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フリーダムガール  作者: 赫宗一
ミロスリー編
72/111

適材適所

トランプ『ポーカー』で圧倒的な実力を見せつけたエルは、男から戦利品である金貨ペカを受け取ると、余裕の表情で次の相手を餞別せんべつする。けれど、その手腕を間近でを見ていた人達は、それぞれが散り散りになって、どこかへと逃げてしまった。相手取っても勝ち目がないと判断したんだろうけど、実際正しい。


「エル~。初っぱなからやり過ぎたんじゃない?」


「そんなつもりはなかったのですが。しかし、困りましたね」


「勝負を受けてくれないんじゃ、職人さんを捜すのは難しいね…」


「どーしたもんか。ん?」


途方に暮れていると、奥のテーブルから1人の老人がこっちに向かって来た。年齢は60代ぐらいだろうか。白く染まった長髪を後ろで束ね、つり上がった漆黒の両目は、敵を射殺さんとばかりにギラギラと輝いていた。表の世界には似つかわしくないけれど、裏の住人でもないであろう、灰色のオーバーオールを着用したその姿は、あたし達が求めている職人を彷彿ほうふつとさせた。


「おい、そこの若いの!」


老人は、声を張り上げてあたし達を呼ぶ。仲間の敵討ちでもするつもりなのか、随分と高圧的な態度だ。


「じっちゃ、何か用?」


「用があるから呼んでいる!その程度も理解出来んのか、たわけめ!」


「あぁん!?偉そーなじっちゃだねぇ!」


まさに一触即発。初対面の相手に、ここまで馬鹿にされるいわれはない。何故だか無性に腹の立ったあたしは、老人と真っ向から対面する。…でも、その間に滑り込むようにして、クーが割って入った。


「ど、どうどう。えっと、おじいさん。私達にどんな用でしょうか?」


「無論、勝負を申し込みに来た。新人にい顔ばかりをさせる訳にはいかん」


「ほぉー。それであたしに対して喧嘩腰なんだ」


「黙れ小娘!お前のような、ちゃらんぽらんで人生オールイージーみたいな若造は、このワシが教育してやる!!」


「さっきまで勝負してたエルに言うならまだしも、観戦してただけのあたしが何で…!!」


あたしのラフな格好が気に食わないのか、返事の仕方がしゃくさわったのかは分からない。けど、そんなことはどうでもいい。この難癖をつけてくる老人に鉄槌を下さないと、あたしの気が収まらない。


「上等だぁ!勝負してやるよジジイ!!」


「ハッ、いきりおって!後悔するでないぞ!」


「こっちの台詞だっつーの!!で、何で勝負するんだ!?」


「これじゃ!」


老人がふところから取り出したそれは、複数のダーツの矢だった。決着の手段が分かったところで、あたしはすぐさま周囲を見渡す。そして、奥の壁に掛けてあった的を発見しては、我先へと歩きだす。その後ろに、やや呆れ気味のエルと、ルールに興味津々のクーが続いた。


「ねえ、エルお姉ちゃん。ダーツって何?」


「専用の矢を用いてボードに投擲し、当てた部分に記載されている得点で優劣を競い合うゲームですよ。先程とは違ってイカサマもない、単純に己の力が試される遊びです」


「へえー。…あれっ、それって―――」


「ふふ、まあ結果は後ほど分かりますよ」


エルの笑い声が聞こえた気がするけど、反応してやれるほどの余裕はない。既にあたしの意識は、完全な勝利のみを求めていた。少し歩いて目的地まで辿り着くと、あたし達より先行していた老人が、ダーツの矢を3本…つまり1セットを手渡してくる。目に物見せてくれるわ。


「あれがボード?」


クーがボードを指差すと、エルはうなずく。


「数字が書いてあって…それから、円上のケーキを等分にしたようながらが特徴的だね。あれには何か理由があるの?」


「ええ。複数の層に分かれているのは、得点をより細かく判定する為ですね。灰色の部分はシングル。当てると、書いてある得点がそのまま自分の持ち点に加算されます。…層を分ける間に、小さな枠があるのが見えますか?」


「青と赤の縞模様のこと?」


「そうです。外側の層がダブルリング、内側の層がトリプルリングと呼ばれていて、的が小さい分、見事当てられれば得点が2倍、3倍になります」


「そうなんだ…!じゃあ、中央にある小さな丸はもっと高いの?」


「中央はブル。分かりにくいですが、これにも2つの層があり、外側は25点、内側…つまりど真ん中が50点になります」


「50点…あれっ?それだと、20点のトリプルリングを狙った方が良いんじゃ。エルお姉ちゃんの説明だと、60点になるよ?」


「察しが良いですね。必ずしも、中央を狙うだけのゲームではないと言うことです。ただ…得点の高い場所は、それ相応に難度が高い。一見適当に作られたようなボードですが、数字の配置箇所も絶妙に考えられているんですよ」


