勝機の衝撃砲
クーが衝撃砲に魔力を込めた直後、強風が嵐のように吹き荒れては過ぎさり、ズドンと重く鈍い音が空間を支配した。鋼の板を見ると中央部分に凹んだ跡があり、遠目から見ただけでもその威力のほどが容易に理解出来た。
「おー。初めて目ぇにしたけど、コイツはとんでもない威力やなー」
「す、すみません!!ほんの少しだけしか注入していないはずだったんですけど…!」
「それがこの、オーバーテクノロジーの力と言うことですね」
「せやな。ま、今のはクーストラちゃんの才能あっての結果やと思うけど。他の人間が使ってもこうはならんで」
骸が、クーに興味を示したかのように目線を送る。それは商売人としての鋭い眼光だった。
「骸。興味があるのは結構だけど、うちのクーちゃんは渡さないよ?」
「ん?ハハハッ、ちゃうちゃう!クーストラちゃんには悪いけど、俺はエルノアの方が好みやね」
「お世辞でも嬉しいです。…付き合いませんよ?」
「分かっとるよ!お宅らも色々と忙しそうやからね」
「分かるの?」
「伊達に人間相手に商売しとらんよ。リノの目ぇ見れば、何か困ってる事ぐらい察せる」
少し驚いた。表には出していないはずの感情を読み取られるとは思わなかった。あたしが隠すのが下手なのか、はたまた骸の洞察力が優れているのか。
「お見通しって訳ね。そうだよ、ちょーっち困っててさぁ」
「む、やけに賑やかじゃと思ったら、戻っておったのか」
暖簾の向こうから、ガレットが姿を見せた。しまった。話をするのに夢中になって、本来の目的をすっかり忘れていた。
「だー!ごめんじっちゃ、すっかり忘れてたよ!!」
「こりゃ骸。リノ達はワシの客じゃぞ」
「すまんすまん。おもろい嬢ちゃん達だったから、つい話し込んでしもうて」
骸は愛想笑いをしながら、無駄のない足運びで後ろに逃げた。そのまま退散するわけではなく、どうやら話を聞くらしい。
「まあ、良いか。で…首尾はどうじゃった?」
「一応目的の物は手に入れたんだけど、色々問題が発生したって言うか…」
「ほう。聞こうか」
あたしが説明しようと口を開くも、エルによって制止される。代わりに説明してくれるらしい。エルは軽く咳払いをした後、これまでの経緯を端的に話始めた。
やがて話が終わると、ガレットは唸りながら手を口に当てて考える仕草を取った。表現するならば『にわかには信じられない』といった様子だった。
「…嘘みたいな話だな。じゃが、こうして精霊石が手元にある以上、信じない訳にはいかんのう」
「じっちゃが驚くのも無理ないよ。当事者あたし達だって実感わかないってのに」
「しかしまあ…あの砂クジラを倒そうなどと、随分デカイ話だの」
「やっぱ無理…かな?」
「何が無理なものか。ワシの発明品があれば十分可能じゃて」
「大した自信ですね」
「ワシを誰だと思っとる?世紀の大発明家、ガレット様じゃぞ?」
「自称!が抜けとるで」
骸の余計な一言に、ふんぞり返っていたガレットは「うるさいわい」と反撃する。
「そんなに心配せんでも、大船に乗ったつもりでおれ」
「じっちゃ、もしかして協力してくれるの?」
「おうともさ。ワシの発明品を、この国の人間に知らしめる絶好の機会じゃからの。ついでに国の問題児とも言える砂クジラも倒せるなら、まさに一石二鳥じゃわい」
「野心丸出しですね。正直なのは好感がもてますが」
エルが呆れた声色で言うと、ガレットは親指を立てながら豪快に笑った。理由は何であれ、協力してくれるのはとても心強いな。肩を竦めるエルとは反対に、クーは小さな拍手を送っていた。
「と言う訳で。すまんがリノよ。急かすようで悪いが、精霊石を貰えんじゃろうか。バギーを仕上げてしまいたいんじゃ」
