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フリーダムガール  作者: 赫宗一
ガジュア編
7/111

勝負の行方は腹次第

「うがー、お腹空いたー」


相も変わらず貧乏生活から抜け出せないでいたあたしとエルは、ひと仕事終えた後、食事を済ませてレンブール市内をうろついていた。


「さっき食べたばかりじゃないですか」


「あんだけの食パンじゃ満足出来ないよー。もっとこう、お肉をガツガツっと…」


「食べたいなら、稼いで下さい。節約でも構いませんよ?」


「ぐぬう…ライトを衝動買いしたのが悪かったか」


いい加減無駄遣いをやめないとな。まあ、ライトに至っては約に立ったけど。僅かに路銀ろぎんの入った財布の中身を見つめて、あたしはため息を吐く。


「どっかにお金落ちてないかなぁー」


「そんな都合良く…あら?」


ふとエルが足を止めて、人だかりのできている方を凝視ぎょうしする。興味を引くような面白いもよおしでもあるのだろうか。


「何か面白いイベントでもやってんの?」


「リノの希望が叶ったみたいですよ」


「えっ?」


エルは微かに笑って、人だかりの奥を指差す。その周囲を見渡すと、やたら屈強な男達がたむろしているのが目についた。男達の視線は、壁に貼られた1枚の広告に釘付けだ。

もしかして、武闘大会だろうか?興味が沸いたあたしは、颯爽さっそうと男達の間を潜り抜けて、その正体を確かめる。


広告の正体は料理店のものだった。どうやら、近日二号店をオープンするらしく、その宣伝も兼ねて小規模の大食い大会を開催するらしい。優勝者にはささやかな賞金も贈られるようで、まさに一石二鳥。突如として舞い込んだ美味しい話に、あたしのテンションは最高(ちょう)に達した。


「うおーっ!これはラッキー♪」


「なんだ、お嬢ちゃんも参加するってのか?」


隣にいる筋肉質の男が話しかけてくる。体格差がある所為せいか、俯瞰ふかんが凄い。あたしは首を痛めない程度に上を向いて応対する。


「そだよ。おにーさんも出るの?」


勿論もちろんさ。参加料があるとは言っても、美味うまい飯が食べ放題ほうだいで、勝てば賞金しょうきんまでもらえるときた」


「へへ、おにーさん結構けっこう食べそうだもんね」


「だろう?俺達みたいな炭鉱マンには、もってこいのイベントって訳さ。お嬢ちゃんには悪いけど、優勝はいただくぜ」


「そうはいかないよ。あたしにも負けられない理由があるからね」


あたしの瞳に焼き付いた『やる気』に、男は関心を示した。


「ほう…かなりのやり手なようだな」


「それが分かるおにーさんも、大したもんだよ。大抵の男の人は、容姿だけで見極めちゃうからね」


「お嬢ちゃんの食いっぷりが楽しみだ。それじゃあまた大会でな」


軽く手を振って、男は人混みへと姿を消した。うーむ、珍しくあたしの力量を見定めている人に出会ったな。武術関連以外では初めてのことかもしれない。


「意外と見る目のあるおにーさんだったな」


「お友達が増えて良かったですね」


「おお、エル。いつの間に」


「開催は3日後らしいですよ。参加料は…500ペカ。ま、妥当だとうなところでしょうか」


「うおー、こうしちゃいられない!今の内に運動してお腹空かせとかないと!」


「だから開催は3日後だと…まあ、好きにして下さい」


やれやれと肩をすくめてホテルに戻るエルを見送ってから、あたしは大会に向けての準備を始めた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そして3日後、大会当日。まだ開始前だというのに、会場である店内は熱気にあふれ、試合が始まるのを今か今かと待ち焦がれている男達がたけっていた。

受付を済ませたあたしはエルと別れ、指定されたテーブルに着席する。目の前にはふたのされた大皿。許す限り食事を制限してきたが為に、空腹で我慢の限界だ。会場入りが早過ぎると、料理のにおいに耐えられなかっただろうな。


「お待たせしました。只今より、コグマヤ二号店のオープン記念を祝しまして、第一回大食い大会を開催致します」


壇上だんじょうに上がった司会の挨拶に反応して、会場は雄叫びで応えた。早い所始めなければ、取って食われかねない剣幕に気圧けおされ、司会は冷や汗をかきながらも頭を下げる。


