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フリーダムガール  作者: 赫宗一
ネパルマ編
23/111

対決!砂クジラ その2

だいぶバギーを近づけてはいたものの、砂クジラまではそれなりの距離があった。もしかしたら、届かないかもしれない。そんな不安がよぎったけれど、何とか砂クジラの背に取りついた。オージェも無事だったのを確認して、一安心。


さて、ここまでは順調。素早く次の行動に移る。砂クジラの乗り心地は案外悪くなく、表面がごつごつしている分、滑って落ちることもなさそうだ。が、もしもの為と思い、ロープを腹部にくくり付けて命綱としておく。


「デコ、始めるぞ!」


「分かってる!行くぞーーー!!」


いよいよ攻撃開始。あたしは愛刀をさやから抜いて、砂クジラの肉体に勢いよく突き刺す。そしてオージェは大剣で力強くぎ、広範囲を切り裂いて攻撃した。

しかし…言われていた通り、僅かに出血こそするものの、砂クジラに目立った動きの変化は見られない。皮が厚すぎて、肉まで届ききっていないのだろう。これは思った以上に骨が折れる仕事になりそうだ。


「くっそー!全然効いてないみたいだぞ!!」


「俺が知るか!黙って攻撃を続けろ!!」


「だーりゃあああぁぁぁ!!」


あたしは勢いをつけて、鉤爪かぎつめを食い込ませた位置から離れるようにして大きく飛ぶ。それから、側面にやいばを突き刺した後、振り子の原理を利用しての滑空かっくう斬りをお見舞いしてやる。

砂クジラの側面には、緩やかな曲線が描かれていき、まるでアートサーカスでもしているかのような気分になった。刺したやいばは、砂クジラの皮をえぐり獲る鈍い音を発しながら、凄まじい速度であたしを運んでいく。風圧も相当で、髪を留めているリボンが取れてしまわないかと心配になり、無意識にさやを持っていた左手で確認する。


それからしばらく進んで、しっかりはしまで到達してから、締めに巻き取りのボタンを押して、再び背に戻った。


「どーよ!」


と、オージェにアピールする。けれどオージェはオージェで、大剣を振り回して皮を削ぎ落としていた。皮のちりが派手に飛んでは風に流され、攻撃を加えている一部分だけみるみる薄くなって、他の箇所と比べ高低差が出来た。

オージェはそこに大剣を突き立てて、岩の巨人と戦った時のように、大剣の中央部を展開して呪文を唱える。やがて隠されていた紅色の球体が輝きを放つと、オージェはそれを撃ち込んだ。


少しして、砂クジラ反応があった。流石に効いたのか、耳をつんざうなり声を上げて、急激に速度を上げ始めた。それに伴い、砂の嵐が発生して、無数のつぶてがあたし達に襲いかかる。大きい物を優先的に回避して、小さい物はやいばで弾いて対応する。


けれど、あまりにも膨大な量の為に、その全てをさばくのは不可能。痛いけれど、我慢して小粒は受ける。地上にいた時と違って、砂クジラの背に乗っている分、被害が少ないのが幸いだ。このぐらいの量であれば、しばらくは耐え凌げる。


「おいデコ!まだ生きてるな!?」


砂塵が口に入らないよう手で口を隠しながら、オージェは叫ぶ。


「あんたこそ!振り回されてもう落とされてるかと思ったよ!」


「…それだけ減らず口が叩けりゃ上等だ!」


オージェはあたしに『頭部の方へ向かう』と目で訴えた後、鉤爪かぎつめと大剣を巧みに利用しての移動を開始した。その後ろ姿を見送ってから、あたしは体勢を低くして双眼鏡を手に持つ。


そろそろ、クーの援護射撃が届く頃合いだ。なるべく正確な位置を狙ってもらうには、しっかりと誘導しなければ。きっと今頃は、相当緊張しているであろうクーの心情をおもいつつ、バギーの姿を探す。時折飛来する大粒を払いながら、双眼鏡を右に流すと、砂の海を走る1つ影が見えた—————


