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フリーダムガール  作者: 赫宗一
レムレド編
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狩人グリュネ

凄腕とおぼしき狩人グリュネに連れられて、あたし達は宿屋の暖炉前に戻って話を再開する。ドラゴンを倒すとか何とか言っていたけれど、やっぱりドラゴンは悪事を働いているのだろうか。みんながソファに座ったのを確認すると、グリュネは壁にもたれて口を開いた。


「…それじゃ改めて。あたしの名前はグリュネ。狩りを生業にしてる一匹狼さ」


「グリュネさんね、宜しく。あたしはリノ。…んで、帽子のがエルノアで、おさげの子がクーストラ。エルとクーちゃんね」


いつものように、エルとクーは上品な会釈えしゃくでグリュネに応える。


「リノ、エルノアに、クーストラね。いい名前だね、3人ともよろしく。…あの優男は紹介してくれないのかい?」


「あいつは別にいいや」


「おいデコ。ぶった斬るぞ」


「自分で紹介すればぁ~?」


「…チッ。俺はオージェだ」


名前を聞くや否や、グリュネは目を見開いてオージェに詰め寄った。女性との距離が近い所為せいか、オージェの頬はやや紅潮していた。


「まさかあんた『白銀しろがねの閃光』かい!?」


「一応、ちまたじゃそう呼ばれてはいるが…。そんな大層な人間じゃない」


「謙遜しない!あたし、1回でいいからあんたに会ってみたいと思ってたんだよ。しかしまあ…中々どうして、いい男じゃないか」


「褒めてくれるのはありがたいが、その…ちょっと近いぞ…」


「ふふっ、もしかして照れてるのかい?天才的な剣の腕を持つ男が、意外と可愛いところあるじゃないか」


あたし達に対しては見せなかったオージェの態度に、エルは少々驚いている様子だ。むっつりオージェは、グリュネのような大人の魅力溢れる女性には弱いのかもしれない。そう考えると、あたしやエルは子供だと言われていることになる。何だか無性に腹が立つな。隣に座っていたクーも、やや口を膨らませてオージェを睨みつけていた。クーが不機嫌な態度を表に出すのは珍しい。


「いいから、離れてくれ…!」


「分かったよ。よろしくね、白銀の閃光。いや、オージェ」


「ああ。…ん、どうしたクーストラ」


「オーさんは、グリュネさんみたいな大人の女性が好みなんですか…?」


クーから飛び出した予想外の一言に、オージェは目を丸くして困惑している。


「なっ…!?クーストラ、どうした」


「い、いえっ。なんでも…ないです…」


無意識だったのか、自分の口から出た言葉で驚いたクーは、恥ずかしそうにうつむいて小さくなってしまった。普段オージェに対して物言わない分、もっと責めてやれば良いのに。ふとエルに視線を向けると、何故かこの状況を楽しそうに静観していた。


「あははっ!ごめんよ、クーストラちゃん。だいぶ本題からそれちゃったね」


グリュネは豪快に笑うと、腰元の小袋から一枚の紙切れを取り出して、テーブルに広げて見せた。どうやら何かの地図らしく、山のそばにある洞窟に印が付けてあった。


「何これ?」


「察しがついてるとは思うけど、ドラゴンはこの地図に書いてある霊山を住処にしてるんだ。でもね…あの山は、名前の通りただの山じゃないんだよ」


「と、言いますと?もしや、何か特別な結界でも張られているんですか?」


「いい読みだね。そう…山の入口には特殊な魔法がかけられていてね。何も知らずに登ろうとする人間に対して、凍える吹雪で山への侵入を拒むんだ」


「詳しいんですね。グリュネさん、試されたんですか?」


「まさか。同じ狩り仲間が氷付けにされちゃったのに、試そうなんて馬鹿な真似はしないさ」


仲間がやられたと言いながら肩をすくめるグリュネに、それほど悲しんでいる様子は見られない。意外と薄情な性格なんだろうか。あたしが疑念の視線をグリュネに送っていると、本人は小さく首を振った。


「違う違う。リノはあたしを薄情な人間だと思ったみたいだけど、ただ慣れっこなだけさ。過去にも狩りに失敗して、命を落とした仲間を嫌と言うほど見てきたからね…」


「そうなんだ。疑ってごめん、グリュネさん」


「こっちこそ、疑われるような発言をして悪かったね。おあいこさ」


「早とちりデコが」


ぼそっとオージェが呟いたのを、あたしは聞き逃さなかった。猛牛の如く睨みつけてやると、そっぽを向き鼻を鳴らして誤魔化す。あの野郎、後で覚えておけよ。


「…さて、話を戻そう。さっきも言った通り、現状じゃ霊山を登るのは不可能に近い。そこであたしは、どうにか打破出来ないもんかと色々調べたんだ。…するとどうだ。正面以外にも、霊山に通じる抜け道があったんだよ」