「えーそれでは、簡単にルール説明をさせていただきます!ルールは至ってシンプル!完食した空の大皿を積み重ねていき、最終的に1番高く積み上げた方が優勝となります!勿論もちろん、食べ残しはいけません!少しでも料理が残っている状態で次の料理を食べようとした場合、即失格となりますのでご注意下さい!!と、こんなところでしょうか?質問等がなければ、スタートしますが…」


誰もが司会の言葉には反応しない。皆、既に臨戦態勢だった。


「それでは…始めー!!!」


盛大に銅鑼どらの音が鳴り響くと、獣達は一斉に大皿のふたを開けた。あたしも例にれず、大皿のふたを勢いよく開く。

1品目はマナ海で獲れる海産物を添えたパスタ。かぐわしいいその香りが、あたしの胃袋を刺激する。


「いただきまーす!」


まずは1口。美味い。空腹が調味料にもなって、これ以上ないぐらい海産物の魅力を引き出していた。もっとその芳醇ほうじゅんさを堪能したいのはやまやまだけれど、大食い大会はスピードが肝心。ゆっくり噛みながら食べている間に、脳に満腹中枢まんぷくちゅうすうが行き渡ってしまう。そうなる前に、可能な限り胃袋に詰め込んでおかなければ。


あたしは口に含んだ食べ物を水で一気に流し込み、間髪入れずに次の分を口に含んでは、のどに詰まらない程度に噛み砕いて水で流す。それをひたすら無心で続けて、無事に1品目を完食する。


「次!」


「おおーっと早い!リノ選手、可憐で華奢きゃしゃな体型からは想像もつかないほどの食べっぷりだぁー!!」


観客が沸き立ち、あたしにエールを送る。周りの参加者が屈強な男達だからか、余計応援したくなるんだろう。あたしは手を振って声援に応えてから、2品目に突入する。

2品目は、パラナ草原に生息している原生生物の肉をこんがり焼いたステーキ。早く食べてくれと言わんばかりに踊る肉汁に、思わずよだれが垂れる。これは中々厄介だ。熱々な分、食べるのに時間を要す。


「しかし…気合いで…!!」


勢い良くかぶりつく。予想以上の熱さだ。舌を火傷しそうだけど構わない。意地と根性で食らいつく。悪戦苦闘しつつも着実に食べ続けた結果、パスタよりも早く完食出来た。


「おーし、次ぃ!」


順風満帆じゅんぷうまんぱん。その後もトップ帯を独走し続けたあたしは、見事最終1位と獲得してしまった。その気になれば何とかなるもんだ。その代わりに、色々なものを犠牲にしてしまったけど…。特にお腹は非常にまずい。少しでも刺激を与えられたらはち切れてしまうぐらい苦しい。


「優勝はリノ・レインバー選手!スタートからトップを独走し続け、そのまま一気に勝利をつかみ取りました!!皆様、惜しみない拍手をお願い致します!」


司会が仰々(ぎょうぎょう)しく祭り上げるけど、当のあたしは壇上だんじょうから手を振るのが精一杯。正直、早く賞金を貰って帰りたかった。がしかし、ここで思わぬ事態が発生する。観客席から『マイク』と呼ばれる、音声を拡大する小型機械があたしに向けて投擲とうてきされ、反射的にそれを受け取る。


「今回の優勝者から一言を」


マイクを投げたであろう人物が発言する。あたしはその声に聞き覚えがあった。そう…アイツだ!観客席をギロリとにらみつけて姿を探すと、悪魔すら舌を巻く程の邪悪な笑みで、こちらを見つめるオージェの姿があった。


「そうですね!折角ですので、リノ選手一言お願いします!」


「うぅっ…!」


やられた!観客の感情が最高(ちょう)に達しているこの場面で、コメントを断ることは不可能。よって、いやがおうでも何か一言は発しなければいけない。でも、その余裕すらないあたしにとっては絶体絶命。ああ、終わった。


あたしの頑張りは、悪魔の妨害によって徒労とろうに終わった。それから後は言うに及ばず。コメントは、あたしの嘔吐物おうとぶつを披露する破目になったのだった…。

※ペカ この世界での通貨 1円=1ペカ

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