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フリーダムガール  作者: 赫宗一
ネパルマ編
19/111

炎帝イフレイア

自らを火の精霊王と名乗った怪人イフレイアは、宙で胡坐あぐらをかく。普通の人間では不可能な芸当を目の当たりにすれば、信じざるをえない。


「少々…いえ、だいぶイメージと違いました。もっと小柄で可愛らしいのを想像していたんですが」


「角を取ればただのおっさんだな」


「…お前達、酷くない?」


一応我は精霊王なんだぞ。と、震え声で訴えるイフレイアをかばうべく、クーが会話に割って入った。


「す、すみません精霊王!数々の無礼をどうかお許し下さい!」


「そうだよエル、ハゲ。いくら本当…じゃなかった。言っていい事と悪い事あるでしょ!?」


「リノ、全く擁護出来てませんが」


「ある意味お前が一番(けな)してるぞ、デコ」


「もーっ、みんなストップ!」


クーが顔を真っ赤にして声を張り上げる。それから1人1人に視線で威圧して釘を刺した後、イフレイアに向き直った。


「度々申し訳ありません。謝罪で済むことではないのかもしれませんが…」


「ハハハ、多少傷つきはしたが構わぬよ。近代では、我ら精霊に対する信仰心は薄いようだからな」


ちょっとは傷ついたらしいイフレイアは、腕を組み直して身体の熱を活性化させた。肉体からは小さい火の柱が吹き出し、周囲の気温はぐっと引き上がる。


「それで、我に何用か?わざわざ人間がこのような灼熱の地に訪れるなど、滅多な事ではあるまい」


「えっと、実は精霊石を探しておりまして———」


クーは簡潔にまとめて話した。するとイフレイアは、何か納得したように何度もうなずいた。


「なるほど…な。お前達の事情は理解した」


「精霊王。身勝手なお願いだとは思いますが、どうか精霊石をいただけないでしょうか?」


「良いぞ、くれてやるのは構わぬ。だが…代わりと言ってはなんだが、1つ我の願いを聞き入れてもらえぬか?」


「は、はい!出来る範囲でなら!」


「助かる。…我が頼みたいのは、このネパルマ国全体に関係することだ」


「もしやそれは、国に精霊石が降り注がれなくなった件に起因きいんしていますか?」


ずっと考察していたのか、エルの鋭い指摘が飛ぶ。あたしも似たようなようなことを思っていた。

何故、精霊の王を名乗る生物が目の前に存在しているのにもかかわらず、ネパルマ国内で精霊石を見ることがないのか。イフレイアが特別人間を嫌っている素振りを見せていないということは、すなわち———


「察しの良い娘よな。帽子の娘の発言通りだ。今この国には異変が起きている。我の力がおとろえて精霊石を振りまけなくなったのも、それゆえなのだ…」


「異変…!?一国の運命さえ左右出来るほどの力を持った、精霊様をも抑え込める『何か』が起こっているんですか…!?」


「うむ。それが何かまでは断定出来ない…がしかし、僅かではあるが、年々その力が増しているのを感じ取れるのだ。悪しき、よこしまなる力をな」


イフレイアは、自身の手の平に出していた火の球を力強く握り潰して、心の内を表現する。


よこしまなる力…ねえ」


「リノ、何か心当たりでも?」


「いや、割とヤバイ話を聞いたなって思って」


「そうですね。一介の民間人と精霊の王とでは、発言の重みが違いますしね。それで、私達へのお願いと言うのは、そのよこしまな力が何なのかを追求すれば良いのですか?」


「端的に言えばそうだ。可能な範囲で構わぬ。何か1つでも、原因の特定に繋がるような糸口を探し出して欲しいのだ」


「難しいな。何の情報もない中からとなれば、砂漠に落としたダイヤを探せと言っているようなものだぞ」


オージェの発言は無意識に反論したくなるけれど、今回ばかりは黙る他ない。精霊王でもおぼろげにしか分からない事象を、無知のあたし達が解明出来るはずがない。それこそ雲をつかむような話だ。半ば諦めかけの雰囲気の中、ただ1人クーだけは目を閉じて真剣に考え込んでいる。


「あら?」


その時、不意にエルが声を上げる。


「どったの、エル?」


「クーちゃんの肩に乗ってるそれは…?」


「えっ?」


ちょっと失礼しますと断りを入れてから、エルはクーの肩に乗っていた『それ』を取った。強度があり、透明で粘着性の強い指先ほどの大きさの『それ』。あたしとエルは、同時に理解して口を開いた。