「あいよー。期待してるよ、じっちゃ」
「任せておけい。明日までには完成させて見せるわ」
あたしから精霊石を受け取ったガレットは『何か用があれば呼んでくれ』と告げて、暖簾を潜って奥へと姿を消した。
機械独特の接触音が聞こえだしたのを耳に入れてから、骸は再びあたし達との距離を詰めた。
「忙しないじいさんやなあ。ま、熱心に打ち込むあの姿勢は感心するけども」
「確かに」
「そんで、お宅らはどうやってあの怪物を倒す気なんや?」
骸の指摘に、あたしは頭を抱える。勢いだけでどうにかなる相手じゃないのは理解出来るのだけど、明確なビジョンは未だに見えてこない。ガレットの協力は心強い…けれど、まだそれだけではパズルのピースは揃わない。
「それなんだよねぇ。性能がどれほどのもんかは知らないけど、移動手段に関してはじっちゃのバギーを使わせてもらうとして…」
「問題は攻撃か。いくら近付こうとも、有効打がないんじゃ意味ないからなあ。リノの持っとるその武器で薙ごうが、砂クジラにとっちゃ蚊に刺された程度の衝撃やろうよ」
「だよねぇー…。どうすっかね」
ぼやくあたしの問いに答えんが如く、沈黙を続けていたクーがずいと歩み出る。その表情を見るに、何やら良い考えがありそうだ。
「クーちゃん、何か良い案でも浮かんだの?」
「うん。…とは言っても、骸さんの許可がないと成り立たないんだけどね」
その発言で気付いたのか、骸は手の平に拳を乗せておお!と反応した。
「そっかそっか!衝撃砲やな!確かにこれなら、ある程度の距離からでも攻撃出来るな!」
「付け加えるなら、大砲とは違って移動撃ちが可能です。なので、バギーからでも十分な戦果が期待できます」
ですね?と、帽子の鍔をいじりながらエルがクーに問う。満点回答だったのか、クーは笑顔を見せた。
「ど、どうかな?」
「クーちゃんナイスアイデア!それ採用!…と言いたいんだけど。骸、衝撃砲貸してもらえる?」
「ええよ。じいさんやないけど、俺も自分の商品が活躍するのは気分がええしな」
「あ、ありがとうございます!」
「感謝しますよ、骸さん」
「だから呼び捨てでええって。…んまあ、エルノアにはさん付けされた方がしっくりくるけどな」
「違いない。ともあれ、本当にありがとね!」
「おうさ。俺は応援しか出来んけど、頑張りや」
「うーし!後は小道具を集めて、ホテルで作戦会議だ!」
希望が見えたことで戦意高揚したあたし達は、軽く手を振る骸に手を振り返してから、ホテルへ向かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
リノ達の姿が見えなくなってから数分後、ガレットの店に残っていた骸は、意味あり気に口を僅かに開けて息を吸う。
「リノ・レインバー…か。あれが『あの男』の一番弟子ねえ。確かに肝は据わってたが…」
「まだ青い」
突如として骸の前に現れた『それ』は、無機質な声色で言う。
「どわっ!?おったんか」
「ずっといたよ。あなたの事だから、気付かないフリをしてるだけかと思ったけど」
「んじゃ、そーゆーことにしとくわ。しかしまあ、本当にやれるんかね?」
「出来なければ、私が代わりに遂行するだけ」
「おんや。それってお宅の師匠の意思に反するんじゃ?」
「関係ない。まがい物に好き勝手にさせるぐらいなら、私が片付ける」
先程まで無機質な声色を保っていた『それ』は、嫉妬めいた含みを見せて吐き捨てた。
「嫉妬?」
「違う。うるさい。ひっぱたくよ」
「堪忍してや。まったく…リノといいお宅といい、怖い女の子だことで」