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


まさに今、自身の心情を表現しているかのような、激しく振動するバギーに揺られて、クーは衝撃砲を構え『その時』を待ち続けていた。戦う前、オージェに気を遣ってもらった際には強がって見せたものの、いざ戦闘になると、心の底から恐怖の感情が押し寄せてくる。

振動にまぎれて分かりにくいが、肩は震え、唇はキュッとしまって余裕がない。先行して砂クジラの背に飛び移った、リノやオージェ達の事を心配してしまう。


怪我をしていないだろうか。衝撃砲を外してしまったらどうしよう。…と、そんなことばかり考えてしまい、不安の文字が頭から離れない。もうそろそろ、砂クジラに攻撃を仕掛ける『約束』の時間が迫っているのもあり、より一層不安は強まる。暑さの所為せいでもあるが、極度の緊張きんちょうで、額からは汗がしたたり落ちる。


「クーちゃん、そろそろです。準備は良いですか?」


バギーを操縦しているエルが、クーに最終確認をうながす。声色は普段と変わりなかったが、クーにはそれが、自身のことを案じてくれている台詞なのだと、直感的に悟った。


「う、うん…」


思わず弱気な返事をしてしまう。この返答に、察しの良いエルが気付かないはずはなく、数秒間の沈黙の後口を開いた。


「怖いですか?」


「…うん。みんなの前では強がって見せたけど、やっぱり実物を目の前にしたら、身体の震えが止まらなくって」


「そうですか。確かにクーちゃんの言う通り、口ではどれだけ強がっても、実際その場に立ち会えば、誰でもおくするものです」


「エルお姉ちゃんも、怖かったりするの?」


「ええ、勿論です。リノやオージェさんのような、生粋きっすいの闘争者な訳でもありませんからね。ただ少し口が立つだけの、一般人です」


「そんなことない。エルお姉ちゃんは立派な『大人』だよ」


「ふふ、ありがとうございます。ではそんな『大人』の私からアドバイス…いえ、お節介を」


エルは咳払いをして、諭すような口調で話始めた。


「怖くても良いんですよ。その感情をいだくのはとても大切です」


「…どうして?」


「恐れを知らなければ、その心が闇に侵されてしまうからです。特定の行為を行う事が、どのような意味を持つのか…。それをしっかりと理解していれば、誤った道に進んだりはしないでしょう?」


「分かるような、分からないような…」


「では、例題を1つ。ある日突然、クーちゃんはナイフで人を刺さなければならなくなりました。誰を狙いますか?」


「誰も狙わないよ!」


「理由は?」


「勿論、人が傷つくのが怖いから…あっ」


クーは、エルの真意を理解したようにハッとした。幼いながらも理解が早い。


「そっか。怖いって感情がなかったら、傷つけることの悲しみさえも分からないんだね…」


「その通りです。ですから、自身がいだいた感情を誤魔化してはいけません。ありのまま感じれば良いんですよ。砂クジラの怖さを知っているクーちゃんだからこそ、分かる事があるはずです」


「私だから、分かる事…」


操縦している関係で、クーからはエルの笑みは見えなかった。けれどクーには、エルの気持ちが手に取るように理解出来る。やはりエルノア・アールコートという女性は『大人』だ。クーはそう強く感じると同時に、深い尊敬の念を抱いた。


気持ちを整理してから、軽く息を吸う。すると、心の中につっかえていたモノが消えたような気がする。肩の震えも収まり、自然と平静さ取り戻した。クーは自身のほおを2、3回叩いて気合いを入れる。


「エルお姉ちゃん、ありがとう。私…頑張ってみる」


「ええ。応援してます」


再び沈黙が訪れ、バギーの駆動音だけが砂漠の海を遊泳ゆうえいする。休みなく走り続けて10分少々。前方に、幾多いくたの砂を巻き上げながら、こちらに接近して来る砂漠の主が見えた。


「エルお姉ちゃん!」


「見えましたね。さて、準備は良いですか?」


「…うん!!」

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