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フリーダムガール  作者: 赫宗一
ミロスリー編
73/111

新しい力

「完全勝利ッ!!」


勝利のガッツポーズで喜ぶあたしの姿に、クーはこれ以上ない拍手を送ってくれた。語るまでもない圧勝。立て続けにダブルブルのみを叩き出した結果、5ラウンドの時点で老人が敗北を認めたのだった。四つん這いになって、がっくりとうなだれる老人をよそに、あたしは勝利の余韻よいんひたる。


「むっふっふ。ざまあみろってんだ」


「く、くそっ…。ワシがこうも簡単に負けるとは」


「さあ、次は誰が相手だ!?」


調子に乗って次なる対戦相手を募るも、関わりたくないと言わんばかりに、蜘蛛の子散らして去って行った。


「ありゃりゃ、みんな逃げちゃった…。あっ、ところでじっちゃ。何で突然、あたしに喧嘩吹っ掛けてきたのさ?」


「…分からんか?」


老人はすっと立ち上がると、未だ好戦的な視線をぶつけてくる。それは敗北によることへの怒りじゃなく、もっと別の事に関しての怒りに感じられた。


「ごめん、分かんない」


「なら教えてやる。武器だ」


「武器…?」


「お前さん、刀を使っておったろう?」


老人の一言に、あたし達は驚きの声を上げる。服装からしてもしやとは思ったが、まさかこの人物が捜していた職人だとは。エルは軽く咳払いをした後、老人に問う。


「もしや、貴方が職人の?」


「いかにも。ワシがグスタフだ」


「グスタフさん。あの…どうしてリノお姉ちゃんが剣じゃなくて『刀使い』だと分かったんですか?」


「ワシは武器のプロだ。武器を扱う人間の動きを見れば、大体推測が出来る。特にこの小娘は、刀と共に育ったと言っても過言ではないほど、長い月日を武器と過ごしている。…それで小娘、何故武器を携帯しておらん?」


「そりゃあ、師匠と派手にやり合った時に、壊れたから―――」


理解した。グスタフが怒りを覚えていたのは、武器の不携帯が原因だと。その道を極めた人間だからこそ、自身の子供にも等しい大切な物を、粗末に扱っている人間が目の前にいると分かれば、自然と怒りが沸き上がるのも無理ない話だ。もっとも、僅かな動作だけで断定出来てしまう、グスタフの慧眼あってこそだけれど。


「なるほど…ね。だから怒ってた訳か。ごめん。最初から理由を説明してくれれば、こんなに話がこじれなかったのに」


「ふん!それはそれ、これはこれだ。自分自身にも等しい存在をぞんざいに扱うでない。だから人生イージーモードだと言ったんだ」


「なんをー!?」


「ふふ。それでグスタフさん。私達に名を名乗ってくれたと言うことは、認めてくれたと受け取っても?」


グスタフは腕を組んで軽くうなずいた。正体を知らなかったとはいえ、中々失礼な事をした気がするけれど、協力的な姿勢を見せてくれたのは喜ばしいな。


経緯いきさつは後で詳しく教えてもらうとして…。とりあえず今は表に戻るぞ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


凄腕の鍛冶職人、グスタフと共に裏の世界から帰還したあたし達は、財宝のように光り輝く繁華街を歩いてクゲツキ探偵事務所まで急行する。早朝に出発したというのに、周囲はすっかり夜色に染まっていた。今の今まで薄暗く寂しい廃墟を彷徨さまよっていた為か、ギラギラと眩しいこの風景がとてもありがたく思える。


「いやー。24時間経ってないはずなんだけど、懐かしさを覚えちゃうよ」


「光という存在が、どれほど人間の心に干渉し、日々安らぎを与えているのかが分かりますね」


「ところで…グスタフさん。どうしてクゲツキさんの事務所に?」


「ワシの工房は、あやつの事務所と共同なのだ。フフフ、あやつのことだ。ワシの帰還をいち早く察して、準備を進めておるに違いない」


グスタフは妙にいやらしい顔つきで、口元に手を当てて喜ぶ。こうしていると、ただのエロジジイにしか見えないな。あたしのさげすみの視線に気付いたのか、グスタフは眉根を上げて応えた。


