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フリーダムガール  作者: 赫宗一
ネパルマ編
28/111

お別れと旅立ち

イフニド教を後にしたあたしとエルは、ルエーテン市街地に存在するガレットの店に向かった。店の入り口まで戻ると、クーとオージェの姿が見えた。何やらクーが嬉しそうに、オージェに話かけている。オージェの方もまんざらではないらしく、やや口元を緩ませて相槌あいづちを打っていた。


「おーい。クーちゃーん、ハゲー!」


あたしが大きく手を振ると、クーは両手を使って応えてくれたけれど、オージェは仏頂面でそっぽを向いた。ええい、可愛くない奴め。


「リノお姉ちゃん、エルお姉ちゃん、おかえり!イフニド教に行ってたんだよね。どうだった?」


「たーくさんお礼を言われたよ。あ、それと凄い独特な雰囲気の建物にお邪魔したよ!」


「えっ、どんな!?教えて!」


目を輝かせて、子犬のようにじゃれついて来るクーの頭を撫でる。反応が純粋で可愛いと、つい構いたくなるな。


「ぬっふっふっ。それはねぇー」


「それは後にして、まずは用事を済ませましょうか、リノ」


「用事?」


「ええ。ガレット老人に」


「それは話し合いで済みそうなことか?」


エルとクーの会話に、オージェが割って入る。


「そうですね。今回は、オージェさんの力を借りずとも済みそうです」


「…なら、俺は行かせてもらうぞ。もう次の依頼があるんでな」


「はい。わざわざ付き合っていただいて、ありがとうございました。恰好良かったですよ」


「フン、言ってろ」


いつもの調子憎まれ口を叩くオージェだけれど、その声色は心なしかはずんでいた。


「オージェさん、本当にありがとうございました!大したお礼は出来ませんけど、えと…その…」


「気持ちだけで十分だ。それよりも、身体には気を付けろよ。あまり無茶ばかりしてると、倒れるぞ?」


「は、はい!気を付けます!それから…あの…」


「まだ何かあるのか?」


「オージェさんのこと、オーさんって呼ばせてもらっても良いですか?」


クーの唐突なお願いに、きょを突かれたオージェは目を見開く。クーにとって、オージェの存在はお兄ちゃんのようなものなのだろう。…あたしは認めたくないけれど。若干戸惑った姿を見せたオージェは、軽く頭をいた後、やや気まずそうに口を開いた。


「…お前がそう呼びたいんなら、好きにすればいい」


「…!はい!ありがとうございます、オーさん!」


慣れてないらしく、そっぽを向いて照れ隠しをするオージェが、妙に面白かった。


「オーさ~ん!あたしからもありがとー!オーさ~ん♪」


「うるせっ、デコ!俺はクーストラにしか許した覚えはねえ!!ぶった斬るぞ!」


「キャーッ、こわーい」


「やれやれ、リノもりませんね…。では、お元気で。オーさん?」


「…お前もか、エルノア」


エルの悪戯いたずらっぽさを含んだ笑みに、オージェは大きく溜め息をついて、がっくりと肩を落とした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


オージェの出立を見送ってから、あたし達3人はガレットの店内にお邪魔した。中は相も変わらず発明品が無造作に陳列されていて、一見何の店か分からない。あたし達の入店に気付いたのか、暖簾のれんの奥からガレットが姿を現す。何やら作業中だったらしく、顔の一部がすすで汚れていた。


「おお、お前さん達!よく来たのう!」


「はろー、じっちゃ。顔が汚いけど、また発明品でも作ってたの?」


「バギーの修理じゃよ。ワシの整備が行き届いてなかったのもあってか、所々にガタがきていてのう。まさかたった1回の使用で、これほど大破するとは思わなんだ」


「少々無茶させ過ぎましたか。申し訳ありません」


「いや、謝ることはない。機械は直せても、人間の身体は直せないからのう。操縦者の命が最優先じゃて。それを踏まえると、バギー(コイツ)は良い仕事をしたわい」


「そう言っていただけると助かります」


エルは珍しく、帽子を取って頭を下げた。あたしは直接バギーを操縦した訳ではないからよく分からないけれど、実際に担当したエルにとっては、色々と思うところがあるんだろう。少し長めにそれを続けて、エルは帽子を被り直す。微妙にずれたつばを修正するのがエルらしかった。


