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フリーダムガール  作者: 赫宗一
ネパルマ編
13/111

機械と科学と下心

長く険しい砂の大海を越えて、ようやくあたし達はネパルマ国の首都、ルエーテンに辿たどり着いた。ネパルマは土地の大部分を砂漠で占めていることと、砂クジラ等の危険な存在の所為せいで移動が困難なのもあってか、街の数が他国に比べて圧倒的に少ない。その為、首都であるルエーテンには、この国のあらゆるものが凝縮ぎょうしゅくされている。


1つ1つの建物が角ばっていたガジュアとは違い、ネパルマはやや丸っこい造りになっていて、窓ガラスがなく必要以上に穴が開いている。加えて家と家の隙間には、青々しい背の高い木が植えられている。周囲の空気の鮮度を保つのに一役買っているようだ。心なしか少しだけ涼しくなった気もする。


「はー、ようやっと到着」


「土が綺麗にならされてますね。街まで凸凹でこぼこだったらどうしようかと思いました」


さすがのエルも疲れたのか、ふうっと溜め息をついて観光ガイドブックを片手に宿探しをしている。そして、街の喧噪に誘われるようにして、クーも目を覚ます。わっ、わっ、と初めて見る新しい光景に喜びの声を上げ、自らあたしの背中を降りて周辺の観察を始めた。


「うわー、凄い!街並みもガジュアとは全然違う!これがおじいちゃんの言ってたネパルマなんだ…!」


「クーちゃん、起きしななのに元気だね」


「うん!…と、それよりも。リノお姉ちゃん、ここまで運んでくれてありがとう」


「いいっていいって。さ、とりあえず宿に行こっか。その後に色々見て回ろう」


「了解っ」


はぐれないようにクーと手を繋ぎ、宿を目指して雑踏を歩く。あたし達以外にも、結構な観光客の姿が見える。


「リノお姉ちゃん」


「ん?どしたのクーちゃん」


「原住民の人なのかな?白い服装の人が多いね」


言われて見ると、白色薄手の外套がいとうを身にまとっている人が多い。頭にも、白い布を巻いている。


「本当だね。何かの宗教かな?」


「少し違います。この国の人達はこれが正装なんですよ。白色なのは気温に関係しているんです」


「あ!」


クーが唐突に、拳を手の平にのせて目を見開く。


「分かった!黒色は光を吸収するけど、白色は光を反射するから、体感温度を下げることが可能なんだね」


「その通りです。代わりに紫外線には弱いですが、昔からこの地に住まう人達にとっては、紫外線はそれほど問題ではないようですね」


やけに肌の黒い人が多いと思ったら、そういう事だったのか。


「ほえー。だからみんなこんな恰好してるんだ」


「まあ…必ずこれを着なさいといった『決まり事』がある訳ではないらしいですが」


「それに宗教が関係してるんだね。えーと、イフニド教…だったかな?」


「鋭いですね、クーちゃん。そうです。そのイフニド教が、この服装を推奨しているんです」


「つまりこの恰好をしている人は、その『イフニド教』ってのに入信してるってことだね?」


「ええ、そう捉えて問題ないでしょう。具体的にどのような内容の宗教なのかは知りませんが」


「へー、しっかしエルはよく知ってるねえ。それも本からの知識?」


「いえ。これはパンフに載ってた情報です」


拍子抜けした回答に、あたしは思わず前のめりになる。


「な、なんだ…。勉強した成果とかじゃないのね」


「あら、失礼ですね。一応個人的な知識もありますよ?」


エルの個人的な知識、もとい雑学を聞こうとしたけれど、気付けばもうホテルの目の前にいた。面倒な手続きは慣れているエルに任せ、それが済んだ後にホテル周辺の観光を楽しむ運びになった。

初めて見る光景に興味津々なクーに引っ張られる形で、あたし達は露店街らしき場所を訪れた。


「わぁー、珍しい物がいっぱい!」


この国ゆかりの商品がずらりと陳列されていて、見ているだけでも、他国に来ている実感がわいて心がおどる。クーは試供品の玩具をいじって遊び、エルは色々なご利益があるアクセサリー等を手に取って見ている。そのどちらにもあまり興味のないあたしは、隣のお店を訪れた。


「こんちゃーす」


「…いらっしゃい」


出迎えたのは、還暦かんれきを過ぎているであろう、痩せこけた老人だった。身長は160cmぐらいだろうか。長い白髪を後ろに流してゴムで束ね、片眼鏡の奥で薄く光る藍色あいいろの瞳が特徴的な老人だ。ネパルマには不釣り合いのエプロン姿が、異彩を放っている。それにしても驚いたことに、このお店には他店とは違い、お土産の1つも並んでいない。代わりに、ヘンテコな機械がちらほらと見える。