「何か言いたそうだな?」


「別にー?んなことより!じっちゃ、いいやつを頼むよ」


「それについては任せておけ。小娘のようなやんちゃモンには、絶対に折れることのない至高の逸品を用意してやる」


「感謝感激雨あられ!くぅー、新しい武器かー。ワクワクするなあ」


「作ることは作ってやるが…。1つ言っておかなければならん」


クゲツキ探偵事務所の入口まで辿り着いたあたし達は、立ち止まってグスタフの次の言葉を待つ。さっきまでとはまるで違う、非常に真剣な表情であった為に、思わず唾を飲み込んでしまう。


「小娘、以前までの刀に『名前』はあったか?」


「名前…?いや、何も」


「そうか、ならば今の内に言っておこう。以前にも言ったように、武器とは自分自身…己を映す鏡だ。生涯を共に歩むパートナーに名前がないなど、言語道断だ。…故に、ワシの手掛ける名刀に相応しい名前を考えておくがいい」


「パートナー…ね」


人間的な意味合いで言えば、それは勿論エルが該当するのだけれど、持ち物で言えば武器になる。グスタフが『武器は己を映す鏡』…と表現したのは間違っていない。言われてみれば確かに、あたしの人生は刀なしじゃ語れない。それぐらい重要な物だ。日頃から大切に扱ってはいたものの、配慮が足りなかったと気付かされた。大切に扱うだけじゃ駄目なんだと。


これまでの思い出が、走馬灯の如く頭の中を駆け巡る。その奔流ほんりゅうに見える名も無き白鞘しらさやに感謝と謝罪を済ませ、右手の拳を強く握った。


「おうさ!めっちゃ格好良いのを考えとくよ!」


「うむ、良い返事だ。では行くぞ」


心機一転したあたしは、軽快な足運びでグスタフの後に続いた。殺風景な細道を進んで2階へ上がり、クゲツキの待つあの部屋へ。


「クゲツキ、戻ったぞ。準備の方は済んでいるのか?」


扉を開けるなり、驚きの第一声が飛び出す。クゲツキ自体にはまだ何も話をしていないのに、知っているはずがない。…と、そう思ったあたしの考えは、どうやら間違いだったらしい。部屋の奥にあるベッドの先から、微かに熱気を感じた。


「以心伝心とはこの事ですね。この熱気…もう準備されているようです」


「フフフ、流石はクゲツキだ」


「あ、お帰りなさいグスタフさん」


相も変わらずやる気のなさそうなクゲツキが、ひょっこりと顔を覗かせた。頬が紅潮こうちょうしているのは、きっと鉄床かなとこの用意をしていたからだろう。


「お嬢さん達もお帰り。紅茶を出しておいたから、ゆっくりくつろぐと良いよ」


「わわっ、お菓子まで。すみません、ありがとうございます。…それにしても、あらかじめ結果を知っていたかのような用意周到ですね」


「探偵だから…ですか?」


「帽子のお嬢さん、正解。…と言いたいところだけど、実は違うんだ。グスタフさんが―――」


「クゲツキ、余計な事は話さんでもいい!さっさと仕事に取りかかるぞ!久しぶりの仕事だ、腕が鳴る…!!」


「はーい。あ、お嬢さん達。企業秘密だから、中には入って来ないでね」


「了解。クゲツキさん、良いのお願いねー」


「本業は探偵なんだけど…。まあ、仕方ないよね」


気合い十二分のグスタフと、やや疲れ気味のクゲツキは、部屋奥にある特別製の金属扉の向こう側へと行ってしまった。あの部屋で、これからあたしの分身が作られると思うと、何だかワクワクするな。とりあえずソファに腰を下ろし、お菓子と紅茶を堪能する。


「いよいよだね、リノお姉ちゃん」


「うん。いやー、何だかワクワクが止まらないなぁ」


「完成までに、どのくらいの月日を要するものなんですか?」


「うーん…。早くて2週間ぐらいかな。模造刀のたぐいを打つ訳じゃないから、さらに伸びる可能性はあるけど」


「なるほど」


エルは優雅に紅茶をすすった後、あたしに視線を向けた。


「でしたら、その2週間でやりたい事があるのですが…。少々付き合ってもらえませんか?」


「ん?別にいいけど。何するつもりなの?」


「ちょっとした野暮用…です」

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