「それがこの印のしてある洞窟…と言うわけですか」


正解!と言わんばかりに、グリュネは指を鳴らしてエルの回答に答えた。続け様に、今度はクーが質問する。


「抜け道から霊山に登れば、魔法の攻撃を受けないんですか?」


「ああ。ちょいと勇気がいったけど、全く問題なかったよ。魔法が施されているのは、無駄に大きなアーチのある正面入口だけらしい」


「そこまで分かってるなら、何故行かない?お前も相当な弓の使い手だろう」


「白銀の閃光に評価してもらえるのは光栄だけど、そこまで自惚うぬぼれちゃいないよ。ドラゴンの戦闘力は未知数でも、あの巨体相応の力を有しているのは間違いないからね。味方がいないと、渡り合うなんて夢のまた夢さ」


まさかこんなに都合良く、ドラゴンと対峙するまでの算段が整うとは思わなかった。あまりにも上手い具合に事が運びすぎて、何だか逆に心配な感じだけれど、この機会を逃すのは惜しい。今一度周囲を見渡し、同意と言う名の視線をみんなから受け取った後、グリュネに向き直る。


「りょーかい。あたし達も協力するよ。…って言っても、倒すかどうかはドラゴンと対面してから決めるんだけど」


「それはまたどうしてだい?」


「確かに街の上空を飛び回ってはいたけど、特別悪さをしていたわけでもなかったからね。だから、自分達から攻撃は出来ないよ」


「なるほどね…」


あたし達の決定に不服があるのか、グリュネはばつが悪そうに自身のポニーテールをいじって顔をそむけた。


「優しいね、そう思う気持ちは大切だよ。でもね…たとえあんた達がやらなくとも、あたしは奴を倒すよ。現状、直接的な被害がないのは確かだけど、この街の住民達は、奴の影に怯えながら日々生活しているんだ。このまま指をくわえて見過ごす訳にはいかないのさ」


凜とした、強い口調で言い放つグリュネの瞳には、熱い炎の輝きが宿っていた。狩人だからというわけじゃなく、純粋にこの街が好きだからこそ、それをおびやかすモノがいることが許せないんだろう。嘘偽りのない表情からも、その想いがうかがい知れる。己の職内に留まらない心意気は、あたしのハートを揺さぶった。


「いいね。グリュネさんの気持ち、あたしの心臓ハートに届いたよ。出来る限り協力するから、頑張ろう!」


「リノ。『達』が抜けてますよ。…それはともかくとして。仮にもドラゴンは幻の存在。万が一、人間の言葉が通じるかもしれません。まずは、意思疎通が図れるのかを確認してからですよ。戦わずに済むのなら、それが最良なので」


「本当は先制攻撃で仕留めたいんだけど…致し方ないね。けど、無理だと分かればすぐにでも矢を射るから、そのつもりで」


「了解しました。…さて、大体話はまとまりましたね。今日はもう遅いので、出発は明日にしましょうか」


「はーい。うぅ、眠たい…」


クーは口を押さえて小さな欠伸あくびをすると、うつらうつらといった様子で首を前後に揺らし始める。壁にかけてある大きめの時計を見ると、もう夜の10時を過ぎていた。何だかんだとイベントがあったおかげか、すっかり遅くなってしまったな。この手のたぐいは、意識すると急に睡魔が襲ってくる。あたしの脳もそろそろ活動限界だ。


「それじゃ解散。と、言いたいところなんだけど…。リノ、あんたにはまだ残ってもらうよ」


部屋に戻ろうとすると、グリュネに肩を掴まれる。まだ何かあるのか。


「えっ、他に何かあるの?」


「あるともさ。あんた、防寒着ないだろう。そんな薄着で霊山に行ったら、間違いなく凍死するよ?今から似合うやつを探しに行こうじゃないか」


「あ、明日じゃ駄目なの?」


「善は急げさ。まだお店は開いてるから、さあ行くよ!」


「えっ、ちょーっ!?エル―――」


「私とクーちゃんは先に寝ますので。頑張って下さい」


「俺も寝るぞ。じゃあなデコ」


「は、薄情者ぉぉぉ!!」

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