表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリーダムガール  作者: 赫宗一
トルーソン編
53/111

作戦会議

オルレイ派からの奇襲を受けたその日の夜、右翼隊長シードの遺体を略式で埋葬したあたし達は、城塞内部の一画にある『作戦会議室』で今後の話し合いをすることにした。クーも「私も参加したい」と名乗りを上げてくれたけど、12歳の子供には過酷な話だと思い、部屋で寝てるようにうながした。初めは不満気な様子を見せていたクーも、戦いがどういうものなのかをシードの死で悟ったのか、今回は大人しく言う事を聞いてくれた。


そう、あたし達が今から始めることは戦争に近い。多かれ少なかれ犠牲者の出る戦場に、クーを置くことは出来ない。仮に参加してもらうにしても、傷ついた兵士の治療等に回ってもらうのが適任だろう。


「で、これからどうするんだ?」


綺麗に整理された椅子には座らず、入口前の壁にもたれかかっては、オージェが問う。


「まずは、奴らについての情報収集からである。本当に人質がいるのかさえも怪しいし、正直分からないことが多いのである」


「その点については問題ありません」


珍しく帽子を取っているエルが、小さく手を上げて回答する。


「エルノア殿、それは一体どう言う…?」


「言葉通りです。昼の襲撃の際、逃げ遅れていた兵士の1人を捕まえて、取り調べをさせてもらいましたから」


「尋問したのか。…敵の兵士がそう簡単に口を割るとは思えんが。一体どんなえげつない手を使ったんだ?」


「えげつないとは失礼ですね。あくまでも、優しく取り調べをさせていただいたまでです」


口ではそう主張するものの、エルの表情は戦っている時のオージェによく似ていた。何て邪悪な笑みを浮かべるんだ、まったくもう。


「それで、内容は?」


「メイシーさんがオルレイ派の手中にあるのは間違いないようです。第二の城塞の隣に設置された、時計塔に幽閉ゆうへいされていると」


「なんと…!では、我輩達が迂闊うかつに動こうものならば、メイシー殿の命が危険に晒されると…!」


オルレイの狡猾こうかつ非道な行いに、一旦は収まった怒りが再燃したのか、ガンツは歯ぎしりをしながら肩を震わせた。


「ガンツさん。気持ちは分かりますが、どうか冷静に。功を焦っては、得られたはずのチャンスを逃してしまいます」


「…申し訳ないのである」


「で、何か勝算はあるの?エル」


「勿論です。彼らを懲らしめる算段は既に整っていますよ。ガンツさんの許可が出れば、提案させていただきますが」


「ど、どうして自分が…?」


「シードさん亡き今、隊長は貴方なんですガンツさん。この国を左右するを私に握らせても良いのかどうかは…貴方が決めて下さい」


エルの指摘にガンツは戸惑いの表情を見せた。シードの前では威勢の良い啖呵たんかを切ったガンツだったけれど、いざ自分が隊長として皆を導けと言われても、そう簡単に割り切れるものじゃない。


「我輩が迷っているようでは、部下達に示しがつかんであるな…。エルノア殿、宜しくお願い致します」


うけたまわりました。ではまず、部隊を2つに分けます。1つは、メイシーさんを救出する部隊。そしてもう1つは、オルレイ派と交戦する部隊。以上の2つの部隊で、事に当たります」


「救出ってことは、敵に感づかれないよう少人数で構成すんの?」


「その通りです。さらに言えば、迅速さを要求される局面ですので、それなりの戦闘力が期待できるメンバーで構成することが重要ですね」


「んじゃ、あたしはそっちのメンバーかな?」


「ですね。それと…リノには悪いですが、オージェさんが適任かと」


少なからず予想はしていたことが現実になった。どうしてこう毎回、この嫌味男と一緒にならないといけないんだ。


「やだ!」


「却下です。諦めて下さい」


「我がまま言ってんなよ、デコ」


「ぐぎぎ~っ…」


人命がかかっている以上、この場合はやむなしと諦める。あたしが観念して受け入れたのを一瞥いちべつしてから、エルはトルーソン国の地図を持って来て、長机に広げた。


「オルレイ派を時計塔から引き離す為に、交戦部隊は高々と旗を掲げて、彼らをカングタート平原に誘い出して下さい。戦闘が始まったと同時に、リノとオージェさんが時計塔に侵入します」