すぐに投げてやるつもりが、気が付けばエルの解説講座を聞いてしまっていた。いつの間にか集まっていた見物人達も、それぞれがうんうんと首を縦に振り、納得した様子を覗かせていた。


「つまり、実力が全て。説明も済んだことだ。ワシからいかせてもらうぞ!」


老人は意気揚々とスローラインに立つと、最もスタンダードな立ち方であるミドルスタンス…つまり、斜め立ちで矢を構えた。


「どれ、まずは軽くいくか!」


荒々しいように見えて、とても堅実な投擲。ただ力強く投げるだけじゃ、狙い通りの場所に打ち付けないのをよく知っている。放たれた矢はぐんぐん伸びて、10点のシングルに突き刺さった。


「うむ…狙い通り。さあ、肩慣らしは終わりだ!」


老人は軽く息を吸った後、2投目を放つ。1投目同様、非常によくコントロールされた投擲で、ものの見事に13点のトリプルを貫くと、間髪入れずに最後の矢を飛ばした。呼吸を整えずの行動であったにも関わらず、3投目の矢は18点のダブルに突き刺さっていた。圧倒的な精度もさることながら、嘘偽りのないその確かな実力に、周囲の見物人達は老人に称賛を送る。


「大したものですね。これほどの精度で矢を操れるなら、勝負を挑んできたのにも納得がいきます」


「あんなに離れた場所から、凄く小さな的に軽々と当てちゃうなんて…」


「ふーん。中々やるじゃん、ジジイ」


「そうやって虚勢きょせいを張っていられるのも今のうちだ。さあ、次はお前の番だぞ小娘!」


「リノ」


あたしが矢を構えると、エルが何か言いたげに近付いて来る。


「な~に?」


「1セットは3回までです。慌てずに、感覚をつかんで下さい」


そう助言するエルは、不自然に口元が緩んでいた。まるで、これから起きる事を全て理解しているかのような…。悪いことを考えている時の表情だった。


「エル…」


「何でしょうか?」


「今ぜーったい悪いこと考えてるでしょ」


「さあ?どうでしょうね」


「まあ、いいや。んじゃ…始めるよ!」


老人と同じようにスローラインに立ったあたしは、線からはみ出さないよう、足の向きを入念に調整して矢を構えた。基本的に、スローラインはボードから244㎝離れた地点。脇で見ている分にはさほど感じなかったけど、いざこうして自分の番になると、とても遠くに感じる。正式なルールにのっとって遊んだことがない分、余計にそう思うんだろうな。


「ほれほれ、さっさと投げんか」


「言われなくとも…なっ!」


まずはお遊びで軽く投げる。それほど力を込めていなかった為か、ボードに刺さることなく床に転がった。


「ハハハ、届いてすらないぞ!これでは勝負にならんな」


「言ってろっ!」


2投目。今度は少し強めに投げてみる。…が、今度は強過ぎて壁に激突し、そのまま壁に突き刺さってしまった。しかし、2本犠牲にしたおかげで、おおよその感覚は掴めた。そろそろ反撃の時間だ。


「うん、大体分かった」


「何ぃ?小娘、お前まだ負け惜しみを―――」


あたしの3投目。さっきまで外してばかりだと野次られていたのはどこへやら。エルを除いて、その場にいた全員が目を見開いて驚愕していた。あたしが放った矢は、中央のダブルブルを貫いていたのだ。


「へへー、狙い通り」


「小娘!お前、一体どんな手品を…!?」


「インチキなんてしてないぞ!普通に投げただけだっつーの」


「普通に…だと?そんな馬鹿な話が」


「こう見えて、あたし剣士だし。目標物ボードまでの距離を敵に置き換えて、このくらいの距離ならこのぐらいかなー…ってやっただけだよ」


「何だと!?む、無茶苦茶過ぎる…!」


「さしずめ、野生の勘と言ったところでしょうか。下手な小細工が通用しないルールだからこそ、リノの身体能力が活きるというものです。伊達に修羅場をくぐり抜けてはいませんよ」


エルがあたしを褒めてくれるのは嬉しいんだけど、野生の勘と評されると、何だか素直に喜べないな。


「さーて、ここから反撃開始だ!!」

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