作戦会議
オルレイ派からの奇襲を受けたその日の夜、右翼隊長シードの遺体を略式で埋葬したあたし達は、城塞内部の一画にある『作戦会議室』で今後の話し合いをすることにした。クーも「私も参加したい」と名乗りを上げてくれたけど、12歳の子供には過酷な話だと思い、部屋で寝てるように促した。初めは不満気な様子を見せていたクーも、戦いがどういうものなのかをシードの死で悟ったのか、今回は大人しく言う事を聞いてくれた。
そう、あたし達が今から始めることは戦争に近い。多かれ少なかれ犠牲者の出る戦場に、クーを置くことは出来ない。仮に参加してもらうにしても、傷ついた兵士の治療等に回ってもらうのが適任だろう。
「で、これからどうするんだ?」
綺麗に整理された椅子には座らず、入口前の壁にもたれかかっては、オージェが問う。
「まずは、奴らについての情報収集からである。本当に人質がいるのかさえも怪しいし、正直分からないことが多いのである」
「その点については問題ありません」
珍しく帽子を取っているエルが、小さく手を上げて回答する。
「エルノア殿、それは一体どう言う…?」
「言葉通りです。昼の襲撃の際、逃げ遅れていた兵士の1人を捕まえて、取り調べをさせてもらいましたから」
「尋問したのか。…敵の兵士がそう簡単に口を割るとは思えんが。一体どんなえげつない手を使ったんだ?」
「えげつないとは失礼ですね。あくまでも、優しく取り調べをさせていただいたまでです」
口ではそう主張するものの、エルの表情は戦っている時のオージェによく似ていた。何て邪悪な笑みを浮かべるんだ、まったくもう。
「それで、内容は?」
「メイシーさんがオルレイ派の手中にあるのは間違いないようです。第二の城塞の隣に設置された、時計塔に幽閉されていると」
「なんと…!では、我輩達が迂闊に動こうものならば、メイシー殿の命が危険に晒されると…!」
オルレイの狡猾非道な行いに、一旦は収まった怒りが再燃したのか、ガンツは歯ぎしりをしながら肩を震わせた。
「ガンツさん。気持ちは分かりますが、どうか冷静に。功を焦っては、得られたはずのチャンスを逃してしまいます」
「…申し訳ないのである」
「で、何か勝算はあるの?エル」
「勿論です。彼らを懲らしめる算段は既に整っていますよ。ガンツさんの許可が出れば、提案させていただきますが」
「ど、どうして自分が…?」
「シードさん亡き今、隊長は貴方なんですガンツさん。この国を左右するを私に握らせても良いのかどうかは…貴方が決めて下さい」
エルの指摘にガンツは戸惑いの表情を見せた。シードの前では威勢の良い啖呵を切ったガンツだったけれど、いざ自分が隊長として皆を導けと言われても、そう簡単に割り切れるものじゃない。
「我輩が迷っているようでは、部下達に示しがつかんであるな…。エルノア殿、宜しくお願い致します」
「承りました。ではまず、部隊を2つに分けます。1つは、メイシーさんを救出する部隊。そしてもう1つは、オルレイ派と交戦する部隊。以上の2つの部隊で、事に当たります」
「救出ってことは、敵に感づかれないよう少人数で構成すんの?」
「その通りです。さらに言えば、迅速さを要求される局面ですので、それなりの戦闘力が期待できるメンバーで構成することが重要ですね」
「んじゃ、あたしはそっちのメンバーかな?」
「ですね。それと…リノには悪いですが、オージェさんが適任かと」
少なからず予想はしていたことが現実になった。どうしてこう毎回、この嫌味男と一緒にならないといけないんだ。
「やだ!」
「却下です。諦めて下さい」
「我が儘言ってんなよ、デコ」
「ぐぎぎ~っ…」
人命がかかっている以上、この場合はやむなしと諦める。あたしが観念して受け入れたのを一瞥してから、エルはトルーソン国の地図を持って来て、長机に広げた。
「オルレイ派を時計塔から引き離す為に、交戦部隊は高々と旗を掲げて、彼らをカングタート平原に誘い出して下さい。戦闘が始まったと同時に、リノとオージェさんが時計塔に侵入します」
「なるほど。我輩達が囮となる訳でありますな?」
「そうです。ただ…人質を取られている関係上、反撃の出来ない非常に苦しい戦いを強いられるでしょう」
「あたし達が早く救出すれば、その分被害が少なくなるってことね」
「責任重大ですよ。やれますか?」
確かにエルの言う通り、万が一あたし達が失敗すれば、全体の敗北に繋がることは必至。けれど、色んな国で数々の修羅場を潜ってきたあたしにとっては、この程度は朝飯前だ。
「あたしに任せておきなって。…一応、ハゲもいるし」
「付け足すな。まあ…こっちは任せてくれていい。問題はガンツ、お前の方だ」
「我輩でありますか?」
「そうだ。まともに指揮を執ったこともないお前に、集団戦が出来るのか?」
「それについては問題ありません。私がガンツさんのサポートに入りますから」
あたしはエルなら大丈夫だと思ったけれど、どうにもオージェは不安らしく、本当に大丈夫なのかといった視線でエルに訴える。
「安心して下さい。有事の際に行動出来るようにと、集団戦闘の勉強もしておりますので」
「…自信たっぷりだな。その方がエルノアらしいと言えばらしいが」
オージェはやれやれと肩を竦めて腕を組み直すと、まんざらでもなさそうに口元を緩ませた。こいつが笑うと何だか気味が悪いな。
「よーし、話はまとまったね。それで、いつ仕掛けるの?」
「可能な限り早い方が良いですね。あまりもたもたしていると、相手に先手を打たれてしまいますので」
「では、決行は明日…?」
「騎士道精神に則って、早朝にしましょうか。その間にガンツさん、用意してもらいたい物があるのですが」
「何でも申しつけ下さい、エルノア殿」
「あ、リノ達は先に休んでて下さい。作戦の要であるお二人に、倒れられては困りますからね」
「りょーかい。エルもあんまり遅くならないようにね。おっちゃも」
「おっちゃではなく、ガンツである」
これまでは、あたしのおっちゃ呼びに不満気なガンツだったけれど、今日はどことなく嬉しそうに返答してくれた。会議室を後にして、オージェと2人通路を歩く。
「おいデコ。クーストラはどうするつもりだ?」
「やってもらうとしても後方支援だろーね。怪我した兵士の治療とか」
「ならいいが…。しっかりしてはいるが、あいつはまだ子供なんだ。あまり無茶はさせるなよ」
「おー?えらくクーちゃんには優しいじゃあないの。はっ!まさか異性として好きに―――」
「なってねえよ。お前達が破天荒過ぎるから、まともな感性のクーストラがついて行けるか心配なだけだ」
「え~、本当にそれだけかなぁ~?」
「それだけだ。どんな罠が仕掛けてあるのか分からない。お前も気をつけろよ」
「う、うん…」
珍しくあたしの心配をしてくれたオージェが意外過ぎて、つい普通に返事をしてしまった。そのおかげか、ネパルマ国で砂クジラと戦った時に、命懸けであたしを助けてくれたことをふと思い出す。
「あ、あのさ…」
「何だよ」
「ネパルマで砂クジラと戦ったじゃん。あん時に、あんたに助けてもらった礼を言いそびれてたなって。だから、その…ありがと」
「デコに言われると気色悪い」
「なっ…!何だと-!?こっちは素直に礼を言ってるってのに、こいつー!!」
「うるせえな、夜中だから静かにしろよ」
「ぐぬぬ…」
こいつは、本当に可愛くない奴だ。