「それはそうと、今日はどんな用件じゃ?まさかただの冷やかしって訳じゃないじゃろう?」


「もちのろん。じっちゃの大嫌いなイフニド教のお話だよ」


イフニド教の名前を出した途端、ガレットの表情が険しくなる。やっぱりまだ根に持っているのか。


「その話なら聞かんぞい。ワシはあやつらを許すつもりはないからの」


「もー聞く耳持たず?頑固がんこなじいさんだなー」


「何とでも言うがいいわい。ワシは結構根に持つタイプなんじゃ」


「現最高指導者のテスラさんにお会いして来ましたが、深く、それはもう深く反省されておられましたよ。信徒しんととがは、私のとがだと」


ここでガレットは、溜め息をついて付近の椅子に座る。話すかどうか悩んでいるかのような素振りを見せるも、やがて口を開いた。


「実を言うとの、もう怒ってはおらんよ」


「えっ、マジ?」


「マジじゃ。所詮しょせん、ワシの偉大さを理解出来ない凡愚共ぼんぐども戯言たわごとじゃからな。…確かにその一時は怒りもしたが、今では何とも思っとらんよ」


「負けましたね、リノ」


「うっさいよエル」


「それじゃあ、どうしてガレットおじいちゃんはそんな態度をとってるんですか?」


「なるほど、分かりましたよ。ただ単に、素直になれないだけなんですね?」


「ぬぐっ…!」


ガレットはわざとらしく胸部を押さえて、椅子の上でよろめく仕草を見せる。もっと根の深い何かがあるのかと思いきや、意外と簡単な話だった。


「なんだよそれー」


「フ、フンッ!別にワシも機会さえあれば、いつでも—————」


「では、そうしてもらおうか」


空間に、野太い男の声が木霊こだまする。どうやら追いかけて来たらしい。少しして、その姿が実体化する。正体はやっぱりイフレイアだった。


「どわあああっ!?なっ、何じゃ突然!?」


「追いかけて来たの?精霊様。まだあたし達に何か用事でもあった?」


「うむ。そなたら同様、そちらの老人にな」


ガレットは驚いた拍子に転んでいたらしい。クーに手伝ってもらって床からゆっくりと立ち上がると、手を震わせながらイフレイアを指差した。


「も、もしやと思うが、お前さんが精霊という存在なのか…?」


如何いかにも。我は火の精霊王イフレイアなり」


「ハハハッ…!こりゃあ凄い!精霊の王様が直接ワシの所に来るとは、驚き以外の何物でもないわい!!」


「嬉しそうだね、じっちゃ」


「当たり前じゃ!生涯見ることのないと思っていた、幻の存在を直でおがめたんじゃぞ!?こんなに嬉しいことはないわい!」


「ハハハ、それは何よりだ。さて…早速で悪いのだが、老人よ。そなたには今からイフニド教へ行ってもらいたいのだが」


精霊の王から、その言葉が出るとは思ってもみなかったのだろう。ガレットは気難しい表情で、片方の眉根をつり上げた。


「ワシにも信徒しんとになれと言う気なのか?すまんが、いくら王様の頼みでも、ワシは入信などせんぞ」


「そなたは何か勘違いしておるな。我の望みは、そなたとテスラの関係修復だ」


「何じゃと!?」


「ほーら、いつまでもじっちゃが意地張ってるから、王様がお怒りだよ?」


「別に怒ってなどおらん。我の存在を受け入れてくれている者達が、心沈む姿を見ておれんのだ」


「王様なのに、働き者ですね」


エルの発言に、イフレイアはフッと微笑んで腕を組んだ。


「ぬぅ、しかし…」


「先程まで機会があればいつでもー、とか言っていたのはどこの誰ですか。いい加減、素直になったらどうですか?」


「じっちゃ」


「ガレットおじいちゃん」


「ぐぬぬぬ…!」


「ふむ、らちが明かぬな。では…致し方ないが、強硬手段を取らせてもらおう」


「な、何をする気じゃ…?」


イフレイアが特殊な呪文を唱えると、ガレットの周囲に魔力を含んだ光が集束していく。これは以前、あたし達が火山に行った時に使っていた上級魔法、転移の魔法だ。


「ぬおおおっ!?」


「先に行ってもらう。後ほど我も向かう故、心配するな」


「そう言う問題じゃ—————」


ガレットの言葉は最後まで届くことはなく、そのまま光の中へと消えていった。


「無情だな」


「無情ですね」


「精霊様って、凄く大胆なんですね…!」


「さて。そなたらも、そろそろ行くのであろう?」


「そうだね。もう暑いのはこりごりだし、次はお隣のシャンタにでも行ってみようかなーって」


「そうか。では、1つだけ頼み事を受け入れてもらえるだろうか?」


「何でしょうか?可能な範囲でしたら、お引き受けしますが」


「うむ。他の国でも、このネパルマのような問題が原因で、精霊の力が弱まって加護がおよんでいない可能性があるのだ」


「そんな事が分かるの?」


「力が戻ったことで、国境辺りまでの気配を読み取れるようになったのでな」


イフレイアの力のことはよく分からないけれど、今言っていたことが本当なら、シャンタは生態系のバランス等々が、大きく傾いている状態にあることになる。砂クジラのように、間違った進化を遂げている原生生物がいれば、それはまた大変なことになるだろう。


「リノお姉ちゃん…」


クーが不安そうな表情であたしを見つめて来る。大丈夫。旅は道連れ、世はなんとかってやつだ。


「了解。もしそんな状態になってたとしたら、可能な範囲でやってみるよ」


「重ね重ねすまぬな。我の力が届かぬ場所が為に、そなたらを頼る他ないのだ」


「お任せ下さい、精霊様!」


「さーて、そろそろ出発しますかね!」


大きく息を吸い、勢いよく伸びをしていると、ふと思い出す。


「あっ」


「どうしましたリノ?」


むくろ!お礼言ってないけど、どこ行った!?」


「彼でしたら、リノが寝てる間に新しい商売を求めて他国に向かいましたよ。あ、ちゃんと衝撃砲も返却しましたので、安心して下さい」


「そっか。挨拶出来なかったのは残念だけど、骸が元気そうだったならいいや。おーし、今度こそうれいなし!」


「では、我が国境付近まで送ってやろう」


「あんがとー、精霊様♪」


それぞれが次なる新天地の光景を思い浮かべて、転移魔法の光に身をゆだねた。


シャンタ。いざ、あたしの師匠ししょうが生まれ育った国へ―————

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