01-09 ニアとの関係の話し
「そりゃまた・・・巫女も大変だなあ」
ニアは悩んだ様だけれど、世界神--シルヴェリアーヌ=ディマルティアットという名前らしい。この世界では、神の名を口にするのは不敬に当たるらしいけど、巫女や神官は直接言葉、と言うか意思を交わすから、名を呼ぶ事もあるらしい。ちなみにディマルティアットは、そのままこの世界の呼び名だとか--とのやり取りを離してくれた。
まあ僕が、神の使いっていう立場である事と、そもそも世界神に対応を任されて、流石に一人でそれを抱えるのがキツいっていう事情もあったんだと思うけどね。
それを聞いて僕が思ったのは、『絶対に機会があったら、何発かぶん殴る!』ってだけだったけど。
いや、他に何を思えと?
「リク様は、お怒りになられても良い様に思うのですが」
「いやうん、怒ってはいるけどさ。それでも『確実に対応する為』っていう意味では、絶対に間違いとも言えないからねえ」
聞けば、この世界の人達だけでも対象可能ではあったらしい。ただそうなると、通常一つの武器か防具といった神器だけで済むところを、一式とか、複数の武器とか、まあ要は複数の神器が必要になるんだとか。
あまり人の世に、神器を放出したく無いっていう世界神の考え方自体は、まあ分からなくも無いからねえ。
ただ、だから異世界から問答無用で拉致っていうのは、対処法としてどうなのかと思うけどね。
それこそ、魔王への対応が終わったら、その神器を封じるなり、回収するなりすれば良い訳だし。神からの指示であれば、絶対とは言えないかもだけど、殆どは守るんじゃないかなあ。
まあどうせ、どういう手段を使ったとしても、何かをすればその影響があるのは、避けようが無い訳だし。
「それよりも僕は、ニアが世界神に対する批判、とまでは言わないけど、何があっても世界神側だと思ったから、こういう事言う方にビックリしたかも」
「そうですか?
多くの巫女や神官は、神々から直接お声を頂いておりますし、全面的に神々に依存すれば良いとは思っていませんので」
「盲目的な信仰じゃ無いんだ」
「そうですが、リク様が居られた世界では、進行とは盲目的なものなのでしょうか?」
「ん~、そういう人、と言うか、宗教とか信仰してる人達に、そういうのが目立つっていう感じかなあ。
逆に僕もそうだけど、神に対する信仰って何? くらいの意識の人も多かったし」
ただ、この世界では神が近いというか、実在証明されてる状態だからね。そんな世界での宗教で、しかもその教会の巫女だって考えれば、それこそ無条件に神を至上に考えてても、全然おかしく無いと思ったんだよ。
「いえその、ですね、神々との繋がりを持つからこそ、と言いますか・・・」
ああうん、そうだね。
先刻から聞いてた世界神の事とか、そういうのを知っちゃうと、それはそれで『神は偉大なり!』とはならないか。まあ、偉大ではあるんだろうけど何て言うのかな・・・多分生物として上の存在、っていうだけの意識なんだろう。
それでも、敬うべき存在って言う意識もあるから、信仰もあるんだろうけどね。
「それに、私はもう、リク様の侍祭であり、世界神様の巫女ではありませんので」
僕の侍祭だから、優先すべきは僕だって事なのかな? でもなあ、う~ん。
「侍祭だから、僕に付いてるのかな?」
「いいえ、侍祭はあくまでも立場ですので。
リク様にお仕えするのは、私がリク様の婚約者だからです」
そう、僕はニアを受け入れる事にした。
断る理由も無かったのもあるけど、色々理由も聞いちゃったし、僕にとってこの世界には、今のところ顔見知りは一人も居ないし。
ただ、ニアは未だ成人してないから、結婚は成人してからだ。
この世界では十五才で成人になる。
貴族とかだと、十二とか十三才でも結婚するなんて場合も珍しくないらしいけど、そもそも僕の居た世界では成人は十八才。結婚も女が十六才、男は十八才からじゃなきゃダメだったから、その常識は当然、僕の中にしっかり根付いてるんだよね。
だからって、一緒に居るのに関係が曖昧だと、特に女の方を色々と、偏見と言うか、妙な目で見る事が多いらしい。
僕の気持ちと言うか、意識の都合で、ニアがそんな目で見られるのはダメだと思ったんだよ。だってねえ、僕のそういう感覚的なものって、この世界では通用しない訳だし。実際、結婚それ自体も、僕が居た世界のそれとはかなり違うみたいだし。
勿論結婚が、夫婦として共に歩んで行く為の区切りみたいなもの、っていうのは変わらないんだけど、別に届け出が必要な訳でも無いし、何か証明が必要な訳でも無い。
と言うかね、この世界では親しい男女が一緒に生活する様になれば、それは婚姻関係、つまりは結婚した夫婦扱いになるらしい。
勿論王族とか貴族になると、もっとちゃんと婚姻を結んだという宣言とか、それを知らしめる為に晩餐会とか開いたりするらしいけども、多くの平民や自由民なんかは、そんな事はしないからね。
だから、本来僕が結婚しようとどうしようと、誰かにそれを知らしめる必要は無いんだけども、ニアは王族だから。僕に仕える、つまりは一緒に居るのに、婚姻関係でも無い状態で年頃の男女がってなると、やっぱり変な目で見られる可能性が高いって訳だ。
立場ある人って、ほんとめんどくさい。
とは言っても、僕みたいな十五才のガキが結婚なんてして、やって行けるのか不安はあるけどね。
まあその辺りも、ニアから色々聞いて、何とかなるかとも思ったけど、覚悟が出来たとは言えないんだよねえ。
それに、未だニアには言ってないけど、僕を相手にする場合、色々覚悟して貰わないといけない事があるんだよ。その辺りを含んでも、ニアが僕を選ぶ価値があるのか、ニアが成人するまでの約半年--二百七十日くらい--の間で、僕と関わった上で判断して欲しいっていうのもある。
「そもそも婚約者なのに、仕えるっておかしくないかな?」
「妻として、夫に仕えるのは当然では?」
確かにニアみたいに、王家とか貴族とかとなると特に、そういう意識もあるのかも知れないけど、それでもこの世界、別に男尊女卑な訳でも無いし、多い訳では無いけど、国主とか貴族家の当主が女ってところもあるらしいから、多分それって、ニアにとっての意識なんじゃないかなあ。
「一緒に歩んでくれるんだから、平等で良いと思うんだけどなあ」
ニアと違って僕は、一般人出身なんです。
「それは、追々と」
丁寧な話し方にしろ、神の使いだという前提にしろ、僕が望むものじゃ無いから、その辺りはニアと話しをしてあるけど、ニアも直ぐには修正出来ないって言うし、それもまあ分かる気もするから、仕方無いんだけどね。