精霊様に会いに行こう
人間と妖怪の国が歴史的和解を遂げた翌日、妖怪の王であるダイダラボッチに呼ばれたあたし達は、再び妖怪の国を訪れていた。相も変わらず常夜で周囲は薄暗いけれど、以前とは違って、メインストリートは活気に溢れていた。
多種類の妖怪達が、各々元気に動き回っている姿が散見され、その誰もが笑顔だった。
「いやー、賑わってるねぇ~。苦労した甲斐があったよ」
「そうですね…」
帽子の鍔を下げて力なく答えるエルを見て、あたしとクーは顔を見合わせて軽い溜め息。下戸の中の下戸だったようで、おちょこ一杯で二日酔いらしい。まだ未成年なのに、嘘ついてまで飲もうとするから罰が当たったんだ。あたしも飲んでみたかったのに。
「自業自得。これ、いつもエルがあたしに言ってる言葉だかんね」
「今日ばかりは、反論できませんね。以後自重します…」
「でもエルお姉ちゃん、本当にお酒弱いんだね。意外な弱点発覚…かな?」
「だねえ。あーもう。魔法カメラ持っとけば良かったな~」
「随分と楽しそうやんねえ」
聞き覚えのある女性の声に、あたし達は足を止める。前方を見渡すと、特徴的な髪型に風変わりな赤い着物を羽織った『人の形をした妖怪』が歩いて来た。
「ろくろさん!」
「リノちゃんこんにちは。エルちゃん、クーちゃんも。…あら?エルちゃんは体調悪そうやね」
「ご心配なく。ただの頭痛ですので…」
エルが帽子で素顔を隠すさまを見て勘づいたのか、ろくろさんは陽気に微笑んで手を仰いだ。
「アハハッ。さては二日酔いやね?若いのに無理するから」
「まだあるんですよ!エルってば———」
エルがこうなった経緯を事細かに説明すると、ろくろさんは盛大に声を出して笑いだした。
「ハッハッハッ、面白いねえ!エルちゃん、見た目に反して意外とお茶目なんやねぇ」
「もう、笑いごとじゃないですって。ろくろさんからも何か言ってやって下さいよ」
「ええんとちゃう?若いうちは、何事も経験せな。まあ…手段は選んでね」
「…肝に銘じておきます」
「それで、リノちゃん達はアレ?王様に呼ばれてたんやっけか」
「ですです。またハーレムの仲間入りしろ!…とかの無茶な注文したりしないよね?」
「ちゃうよ。リノちゃん達を呼んだんは、会わせたい人がおるからとか言ってたで?」
ろくろさんが頬に手を当てて、考えるような仕草を取る。おそらく、その相手が誰なのかを聞いているんだろう。思い出せないのか、首まで捻って見せる。いつもならエルが解答を用意してくれるけど、今回はクーが代わりを務めてくれた。
「リノお姉ちゃん。もしかしてだけど、国の問題を解決したから、この国の精霊様の力が蘇ったのかも知れないよ?」
「おお、そう言えばそんな話があったね!確かにそう考えれば、辻褄が合うな!」
「…何の話をしてるんかは分からんけど、早う行ってあげてね」
「はーい。そいじゃ行こっか。ほらエル!行くぞー!」
「ま、待って下さい…」
用事があると言って民家街に溶け込むろくろさんを見送った後、よろめくエルの肩を持って、妖怪王ダイダラボッチの待つ『羅生館』へと急ぐ。途中休憩を挟みながら、変わりつつある街並みを観賞しながら歩くこと数十分。付近のどの山よりも高くそびえる青い山が1つ。ようやく『羅生館』に到着した。
「うー、相変わらずだだっ広いなあ…」
「先が見えないもんね。どうしよう、さすがにエルお姉ちゃんをダイダラさんの所までは運べないよ」
「来たか!」
激しい耳鳴りと共に、青い山が動いた。入口に何か仕掛けてあったらしく、門周辺が淡く光っていた。
「うおっ、なんだなんだ!?」
「これ…魔法だよ。トラップ系統の魔法。特定の範囲に足を踏み入れると発動するタイプで、防犯によく用いられるよ」
「ふむふむ…。やっぱり詳しいね、クーちゃん。えっと、この場合で言えば――———」
「来客用の鐘に近い…かな。ダイダラさんが設置したのかもね」
「その通りだ!」
羅生館の奥から、妖怪王ダイダラボッチが大地を揺るがしあたし達の元に近づいて来た。歩いても地震が起きたかのような衝撃。移動1つでも大変だな。
あたし達なら数十分はかかるであろう距離を、たったの2、3歩で移動したダイダラボッチは、身体を屈めてあたし達に視線を向けた。
「待っていたぞ、美少女三人衆」
「何だその呼び名は」
「…駄目か?」
「いや、ダメって訳じゃないけど…うん」
「む、帽子の娘は体調が悪いのか?」
「ええ…。ですが、気にしないで話を続けて下さい」
「そうか。ならば、単刀直入に用件を話すぞ」
ダイダラボッチは胡坐をかき、腕を組んで言葉を続ける。
「精霊を知っているか?」
「うん。会ったことあるし」
「そうか、知っている…えっ!会ったことあるって!?」
砂漠の国ネパルマで出会った、火の精霊王イフレイアについて大まか話すと、ダイダラボッチは転がりそうになった胴体を懸命に戻してから目を見開いた。
「…貴様達、凄いですね」
「色々と言葉遣いがおかしいですが…。先程リノ言った内容で概ね違いありません」
「王様がそーゆーことを聞くってことは、やっぱり精霊様が力を取り戻したんだね。クーちゃんの予想が当たったね」
「えへへ…」
「ぬう、説明は不要であったか。ならば話が早い。この羅生館の隅にある祠に行って欲しいのだ。そこで精霊様が貴様達を待っている」
「りょーかい。んで、その祠ってどこにあるの?」
「今から連れて行く。乗れ」
ダイダラボッチは手の平を差し出して、この上に乗るよう促してくる。意図通り乗って座ると、あたし達を振り落とさないぐらいの速度で、巨腕を動かした。
「うっ…!」
「ちょ、ちょっとエル!こんな所で吐かないでよ!?」
「ちょっとした乗り物に近いから、酔うのかも。エルお姉ちゃん大丈夫?」
クーが優しくエルの背中をさすると、落ち着いた様子を見せた。無理に連れて来ない方が良かったかな?
「あそこだ」
前方に見えた館の傍に、歪で小さな祠が見えた。おそらくあれが目的地だろう。予想通り、ダイダラボッチは入口の手前で自身の大きな手を地面につけた。
「着いたぞ、ここだ」
「サンキュー王様♪さって…一体どんな精霊様なんだろうね」
「…それは分かりかねますが、相手はこの世界の調停を司る神様のような存在です」
「うん…?難しい言葉は良く分かんないんだけど」
「つまり、偉い人だから態度には気をつけなさいってことだよね?」
クーのアシストに、エルが静かに頷いた。火の精霊王イフレイアにも普段の調子で大丈夫だったし、問題ないだろう。何があっても対応出来るように、獲物を片手に持って祠の奥に進んだ。




