01-21 都を出る話し
あけおめです。本年最初の投稿となります。
「それで、ミラージュとはどういう意味なんですか?」
探索者ギルドでパーティー申請も終えて、僕とニアは今、ギルドの向かいにある食事処で、一寸早目の昼食を摂る事にした。
予定よりギルドで時間掛かったから、今から試しの為に外に出ると、昼抜きになるからなあ。
ちなみにこの世界では、多くの人は一日二食らしいけど、探索者とかの所謂、体を使う職に就いていると、一日三食が普通になるんだとか。
ニアは探索者見習いとしても活動してたから、三食に慣れてはいるけど、教会なんかだと二食が普通だとか。
ちなみに、ギルドに行く前にニアが言ってた『探索者に人気の宿屋』の、隣りの宿だったりする。商業区まで行けば、食事処専門の店もあるらしいけど、こうして宿の食堂を食事処として開いてるのも、この世界じゃ普通なんだとか。
隣の宿の看板は、宿と酒場・・・人気ってさあ、単に食事処じゃなくて酒場併設だからじゃないのかな? 昼前なのに、既に呑んでる探索者っぽい人達が居るし。
まあ、そんな事はどうでも良くって、ニアが聞いて来たミラージュっていうのは、僕達のパーティー名だ。
案を出した時に、ニアは特に反対しなかったから、それで良いやって決めたんだけど、何故今更聞いて来るんだろうね。
『マスター、この世界にはミラージュという言葉は存在しません』
・・・マジですか。
え? ニアは意味も分からず賛成したの?
「リク様の提案ですから、何かしら意味があると考えたので」
外だからか、ニアの言葉遣いは少し砕けてるけど、もっと砕けた方が良いと思うな。ってそうじゃ無くて。
「意味はまあ、あるけどさ、そんなに深い意味は無いよ?」
「そうなんですか? でも何か、深い響きを感じます」
う~ん、これは言っておいた方が良いだろうなあ。
「えっとミラージュってのは、蜃気楼とか幻影とか、そんな意味だね」
「蜃気楼・・・ですか?」
この世界には、蜃気楼とか幻影ってのも、無い訳じゃないらしいけど、かなり局地的というか、専門的な言葉らしい。ニアが知らなくても仕方無いのか。
まあ要は幻とか、そんな意味合いで選んだんだよね。
正直あんまり、勇者だ何だって正体は知られたくないからって気持ちが、多分僕の中で強いんだと思う。そこからのイメージで、ミラージュってのが浮かんだんだろう。
つまりは単純に、幻の様に実態を掴ませずに、みたいな意味合いで提案した訳だ。
あくまでもイメージ、意味合いってだけなんだけどね。でもまあ、この世界に無い言葉なら、それはそれで都合良いかもだね。
「そうなんですね。私は素敵だと思います」
にっこりと微笑んでそう言うニアからは、取って付けた感じはしないから、本当にそう思っているのかも知れない。
まあ、理由を聞いてガッカリされなくて良かった、って感じだなあ。
一応外に出るから、常設依頼は見て来た。
あったのは、幾つかの薬草採集と、幾つかの魔物討伐依頼。最低の青銅ⅠランクからOKな依頼にも討伐があったのには驚いた。
そのランクでも安全に倒せる魔物、なんて訳では無いだろう。そんなに弱いなら、あえて常設依頼で討伐する必要も無いだろうし。
この世界のシビアな部分なのかも知れないなあ。
まあともかく、常設依頼は受ける必要が無い。その依頼を達成したら事後報告、つまり採集なら採集した物を、討伐なら討伐証明部位を渡せばそれで達成になる訳だ。
だから探索者は、自分が受けた依頼に関係無く、常設依頼内容はチェックしておくものらしい。
通常依頼とかと違って、常設依頼は適正ランクの表記こそあったけど、ランクに関係無く達成可能だから、ついでで達成出来ればその分得だしね。
ただ、それら常設依頼が書かれた皮紙を見て、僕は始めて世界神に一寸感謝した。
この世界に来て、何の問題も無く言葉が通じてたから、カイにその辺りを聞いてみたところ、要は上位存在だから、下位存在になる人の使う言葉や文字は、理解出来るし扱えるんだそうだ。これが単に、上位種になるハイヒュームだと、種としては上位でも、存在自体は同クラスだからムリだったらしい。
言葉が通じてた時点で助かったけど、文字が読めるってのは結構、助かる実感が強かったね。
・・・って、何か自分の考えがおかしい。そもそも世界神が僕を引っ張り込まなきゃ、困る事も無かったんだよなあ、そう言えば。
うん、やっぱり感謝したのは、気の迷いでしかなかったみたいだ。
◇ ◆ ◇
門の出入りは、身分証明も兼ねてるカードを見せるだけで済んだ。
これが商人だと荷物のチェックがあったりと、立場によって色々あるみたいだけど、基本的に探索者は、馬車とかを使って遠出する時、つまりは多くの荷物がある時でもなければ、特に何のチェックも無いらしい。
これは門から入る時も同じで、通常ならかかる入場税も、探索者の場合は免除されるんだって。
要は身近な脅威になる魔物を討伐する探索者の行き来を楽にする事で、探索者が寄り易い状況を作る為のものらしい。探索者にとって都合が悪い場所になれば、当然探索者が寄りつき難くなり、魔物を討伐する戦力が減るんだから、ある意味現金な方法とも言えるんだけど。
そういう意味でもまあ、探索者を選んだのは正解だったのかもね。
残る問題は、僕が魔物とは言え生き物を殺せるのかだよなあ。それも含めて、これから試すんだけどさ。
「ここから森の中に入ります。
暫く進むと開けた場所があるので、色々試すにはそこが良いかと」
ニアがそう言ったのは、都を出て半刻--一時間くらい--歩いた頃だった。
「此処から先は見通しが悪くなるので、魔物等にも注意が必要になります。
私が先に」
そう言って、獣道程度に何となく道っぽくなっている場所を行こうとするから、僕はそれを止めた。
「ニア、直ぐ先に何か気配がするから、一寸待って」
門を出てから此処までは、開けた草原みたいな感じだったから見通しも効いたけど、森の中はニアが言う様に、見通しは悪そうだ。
けどそれ以前に、何故か僕には分かったんだ。多分だけど、ほんの二十メートルあるか無いかくらい先に、何か生き物が居るのを。
それも、草原でも遠目に見えた兎--何故か角が生えてた。多分常設依頼にあった一角兎とか角兎ってやつだと思う--の様な小型の生き物じゃ無いと思う。感じる雰囲気と言うか、気配みたいなのも違うし。
さて、どうしようかな。




