表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリーダムガール  作者: 赫宗一
トルーソン編
52/111

貫き通す想い

「シ、シード殿ぉ!!」


ガンツの絶叫が講堂に響き渡った。周囲の兵士達も動揺が抑えられないのか、ざわめき狼狽うろたえている。凶弾に倒れたシードの元へと駆け寄ろうとしたガンツの行く手を、オルレイがさえぎった。


「おやおや。どうされましたかな、ガンツ殿。まだ式の途中ですぞ?」


「バカかな!?シード殿が撃たれたのであるぞ!早く救命に…を」


さすがのガンツも気付いたらしい。今回の件は、このオルレイが仕組んだものであると。


「まさか…オルレイ殿が?何故であるか!?騎士でありながら、このような…!!」


「フッ…ハハハ!騎士とは笑わせてくれますな。そんな肩書き、何の意味も成しませぬ。戦いは勝利すればよいのです。勝者こそが、全てを手にする権利を得られる。過程など…無価値」


騎士そのものを否定するかのようなオルレイの発言に、ガンツの抑えていた気持ちが爆発したようだ。わなわなと怒りに震えるその手で剣を取り、オルレイへ向けて突き立てた。


「腐ったか、オルレイッ!!」


「腐っているのはシード派の者達ですよ。変わることを知らず、女王の言うがままに動いている傀儡くぐつ。私は現体制を変えたいのですよ。この国は女王が統治するのではない!私のような、優れた指導者が治めるべきであるとね。私の覇道を成就じょうじゅする為に、シード派には消えてもらわねばならない」


オルレイが指を弾いて音を立てると、オルレイ派の兵士達は鎧の中に隠し持っていた短剣を手に、攻撃態勢に入った。


「全軍攻撃開始!騎士を語る愚か者共を一掃せよ!」


怒号どごうにも近い雄叫びを上げて、オルレイ派はシード派に斬りかかった。非常にマズイ展開だ。こっちはシードが倒れたことで指揮系統が麻痺し、さらには動揺が走っている最中。まともに戦える精神状態じゃない。

孤月の後を追いたいけれど、今はそんな場合じゃない。この局面を乗り越えないと、シードの介抱すらままならない。…と、ここで講堂内のあちこちに竜巻にも似た突風が発生し、オルレイ派が次々と宙に飛ばされては地面に叩きつけられていく。こんな芸当が可能なのはただ1人、オージェだ。


「なっ、何だあの男は!?我々が全く歯が立たないとは…!」


「お前らが弱すぎるんだよ。肩慣らしにもなりゃしない」


「ふ、ふざけたことを!」


「どっちがだ。こんな姑息こそくな真似をすることが正義だってんなら、お前らの覇道とやらもたかが知れてる…なッ!」


オージェの一薙ぎで、兵士達のドミノが出来上がる。相変わらず馬鹿力な男だ。普通の人間なら驚くであろうこの衝撃に、オルレイはあたし達の存在を認知した上でこの作戦に出たのか、兵士達と違って特別動揺を見せたりはしない。それどころか高らかに笑うと、腰に下げていた剣を引き抜いてオージェと対面する。


「ははは、中々。剣には自信があるようですな?」


「自慢出来るほど強くはないがな」


「ほう、そうですか。では…私の相手ではないと言うこと」


「は?ぶった斬るぞ」


「私に手を出しても良いのですか?これ以上抵抗するようならば、こちらにも考えがあります」


「…一応聞いてやる」


「メイシー、と言う名の少女はご存知ですか?」


オージェは一瞬だけ眉を動かす。この発言が意味するところ…つまりは人質。どこまでも汚い連中だ。


「それがどうした?」


「察しの悪いことだ。つまり―――」


「わざわざ言わんでも理解している。その上で俺は言っている」


「…本気なのですか?」


「くどい。俺には関係のない事だ」


「ちょっと、ハゲ!!」


「おや、貴方の髪はカツラでしたか。若い割には苦労しているようですな」


「違え!これは地毛だ!!こらデコ、話をややこしくすんな!!」


オージェの目は本気だった。何を考えているんだ?人質がどうなっても良いって。殴ってでもオージェの目を覚まさせてやろうと思ったけれど、視界の隅に見えたエルの眼力で、間違っていたのはあたしの方だったと気付く。これは、カマをかけていた。オルレイ派にとって、人質は切り札なんだろう。その人質がいなくなったとなれば、後ろ盾がなくなって総攻撃を受ける。だからこそ、オルレイも安易に人質を手に掛ける真似が出来ないんだ。


「どうした、怖気おじけづいたか?」


「フフ、強情なことだ。良いでしょう。今回は貴方の勇気に免じて、ここは引き上げることとしましょう。ですが、次はありませぬぞ…?」


オルレイが指を弾くと、兵士達は鮮麗された無駄のない動きで速やかに講堂から退出した。


「さて、それでは私はこれで。ではまた」


遊びに来たかのように軽い挨拶をして、オルレイは姿を消した。足音が遠ざかって行ったことで脅威が去ったのを確認してから、あたし達は外の見張りを兵士に任せ、シードの容態を調べに行く。クーは恐怖と悲しみの混じった涙を流しながら、懸命に治癒魔法をかけ続けていた。見るだけでも身体が痛くなる、真っ赤に染まった鎧。戦闘のプロである孤月が放った矢だけあって、狙いは正確無比。あまり考えたくはないけれど、これはもう助からないだろう。目が開いているのか閉じているのかさえ定かではないシードは、力なく右手を上げてまた落とす。


「ハハハ…憐れだな。信じた結果がこのような…」


「シード殿…!」


「私も、心のどこかで薄々と感じてはいた。オルレイ殿が、このような暴挙に出ることを…。だが、だが私は…!信じたかった。かつては仲間であった誇り高き者を、信じたかったのだ…!!」


シードの無念の叫びが、講堂内に木霊こだまする。別にあたし自身が裏切られた訳ではないのに、酷く胸に響いた。


「…ガンツ、すまない。これは私の愚かさが招いた惨事。許してくれ」


「愚かなどと、とんでもございません!」


ガンツは大粒の涙をこぼしてシードの手を取る。


「シード殿は、騎士としての本分を全うされたのであります!それを笑うような不敬な輩が、いったいどこにおりましょうか!?我輩はそんなシード殿だからこそ、今までお仕えしてきたのであります!どうか…どうかご自分を責めることはお止め下さい!!」


「私は…実に良い部下を持ったな。…ガンツよ、私の最後の命令を聞いてくれ」


「最後と言ってくれますな!この程度の傷、クーストラ殿が―――」


ガンツは一縷いちるの望みをかけてクーを見るも、クーの絶望した表情で答えを理解した。


「…シード殿、お聞かせ下さい」


「うむ。オルレイ殿…いや、逆賊オルレイを討て!奴を討ち果たし、このトルーソンに平和を築け…!トルーソンの未来は…お前の…手に…」


「シード殿!!」


クーが治療を止めた。つまり、もうシードはこの世にはいない。安らかな表情で息絶えるシードに向かって、エルは帽子を取り静かに頭を下げた。あたしとオージェも自分達なりの礼で、誇り高き騎士に手向けをていした。


「シード殿の想い、確かにたまわりましたぞ…!このガンツ、粉骨砕身!見事逆賊を討ち果たしてみせましょうぞ!!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