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フリーダムガール  作者: 赫宗一
ネパルマ編
14/111

夢を求めて

「えー、この度は大変失礼致しました」


原形が分からないぐらいゆがんだ顔の状態で、ガレットは深く頭を下げる。あたしは直接的な被害者じゃない分、別段怒ってはいないのだけれど、エルとクーはそうは思っていないだろう。事実エルは、今も尚邪気を放ち続けている。


「それで許されるとでも?」


「いやあ、つい出来心で…っておわあぁ!?」


エルは鋭い殺意を持って、ガレットをにらみつける。まさしく鬼の形相。くわばらくわばら。


「ま、まあもう過ぎたことですから。…凄く恥ずかしかったですけど」


クーはその心優しさで、ガレットの顔面の傷を治し始める。通常、魔法書を介して発動する治癒魔法なら1時間はかかるであろう傷を、クーはたったの3分でやってのけた。魔法使いの末裔まつえい伊達だてじゃないな。


「おおっ!こんなに早く傷が治っちまうなんて、こいつは一体どんな手品を使ったんじゃ?」


「えっと、それは———」


「答える必要はありません」


「ま、まあまあ。エルお姉ちゃん、もう許してあげよう?それより私、ガレットおじいちゃんの作った機械の事が知りたいです」


クーはガレットの技術力に興味を示したのか、傷を治した後、色々な小型の機械を手に取って鑑賞する。


「お前さん、クーと言ったか。お前さんも中々見どころのある奴じゃのう」


「い、いえいえ!私なんかそんな!」


「そんなに謙遜けんそんすることはあるまいよ。事実お前さんの魔法は、今までワシが生きてきた中で一番すげえ治癒魔法じゃったぞい。もっと誇っても良い」


「あ、ありがとうございます…」


褒め殺しに押されて、クーは頬を真っ赤に染めて頭を下げた。


「こら、うちの可愛いクーちゃんを口説くなエロジジイ」


「おおっと、まあそう怒るでない。お前さん達にはワシのとっておきを見せてやるから」


「見せて…何ですか?」


「す、すんませぇん!是非見ていただきたいと思ってまぁぁぁす!!」


エルの有無言わさぬ凄味に屈して、ガレットは情けない声を上げる。コロコロと表情が変わる分、見ていて飽きないじいさんだ。


「えー、えーとじゃな。ちょっとこっちに来てくれんか」


「…すみませんがリノ、お願いします」


「ほーい」


エルとクーを残して、ガレットと暖簾のれんの奥に進む。倉庫なのか、辺りは真っ暗で何も見えない。


「明かりはないの?」


「ちょっと待っとれい」


そう言ってガレットは、壁にあるスイッチを押してライトを点灯させる。すると、周囲が明るくなったと同時に、大型の機械があたしの目の前に姿を現した。

全長は2mぐらいだろうか。茶色と銀色のコントラストが目を引く長方形状のデザインで、その見た目から察するに乗り物のようだ。4つ角に取り付けられた車輪が光で反射し、その品質の良さをうかがわせている。


「ガレットのじっちゃ、こいつは?」


「馬車や牛車ぎっしゃのように、人を乗せて移動する事が可能な機械…名付けてバギーじゃ」


「バギー…かあ。これで砂漠を横断するの?」


「将来的にはの。じゃが、まだ足りてない」


「パッと見は完成してるように見えるけど?」


「残念ながら未完成なのよ。こいつを動かす為の心臓部…つまり動力部が抜けちまってるんじゃ」


そう言えば、クーの持ってるフローボードも同じ移動機械。調べれば何か分かるかもしれない。あたしはエルとクーを呼んで奥に招く。2人は、ガレットが名付けた機械バギーを見るなり、感嘆かんたんの声を上げた。


「うわぁー、かっこいい!」


「…ただの破廉恥はれんち老躯ろうくだと思ってましたが、これは素直に感心しました」


「それはそうとクーちゃん、フローボード出してもらえないかな?」


「うん、いいよ」


クーはうさぎポーチから1枚だけフローボードを取り出して、あたしに手渡してくる。


「リノ、そいつは?」


「フローボードって言う、バギーと同じ移動機械だよ。こいつを調べれば何か分かるんじゃないかなって」


「何じゃと!?すまんがそいつを見せてくれんか!?」


まるで人が変わったかのように、ガレットは異常な食いつきを見せた。機械にかける情熱は本物のようだ。あたしはクーに視線を送って確認をとる。当然、クーの答えはOKの笑顔だった。


「いーよ。でも、解体したりとかしないでね。クーちゃんの宝物だから」


「ああ、分かった!恩に着るぞい!!」


あたしからフローボードを受け取ったガレットは、ルーペを使って隅々まで観察し、時折目をを見開いたり、驚きの声を上げたりして、未知の技術を堪能していた。数分ほどして、ガレットはわなわなと肩を震わせながら、ボードを返却してきた。


