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フリーダムガール  作者: 赫宗一
レムレド編
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いざ出発

ドラゴンを求めて霊山を登ることに決めた翌日の早朝。支度を済ませたあたし達一行は、抜け道があるらしい洞窟へと足を運んでいた。グリュネいわく、そこは氷柱つららと呼ばれる氷の刃が、所狭しと天井にひしめく危険な場所だという。話を聞いただけでも危険だと理解はしているけど、驚きの光景が見られるのかと思うと、妙に期待感が勝る。


今日も降りしきる雪が、山となって道々に積み重なっている。中途半端に凸凹でこぼこしている関係で、昨日以上に足を取られて前へ進みにくい。面倒なので、クーのフローボードで一気に走り抜けようかと考えていたけれど、こうも気温が低いと、機械が凍り付いてまともに動かないようだ。日の出を拝みながら、あたしは白い息を吐く。


「うーっ、寒い。昨日よりかは全然マシになったけど」


グリュネに揃えてもらった、無駄に厚い毛皮の服。動きやすさを重視した関係で、一般の防寒着よりかはいくつか薄い箇所があるも、その保温性能は抜群だ。


「それは何よりだよ。あ、そうそう。山登りをするのに役立つ道具を色々持ってきてる。何か困った時には教えておくれよ」


「用意周到ですね、グリュネさん。…でも逆に、私達は何も持ってこなくて良かったんですか?」


クーが不思議そうな顔つきで考え込む仕草をしていると、代わりにエルが答えた。


「荷物を持って行けば行くほど、登山者のかせになるんですよ。もし仮に、不安だからと十日分の食料を鞄一杯に詰めて向かったとすれば…どうなると思いますか?」


「鞄の重さと足場の悪さが重なることで、かえって余計に体力を消耗する?」


「正解です。この平地でさえ四苦八苦している私達が、傾斜のある山を移動すれば…どうなるかは想像にかたくないでしょう。なので、ここは土地慣れしているグリュネさんに、荷物を厳選してもらうのが適正かと」


「エルノアの言う通りさ。だから、クーストラちゃんが心配する必要はないよ」


「それは良いが…何で俺が荷物持ちを…」


あたし達よりだいぶ遅れて歩いていたオージェが、苦しそうな声を上げる。5人分の荷物を持たされているのと、背負しょっている黒塗りの大剣も加えて、相当な重量を運搬していることになる。さすがのあたしも、少しばかり同情を覚えてしまう光景だ。


「ほらほら、しっかりしな!このくらいでへこたれてちゃ、登山なんて夢のまた夢だよ!」


「くそっ…。デコといい、グリュネといい、俺を何だと思ってんだ…」


「頼りになる強者つわもの。じゃ、不服かい?」


間違いなくあたしなら喧嘩になっていたであろう場面で、グリュネはオージェが反論出来なくなるよう、上手に言いくるめてしまった。オージェは左右に首を振って諦めの態度を示すと、黙って移動を再開する。これは助け船を出してやるべきか。


「しょーがないな。少し出しなよ、手伝ってやるからさ」


「…デコの助けなんざ、死んでもゴメンこうむる」


「なっ、何だと~!?ハゲがしんどいかと思って、心配してやってんのに!」


「余計なお世話だ」


せっかく手伝ってやろうと思ったのに、あたしの善意にすらつっけんどんなオージェに腹が立つ。本当に可愛げのない男だ。


「あーそうですかい!じゃあ勝手に苦しんでな!!」


グリュネよりも前へ出て先頭に立ち、鬱陶うっとうしい雪を力強く踏みつけて、目的の洞窟へと急ぐ。「あんな奴、もう知るか!」…と、心の中で叫びながら。


「ふふ、オーさん優しいですね。リノにまで気を遣うなんて」


「…さあな」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


グリュネの的確な案内の元、1時間ほどで洞窟に辿り着いた。外の寒さとは違う、思わず身体が震えるようなひんやりとした空間。そして天井には、話に聞いていた通りの氷の刃…氷柱つららが、大なり小なり伸びている。自然の神秘と言うべきか、この場所はとても空気が澄んでいて綺麗だ。


