え? ええっ! リク様、一体何が起きたんですか?!」
「まあ落ち着きなよ。でもまあ、思った通りだったなあ。
解体の結果基準で部位に分解されてたのはさ、その解体の結果っていうのが、発動のイメージになってた所為だと思ったんだ。
で、意識が向かなかった、あるいは無意識で要らないと思ってる様な部分が消失したのは、同じ生活魔術の清浄と同じ」
「清浄ですか」
「そ。清浄の場合、人が認識する汚れとかが消える、つまりは土埃だったらその汚れである土が消える訳でしょ。だから汚れが落ちた事になる」
「そう言われると、そうですね」
「消えるって言うのはさ、魔素に還元されたから、消えた様に見えるだけなんだよ。
だから僕は今、ゴブリンの左耳と角、魔石以外を“不要な物”というイメージで分解を掛けたんだ。結果としては、必要な部位が分解されて残る結果と、不要な部位が魔素に還元されて消える結果として現れたって事だ。
これで一々、残りを燃やしたり、バラバラにする手間も掛からない」
そもそも、幾らアンデッドっていう--死体や魔石に、大気中や地中から澱んだ魔素が集まり蓄積され、所謂ゴーレムの様な状態として、命の無い--魔物が生じるのを防ぐ為とは言っても、燃やすというのは意外と難しい。
それこそ森の中で魔物を斃せば、それを燃やせるかは周囲の環境に依るし、燃やして処理している間に、他の魔物に襲われる可能性もある。
かと言って、部位毎にバラしたところで、その血肉の匂いとかで、他の魔物を呼び寄せかねないんだよね。
だからそういう後処理も、あくまでも推奨されているだけで、絶対的なものじゃ無い。けど場所によっては、後処理をしなかった結果、大量のアンデッドが生じて、近隣の村が襲われるなんて事もあったりする。
まあ、それはそれとして。
「やっぱりこの世界の認識というか、そういうものだとされてる事が、間違って常識化してるケースって結構ありそうだよね」
「そう・・・ですね。そうなのかも知れません。
実際こうして見せられてしまうと、リク様の仰る事に頷くしか無いです」
「まあこの世界だと、事細かに検証するって事もあんまり無いだろうし、こういうものだろうで使ってて、困る訳でも無いから、仕方無いんだろうとは思うよ」
この世界じゃ、流石に効率性だとかって考え方も、あんまりしないだろうしね。
真実の追究だとか言っても、そもそも追及出来るだけの余裕がどれだけあるかって話しになるし、それ以前に魔術や、そこから派生する魔道具の所為で、中途半端に便利な部分もあるから、そこで満足出来ちゃっても仕方無いだろうし。
「ですがこの事が広まれば、アンデッドの被害も減りますね」
「あ~、まあそうなんだろうけど、僕は今回分かった事を広めるつもりは、今のところ無いよ?」
「え? 何故ですか?!」
「理由は簡単。先ず第一に、これが正しい事を証明するのが難しい事。
これまでの常識が違うって分かっても、人はそう簡単には、新しく分かった事を受け入れないものだよ。
それにさ、多分難しいと思うんだ」
「難しい、ですか」
「そ。魔術はイメージの結果でしょ。
これまでの固定観念、解体っていう実手順によるイメージ像がさ、魔術の発動を邪魔すると思うんだよね」
それに、規定理論になってるそれを否定出来る存在なんてさ、それこそ何者かって事で悪目立ちするだろうしねえ。
「僕達が楽になる。それで良いんじゃないかな。
それに、今日はもっと色々試すけど、ニアにとっては驚く結果も、未だ出て来ると思うよ。
悪いけど、多分帰る頃には、ニアの考えも変わってると思うなあ」