「ありがとうよ。こいつはすげぇ。なんつーオーバーテクノロジーのかたまりだ。ワシの知らない技術がこれでもかと積み込まれておる」


「おーばー…?何か良く分からないけど、役に立ったんならいいや」


「オーバーテクノロジーですよ、リノ。一般的な科学技術の水準を遙かに 超えた技術のことを指します。それで、応用は利きそうですか?」


「ああ。このフローボードってやつは、精霊魂せいれいこんを利用して駆動するみたいじゃの」


精霊魂せいれいこん?」


また聞き慣れない言葉が飛び出してくる。


「えっとね、精霊魂せいれいこんって言うのは名前の通り、各国に伝えられている精霊様の力の一部…みたいなものかな?」


「へー、精霊様…かぁ。子供の頃に話は聞いたことはあるけど、実在してたんだね」


「それで、その国に棲まうそれぞれの精霊様が、国の…えっとそう、繁栄を願って、精霊様自身の力の一部を欠片として振りまいた物が精霊魂せいれいこんなんだ」


「よく知っていますね。ハイメルさんから教えてもらったんですか?」


エルの問いに、クーはえへへと言って笑顔を見せる。当たりらしい。


「んにしても、現代にはそんな欠片なんてどこにも落ちてないよね?それってどういう事なんだろ?」


「何とも言えませんね。仮説はいくらでも立てられますが、真実は精霊様から直接話を聞かないと。…そもそも会話が可能なのかさえも不明ですが」


「だねえ。クーちゃん、他に何か知らない?」


「うーん…他におじいちゃんから聞いた話だと、精霊様はその国で一番『力』を得られる場所にいるって」


「力…か。おお、そうじゃ」


ガレットは手の平に拳を乗せ、閃きのポーズをとった。


「ネパルマは火の精霊様が守護されとると聞いたことがあるが、火の精霊様が一番『力』を感じられる場所と言ったら、1つしかあるまいよ」


「火山、ですか」


エルは帽子のつばを下げて肩をすくめる。


「火山?」


「そのままの意味ですよ、火の山。マグマと呼ばれる、大地を溶かすほどの熱量を有す物質があふれている場所です。人間が行けば、アイスよりも簡単に溶けるでしょうね」


「ひーっ!そ、そんなに恐ろしい場所があるんだ…。でもエルの話通りなら、そこに行くのは不可能なんじゃ?」


「ううん、方法はあるよ」


クーはうさぎポーチから指の長さぐらいの小瓶を取り出した。中には少量の水が入っている。


「クーちゃん、その水は?」


「これは昔おじいちゃんが世界中を旅していた時に見つけた『フィンブルウォーター』って言う特別な水だよ」


「フィンブルウォーターじゃと!?お前さん、そんな物まで持っとるのか!?」


「ガレットのじっちゃ、それって?」


「ここから真反対にあるレムレドって国に存在する洞窟に、凍らずの滝ってのがあっての。レムレドはネパルマとは違って年中通して気温が低く、池や川の水は固まっちまって氷って物質になるんじゃが、どうにもその滝だけは何故か固まらないらしく、それから凍らずの滝と言う名前がついたそうじゃ。滝の水を数滴でも飲んだ者は、身体を包み込む冷気が、あらゆる環境から身を護ってくれるとかなんとか」


「ほえー。ならそいつを使えば…」


「多分、大丈夫だと思う」


あまり自信がなさげにクーは言うけれど、あたしはクーの事を信頼している分、フィンブルウォーターの効力を疑わない。


「ねえエル、行くだけ行ってみよーよ。無理だったら引き返せばいいだけだしさ」


「つまり、この破廉恥はれんち老躯ろうくの手伝いをすると言うことですか?」


「それはついで。エルも火山と精霊様、見たいっしょ?」


エルは黙ってあたしの目をじっと見つめてくる。にらめっこか何かかと思って顔で芸をすると、やれやれと肩をすくめた。


「誰がにらめっこしたいと言いましたか」


「あれ、違った?」


「まあ、いいでしょう。行くだけ行って見ましょうか、火山に」


「うん、うん!」


行くことが決まって、クーは嬉しそうに両手で可愛らしいガッツポーズをしてはしゃぐ。どうやら、内心ではクーも行きたかったようだ。


「お前さん達、ワシの為にそこまで…くっ!涙が止まらんわい」


「じっちゃの要件はついでだって言ったっしょ。まあ、期待してくれていいけどね。あたしもバギー(こいつ)が動くのを、この目で見たいし」


「そうかそうか。何はともあれ、気を付けての。怪我だけはするんじゃないぞい」


「大丈夫、大丈夫。んじゃ、ちょっくら行って来るよ」


手を振るガレットに対し律儀に応えるクーに苦笑いしつつ、あたし達は火の精霊様に会う為火山に向かった。

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