貫き通す想い
「シ、シード殿ぉ!!」
ガンツの絶叫が講堂に響き渡った。周囲の兵士達も動揺が抑えられないのか、ざわめき狼狽えている。凶弾に倒れたシードの元へと駆け寄ろうとしたガンツの行く手を、オルレイが遮った。
「おやおや。どうされましたかな、ガンツ殿。まだ式の途中ですぞ?」
「バカかな!?シード殿が撃たれたのであるぞ!早く救命に…を」
さすがのガンツも気付いたらしい。今回の件は、このオルレイが仕組んだものであると。
「まさか…オルレイ殿が?何故であるか!?騎士でありながら、このような…!!」
「フッ…ハハハ!騎士とは笑わせてくれますな。そんな肩書き、何の意味も成しませぬ。戦いは勝利すればよいのです。勝者こそが、全てを手にする権利を得られる。過程など…無価値」
騎士そのものを否定するかのようなオルレイの発言に、ガンツの抑えていた気持ちが爆発したようだ。わなわなと怒りに震えるその手で剣を取り、オルレイへ向けて突き立てた。
「腐ったか、オルレイッ!!」
「腐っているのはシード派の者達ですよ。変わることを知らず、女王の言うがままに動いている傀儡。私は現体制を変えたいのですよ。この国は女王が統治するのではない!私のような、優れた指導者が治めるべきであるとね。私の覇道を成就する為に、シード派には消えてもらわねばならない」
オルレイが指を弾いて音を立てると、オルレイ派の兵士達は鎧の中に隠し持っていた短剣を手に、攻撃態勢に入った。
「全軍攻撃開始!騎士を語る愚か者共を一掃せよ!」
怒号にも近い雄叫びを上げて、オルレイ派はシード派に斬りかかった。非常にマズイ展開だ。こっちはシードが倒れたことで指揮系統が麻痺し、さらには動揺が走っている最中。まともに戦える精神状態じゃない。
孤月の後を追いたいけれど、今はそんな場合じゃない。この局面を乗り越えないと、シードの介抱すらままならない。…と、ここで講堂内のあちこちに竜巻にも似た突風が発生し、オルレイ派が次々と宙に飛ばされては地面に叩きつけられていく。こんな芸当が可能なのはただ1人、オージェだ。
「なっ、何だあの男は!?我々が全く歯が立たないとは…!」
「お前らが弱すぎるんだよ。肩慣らしにもなりゃしない」
「ふ、ふざけたことを!」
「どっちがだ。こんな姑息な真似をすることが正義だってんなら、お前らの覇道とやらもたかが知れてる…なッ!」
オージェの一薙ぎで、兵士達のドミノが出来上がる。相変わらず馬鹿力な男だ。普通の人間なら驚くであろうこの衝撃に、オルレイはあたし達の存在を認知した上でこの作戦に出たのか、兵士達と違って特別動揺を見せたりはしない。それどころか高らかに笑うと、腰に下げていた剣を引き抜いてオージェと対面する。
「ははは、中々。剣には自信があるようですな?」
「自慢出来るほど強くはないがな」
「ほう、そうですか。では…私の相手ではないと言うこと」
「は?ぶった斬るぞ」
「私に手を出しても良いのですか?これ以上抵抗するようならば、こちらにも考えがあります」
「…一応聞いてやる」
「メイシー、と言う名の少女はご存知ですか?」
オージェは一瞬だけ眉を動かす。この発言が意味するところ…つまりは人質。どこまでも汚い連中だ。
「それがどうした?」
「察しの悪いことだ。つまり―――」
「わざわざ言わんでも理解している。その上で俺は言っている」
「…本気なのですか?」
「くどい。俺には関係のない事だ」
「ちょっと、ハゲ!!」
「おや、貴方の髪はカツラでしたか。若い割には苦労しているようですな」
「違え!これは地毛だ!!こらデコ、話をややこしくすんな!!」
オージェの目は本気だった。何を考えているんだ?人質がどうなっても良いって。殴ってでもオージェの目を覚まさせてやろうと思ったけれど、視界の隅に見えたエルの眼力で、間違っていたのはあたしの方だったと気付く。これは、カマをかけていた。オルレイ派にとって、人質は切り札なんだろう。その人質がいなくなったとなれば、後ろ盾がなくなって総攻撃を受ける。だからこそ、オルレイも安易に人質を手に掛ける真似が出来ないんだ。
「どうした、怖気づいたか?」
「フフ、強情なことだ。良いでしょう。今回は貴方の勇気に免じて、ここは引き上げることとしましょう。ですが、次はありませぬぞ…?」
オルレイが指を弾くと、兵士達は鮮麗された無駄のない動きで速やかに講堂から退出した。
「さて、それでは私はこれで。ではまた」
遊びに来たかのように軽い挨拶をして、オルレイは姿を消した。足音が遠ざかって行ったことで脅威が去ったのを確認してから、あたし達は外の見張りを兵士に任せ、シードの容態を調べに行く。クーは恐怖と悲しみの混じった涙を流しながら、懸命に治癒魔法をかけ続けていた。見るだけでも身体が痛くなる、真っ赤に染まった鎧。戦闘のプロである孤月が放った矢だけあって、狙いは正確無比。あまり考えたくはないけれど、これはもう助からないだろう。目が開いているのか閉じているのかさえ定かではないシードは、力なく右手を上げてまた落とす。
「ハハハ…憐れだな。信じた結果がこのような…」
「シード殿…!」
「私も、心のどこかで薄々と感じてはいた。オルレイ殿が、このような暴挙に出ることを…。だが、だが私は…!信じたかった。かつては仲間であった誇り高き者を、信じたかったのだ…!!」
シードの無念の叫びが、講堂内に木霊する。別にあたし自身が裏切られた訳ではないのに、酷く胸に響いた。
「…ガンツ、すまない。これは私の愚かさが招いた惨事。許してくれ」
「愚かなどと、とんでもございません!」
ガンツは大粒の涙をこぼしてシードの手を取る。
「シード殿は、騎士としての本分を全うされたのであります!それを笑うような不敬な輩が、いったいどこにおりましょうか!?我輩はそんなシード殿だからこそ、今までお仕えしてきたのであります!どうか…どうかご自分を責めることはお止め下さい!!」
「私は…実に良い部下を持ったな。…ガンツよ、私の最後の命令を聞いてくれ」
「最後と言ってくれますな!この程度の傷、クーストラ殿が―――」
ガンツは一縷の望みをかけてクーを見るも、クーの絶望した表情で答えを理解した。
「…シード殿、お聞かせ下さい」
「うむ。オルレイ殿…いや、逆賊オルレイを討て!奴を討ち果たし、このトルーソンに平和を築け…!トルーソンの未来は…お前の…手に…」
「シード殿!!」
クーが治療を止めた。つまり、もうシードはこの世にはいない。安らかな表情で息絶えるシードに向かって、エルは帽子を取り静かに頭を下げた。あたしとオージェも自分達なりの礼で、誇り高き騎士に手向けを呈した。
「シード殿の想い、確かに賜りましたぞ…!このガンツ、粉骨砕身!見事逆賊を討ち果たしてみせましょうぞ!!!」




