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フリーダムガール  作者: 赫宗一
トルーソン編
61/111

師の実力

あたし、リノ・レインバーの師匠であるヒエンは、さやを全面に押し出して真正面から攻勢をかけてくる。速い、速すぎる。常人どころか人間離れしたその突進速度に、あたしは思わず舌を巻く。久しぶりに見たけれど、やっぱり目で追うには限界があるな。ありとあらゆる身体の器官に頼って対応する他ない。


初手。左わき腹に向けてのさやによる一撃。周囲に吹く風で大よその距離感を把握して、タイミングよく弾き返した。…が、あたしの対応は遅かったようだ。さやと入れ替わるようにして、やいばの追撃が顔面に迫っていた。


「ぬあああっ!」


そうはさせまいとガンツが割って入り、自らの鎧をもって師匠の攻撃を受け止めてくれた。身をていしてあたしを守ったことに意表を突かれたのか、師匠は無駄のない足運びで素早く後退した。


「流石は騎士。並みの人間には出来ない芸当だ」


「助かったよおっちゃ。危うく顔が真っ二つになるところだった」


「礼は不要です。それよりも、どう崩したものですか…」


「正直難しいね。全力でもこのザマだし」


「リノ殿でさえ軽くあしらわれる腕の持ち主が相手では、我輩は力になれそうにありませんな…」


ガンツは軽く溜め息をついてから、剣を身体に寄せて構えた。相手の攻撃が来る前から防御の体勢だった。おそらく自らを盾にして、あたしに隙を狙えと言うことなんだろう。悪くない戦術なので特に言及はせず、次の師匠の攻撃に備える。


「なるほど…な。では、私も少し変えようか」


早業でやいばさやに収めたかと思ったら、さやを槍に見立てて投擲してきた。もはや何でもありだな。同時に走り出した師匠の姿を感覚で追いながら、飛来してくるさやを対処する。


「どりゃあっ!!」


なるべく遠くに飛ばそうと、力強くやいばで弾く。けれどいつの間にか、宙に浮いたさやを手にしていた師匠は、曲芸師の如くわずかな動作だけでやいばを弾丸のようにして発射し、あたしに防御を強要してきた。勿論ここで防御すれば相手の思うつぼなんだけれど、そうさせるように仕向けられた攻撃だ。かわせそうもなかったので、さやで受ける選択をする。すると当然、その隙に師匠は次の手を繰り出してくる。


あたしが弾いた反動で浮いたやいばを再度手に、そのまま肉迫してきた。非常に力強いやいばさやの双撃に押し込められ、あたしは体勢を崩された。


「ぐうっ…!」


「甘いな。鍛錬が足りてない」


後退行動を取らせまいと師匠は怒涛の連撃を放ち、あたしのギリギリの防御を破ろうとしてくる。流石は師匠と感心したい場面だけれど、そんなに悠長ではいられない。一介いっかいの冒険者が一連の動作を真似したとすれば、さばくどころか反撃も可能だろうに、あまりにも機敏過ぎてガンツの援護が追いつかない。やっとのことで追いついたかと思ったら、師匠は軽く一薙ぎでガンツを気絶させてしまった。あたしへの攻め手を緩めずによくやる。


「私が教えた事を理解していないようだな」


「感情を乗せるなって…!?」


「お前のやいばを通して、焦りが伝わってくるぞ。まだ未熟な証拠だ」


「ああ、そうですかい…ッ!!」


心の中を見透かされているようで、無性に腹が立った。あたしは気合いを入れて踏み止まり、本来なら避けるであろうやいばの一太刀を無理矢理にさやで受けた。


「どーでぃ!」


「…愚かだな」


そう師匠が呟いたが最後、あたしのさやはヒビ割れて砕け、残骸が宙を舞った。大切にしていた武器が壊れてしまったことに動揺して、放たれていた回し蹴りに直撃する。シャレにならないぐらい痛い。大きく吹き飛ばされて盛大に地面を転がる様は、さぞ恰好悪い姿だったことだろう。


「…これ以上は時間の無駄だな。リノ、お前の実力は良く理解した」


「まだ…!まだ終わって…!!」


「戦う者にとって、武器とは己の命に等しく大切な物。それを失ったと言う事は、お前はもう死んでいるも同然だ」


「うるっ…さいっ!!」


怒りの感情に従って、折れたやいばを片手に特攻するも、あっさりとかわされて腹部に蹴りをもらう。身体中を駆け回る痛みがより加速し、思考能力を低下させる。再度地面を転がったあたしにやいばを突きつけて、師匠は抑揚のない声色で言う。


「今のような無謀な吶喊とっかんを教えた覚えはないが」


「…師匠の教えを聞くだけじゃ、師匠を…越えられないからね」


「そうか。弟子としては失格だな」


悔しさのあまり、あたしは握り拳で大地を叩いた。石が刺さる痛みも忘れて、ただただひたすらに。あたしの心をへし折った事で満足したのか、師匠は武器を収めるとくるりと身体を反転させる。


「リノ、一つ忠告しておくぞ。お前は精霊の力を解放する為に各地を旅していると聞いたが…その旅も、ここを終着点としておけ。これ以上の精霊への干渉は、私の障害となる」


「…何を、たくらんでるんだよ。師匠」


「その答えは、私に一太刀でも浴びせられるようになってからだ」


「ケチ。大っ嫌いだ」


「好かれたいとは思っていない。では…な」


折れたあたしのやいばを地面に突き立てると、師匠は音もなく砂のように視界から消えた。あたしの旅の目的でもあった、師匠との再会。それがようやく達成されたというのに、最悪の形であたしに襲いかかってきた。


「バカ…。師匠のバーカ…」


急にやってきた強烈な睡魔すいまに逆らえず、あたしは意識を深い谷底に落とす。武器も心も折られたあたしの逃げ場は、夢の中しかなかった…。

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