「じっちゃ、ここは何のお店なの?」


「見て分からんなら、聞いても分からんわい」


怒らせたつもりはないのだけれど、老人は随分ずいぶんと冷たい態度で応対してくる。


「まあまあ、そう言わずに」


「…ワシの発明品を売っとるんじゃよ」


発明品。この言葉に、あたしの食指しょくしが反応した。すぐさま老人の座っているカウンターまで入り込んで、話を聞く。


「発明品!?じっちゃ、個人で機械をいじれる技術を持ってんの!?」


「まあの。じゃが———」


老人は僅かに目を伏せて考えるような仕草を見せるも、すぐ元の表情に戻る。


「じゃが?」


「いや、何でもない。それよかお前さんの名前は?」


「あたし?あたしはリノ。リノ・レインバー。しがなーい旅人だよ」


「リノか。ワシはガレット。お前さん、ワシの発明品に興味を示すとは、中々見どころのある奴じゃ。感心したぞ」


妙なスイッチを入れてしまったらしい。ガレットと名乗った老人は、目を輝かせてあたしの瞳を覗き込んでくる。まあ、元気になってくれたのなら、理由はどうだっていいか。


「へっへー、そうかな?んでガレットのじっちゃ。その発明品の中でもとびっきりのを見せてよ」


「おう、ちょっと待っとれい」


そう言ってガレットは店の奥へと入って行き、それから数分後、派手に物が落ちる音が聞こえてきたかと思えば、全長50cmぐらいの風変わりな機械を持って来た。


「いたたたた…。待たせたの、こいつがワシのお気に入りじゃ」


支柱の上に取り付けられているのは、4枚の羽。それらがくの字型に曲げられていて、まるで小さい風車のような見た目をしている。


「何これ、風車の模型?」


「微妙に違う。えーと、こいつの性能を見せるのに適した人間がどこかに—————」


「リノ、ここにいたんですか」


「急に姿が見えなくなったから、びっくりしちゃったよー」


隣の店で買い物をしていたエルとクーが、あたしの姿を捜してやって来る。


「ここは、何を売っているお店なんですか?どうにもお土産屋という雰囲気ではないですが」


「リノ、この2人はお前さんのツレか?」


「うん、そーだよ。帽子被ってるのがエルで、大きいコート着てるのがクーちゃん」


紹介されたからか、エルは軽く美しいお辞儀をし、クーはわたわたしながらも深く頭を下げた。


「お知り合いですか、リノ?」


「たった今さっきからね。それでガレットのじっちゃ。早く見せてよ」


「ええと、エルにクー…だったか。お前さん達、ちっと協力してくれるかい?」


「ええ。私に出来る範囲でなら、構いませんが…」


「わ、私も大丈夫です!」


「よし。ならそのままそこに立っててくれるかの」


ガレットは、風車のような機械をエルとクーの前方に設置してから、店の入り口付近まで移動する。あまりに機械から離れているガレットを見て不安になったのか、エルは咳払いをしてから口を開いた。


「あの…何故そんなに距離をとるんですか。もしかして、危険なことなのでは?」


「いや、問題はない。ただ…の。ま、まあそれはそれとして、いくぞい!」


ガレットが気合いを入れて手元のスイッチを押すと、機械独特の重厚感溢あふれる音と共に、風車のカラクリは駆動した。


———直後、突風が巻き起こり、あたしの目の前には華やかな2つの色がお披露目された。


「きゃっ…!」


「わーっ!!」


「白とピンク…」


ガレットがあたしにだけ協力を頼まなかった理由が良く分かった。まくれるスカートを必死に押さえる2人を見て、思わず合掌してしまった。


「どーじゃ!これぞワシの力作、風を発生させることが出来るセンプーキじゃ!!」


「鼻血垂らしながら言っても説得力ないぞジジイ」


「そんなコントはいいですからっ…!早く止めて下さい…!!」


エルが頬を赤らめながら声を張る。こんなに取り乱すエルは滅多に見られないな。と、そんなことを言っている場合じゃないな。あたしはガレットからスイッチを奪って、機械を停止させる。

すると、風が完全に止んでから、エルは乱れたスカートを整えた後、常識を逸脱いつだつしたスピードで、即座にガレットの肩をつかんだ。


「…何か、言い残すことは?」


「下着最高♪」


天誅てんちゅうっ!!」


「あんぎゃあああああ—————」


素直に謝れば…いや、謝っても同じ結果だったかもしれない。あたしは半泣きでスカートを押さえていたクーを落ち着かせてから、何度も宙に投げられるガレットを見て、時間を潰した。

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