「寒いのは変わらないんだけど、心なしか空気がおいしいような…」


「ま、人間が立ち入ることなんて滅多にないからね。自然の環境が保たれている場所は、うまいもんさ。森林だってそうだろう?」


「確かにな。寒さを我慢すれば、野宿にはもってこいだな」


「オーさん、普段どんな生活してるんですか…」


目を輝かせて語るオージェに、呆れた様子でクーが突っ込む。ギルドハンターの中でもトップクラスの実力を持ち、お金には困らないほど稼いでいる男が、野宿生活をしているとは考えにくい。少し聞いてみたい気持ちがよぎるも、さっきの荷物の件もある手前、余計な口を挟むのはやめておく。


「言い忘れてたけど、足元には気をつけておくれよ。一面に氷が張ってるから、あんまりはしゃぎ過ぎると転んで怪我するよ」


「へへ、大丈夫だって―――」


と、一歩踏み出した瞬間、あたしの身体は軽く宙を舞い、冷たい地面に叩きつけられた。まさに言わんこっちゃない。盛大に転倒した。


「ぐっ、おおおぉぉ…。い、いだい…」


「言ったそばからですか…。ある意味天才ですね、リノは」


「リノお姉ちゃん大丈夫!?今治してあげるから」


前轍ぜんてつを踏まないよう、クーは慎重に歩いてあたしの所まで来ると、即座に治癒魔法の詠唱に入った。しばらくして、周囲に淡い光の球体が浮き始めると、グリュネは目を丸くして微かに声を漏らす。魔法書を介さずに魔法を行使する人間がいれば、驚くのも当然の反応だと言えるけど。


「これは…まさか魔法!?」


「ええ、クーちゃんは魔法が得意なんですよ」


「いくら得意って言ったって、魔法書も介さずに行使出来る人間がいるなんて…」


伊達だてにこいつらと一緒に旅をしてるわけじゃない。クーストラは天賦てんぷの才を持つ『特別』なんだ」


「へえ、勉強になったよ。世界には色んな人間がいるもんだね」


「…よし、これで良いはずだよ。どうかな?」


治療を終えたクーが、あたしに問う。勿論問題ない。もうすっかり、痛みは引いていた。今度こそ滑らないようゆっくりと立ち上がって、クーの頭を撫でて答える。


「さっすがクーちゃん。全然平気だよ♪」


「よかったぁ…。気をつけないとダメだよ?」


「そうですね。これが頭上の氷柱つららだったなら、今頃リノの頭は真っ二つですよ」


「クーストラに余計な気を遣わせるな、デコ」


「へーいへいっと。ほんじゃ、滑らないよう慎重に行きますか」


「ちょっと待った」


歩き出したみんなの足を、グリュネの声がさえぎる。理由はすぐに分かった。枝分かれしている複数の道から感じた、獣の気配。縄張りを侵す者には容赦しないと言う、警告だろうか。その1つ1つから、明確な敵意を察知した。


「恐ろしいお出迎えだこって。お願いして通してもらう…ってのは無理な相談か」


「恨みはないが、少し痛い目にあってもらうか」


あたしとオージェが抜刀すると、グリュネも弓を構えて矢を射る体勢を整えた。


「氷で滑るしやりにくいと思うから、その隙をカバーするよ」


「ありがと、グリュネさん。エルとクーちゃんは後ろに下がってて」


「戦闘力的に、かえって足手まといになりますからね。大人しくしておきます」


エルとクーが入口付近まで退いたのを確認して、戦場での相棒を握り直す。初陣だ。


「おいデコ。殺すなよ?」


「分かってる。…さあ、行くよ月光!!」


あたしの呼び掛けに、鋭い輝きを放った月光が応えた。

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