「なるほど。我輩達がおとりとなる訳でありますな?」


「そうです。ただ…人質を取られている関係上、反撃の出来ない非常に苦しい戦いを強いられるでしょう」


「あたし達が早く救出すれば、その分被害が少なくなるってことね」


「責任重大ですよ。やれますか?」


確かにエルの言う通り、万が一あたし達が失敗すれば、全体の敗北に繋がることは必至ひっし。けれど、色んな国で数々の修羅場をくぐってきたあたしにとっては、この程度は朝飯前だ。


「あたしに任せておきなって。…一応、ハゲもいるし」


「付け足すな。まあ…こっちは任せてくれていい。問題はガンツ、お前の方だ」


「我輩でありますか?」


「そうだ。まともに指揮を執ったこともないお前に、集団戦が出来るのか?」


「それについては問題ありません。私がガンツさんのサポートに入りますから」


あたしはエルなら大丈夫だと思ったけれど、どうにもオージェは不安らしく、本当に大丈夫なのかといった視線でエルにうったえる。


「安心して下さい。有事の際に行動出来るようにと、集団戦闘の勉強もしておりますので」


「…自信たっぷりだな。その方がエルノアらしいと言えばらしいが」


オージェはやれやれと肩をすくめて腕を組み直すと、まんざらでもなさそうに口元を緩ませた。こいつが笑うと何だか気味が悪いな。


「よーし、話はまとまったね。それで、いつ仕掛けるの?」


「可能な限り早い方が良いですね。あまりもたもたしていると、相手に先手を打たれてしまいますので」


「では、決行は明日…?」


「騎士道精神にのっとって、早朝にしましょうか。その間にガンツさん、用意してもらいたい物があるのですが」


「何でも申しつけ下さい、エルノア殿」


「あ、リノ達は先に休んでて下さい。作戦のかなめであるお二人に、倒れられては困りますからね」


「りょーかい。エルもあんまり遅くならないようにね。おっちゃも」


「おっちゃではなく、ガンツである」


これまでは、あたしのおっちゃ呼びに不満気なガンツだったけれど、今日はどことなく嬉しそうに返答してくれた。会議室を後にして、オージェと2人通路を歩く。


「おいデコ。クーストラはどうするつもりだ?」


「やってもらうとしても後方支援だろーね。怪我した兵士の治療とか」


「ならいいが…。しっかりしてはいるが、あいつはまだ子供なんだ。あまり無茶はさせるなよ」


「おー?えらくクーちゃんには優しいじゃあないの。はっ!まさか異性として好きに―――」


「なってねえよ。お前達が破天荒はてんこう過ぎるから、まともな感性のクーストラがついて行けるか心配なだけだ」


「え~、本当にそれだけかなぁ~?」


「それだけだ。どんな罠が仕掛けてあるのか分からない。お前も気をつけろよ」


「う、うん…」


珍しくあたしの心配をしてくれたオージェが意外過ぎて、つい普通に返事をしてしまった。そのおかげか、ネパルマ国で砂クジラと戦った時に、命懸けであたしを助けてくれたことをふと思い出す。


「あ、あのさ…」


「何だよ」


「ネパルマで砂クジラと戦ったじゃん。あん時に、あんたに助けてもらった礼を言いそびれてたなって。だから、その…ありがと」


「デコに言われると気色悪い」


「なっ…!何だと-!?こっちは素直に礼を言ってるってのに、こいつー!!」


「うるせえな、夜中だから静かにしろよ」


「ぐぬぬ…」


こいつは、本当に可愛くない奴だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