うろこ


うろこ…?どうしてそんなものが私の肩に?」


「それ、砂クジラのうろこの欠片だな。お前達、あの怪物に遭遇したのか」


「間一髪、クーちゃんの魔法で助かったけどね」


「悪運の強い奴だ。そのまま砂に埋もれておけば良かったものを」


「何だとー!?ハゲの癖に偉そうな———」


「ぬう!」


イフレイアの唐突な発声によって、あたしの言葉はさえぎられる。何か信じられないといった様子で、エルの指先を凝視した。


「どうしましたか、精霊王」


「そのうろこ、もっと近くで見せてはもらえぬか?」


「構いませんよ」


言う通りに、エルはうろこの欠片を指先に付け、イフレイアの目の辺りまで動かす。


「…何と言う事だ」


この発言と、その表情で察したのか、エルは大きく溜め息をついた。


「どうやら原因は、砂クジラのようですね」


「ええっ、マジ…!?」


「…事実だ。欠片の表面に、微かだが精霊石の力を感じる。あまり考えたくはないが、石を食しているのだろう」


「精霊石って食べ物なの…?」


「厳密に言えば違う。しかし直接体内に取り込むことで、その生物の成長を促進そくしんさせたと言う稀有けうな例がある」


「…ようするに、砂クジラと火の精霊石の相性がたまたま良かったと。国中の精霊石を食い荒らせば、あれだけ巨大になるのも納得だな」


「では、力のさまたげとなっている砂クジラを倒せば、問題が解決すると?」


「おそらくはな」


簡単に言うけれど、あれだけの質量を有する怪物を倒すのは、もはや不可能に近い。大袈裟な言い方をすれば、砂クジラは天災そのもの。人の手に及ぶ存在じゃない。

けれど…何故だかどうして、あたしの心の奥底には、闘志と言う名のともしびが付き始めていた。少しでもイフレイアの力になりたいであろうクーは、不可能に近い現実を突き付けられて、がっくりと項垂うなだれていた。

あたしは、そんなクーの頭を優しく撫でてやる。


「リノお姉ちゃん…?」


「なーにがっかりしてんの、クーちゃん。やる前から諦めてどうするのさ」


「えっ…!?まさか、砂クジラと戦う気なの!?無理だよ、いくらリノお姉ちゃんでも———」


「珍しく意見が合致したな。俺もあのデカブツを打ち伏してやりたいと思っていたところだ」


オージェは不敵な笑みを浮かべて、背負っている大剣の柄を握った。見るからにやる気満々で、普段は邪魔にしか思っていなかったオージェが、今回ばかりは妙に頼もしく感じた。


「そんな、オージェさんまで!人間の手に負える相手じゃありませんよ!」


「そうだろうな。だが、俺はやるぞ」


「…どうしてそこまで」


「話を聞いた俺達がここでやらなければ、時を待たずして精霊という存在そのものが消失してしまう可能性が高いからだ。そうなれば、この国で生きている人間はどうなる?クーストラ、お前なら分かるはずだ」


オージェにさとされ、クーは我に返ったかのようにハッとしてうつむく。あたし達のことを心配してくれた上での発言だった。と理解を示すも、クー自身は納得出来ないといった様子で、視線を泳がせている。そんな煮え切らないクーの頭を、今度はエルが優しく撫でた。


「嘘はいけませんよ、オージェさん。リノは別にしても、貴方の1番の理由は強者と戦いたいことでしょう。世界危険珍獣に指定されている相手なら尚の事」


違いますか?とエルに振られ、オージェは軽く鼻を鳴らしてそっぽを向いた。隠し事が苦手なようだ。


「ま、クーちゃん。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。何の勝算もなしに戦うって言ってる訳じゃないからさ」


「…うん、分かった。でも1つだけ!無茶だけは…しないでね。約束だよ?」


目じりに涙を見せる女の子のお願いを、聞かない訳にはいかない。あたしはクーが安心出来るよう、満面の笑みで返してイフレイアに向き直った。


「そーゆーことで、精霊様のお願い、あたし達に任せてよ。出来る限りやってみるからさ」


「頼んだぞ。勇敢な人の子らよ」

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