陛下がぼくに
幾分と日が傾き、夕焼けが美しい。
ふと思えば初の夕日だ。
立って居る場所は全然違うけど、同じものが見れるんだな。
「そんな遠い目をしてどうしたタケル?」
「いや、故郷の事を少しな…。」
「故郷か…そういえばどこ出身なんだ?」
「日本。」
「…。そうか、ならばこれ以上は聞かないでおく。その名が出る以上はこの地に無知であろうと何も言うまい。」
なんだなんだ!
そのしかたない、しょうがないみたいな表情は!
「なに、保護したことがあったのだよ。『日本をご存知ですか?』って言ってきたヤツを。まあ、『地球』って言い出すヤツもいたが、ね。」
そういえば、セイもアダンさんも獣人国のほうにもそんな感じの人たちがって言ってたな。
勇者召喚以外でも存在はしているとなると…
いや、よそう。
もしかしたらと考えてもしょうがない。
その時は必ず訪れるとしか言いようが無いからなぁ。
バグパスは勇者のうちの一人である俺を運よく引き抜いたに過ぎない。
他の人たちが勇者ではなくコトコちゃんみたいに魔物的な姿の可能性もあるにはあるが…。
望まぬ戦いを強いられて、この地に訪れる可能性がある。
それがいつになるのか…。
さてと…
「なあ、ここいらで監督してたほうがいいのか俺ら。」
「いや、商人達との詳しい話し合いは、この調子では明日だな。彼らも夜働き組みと交代だろう。兵達も夜勤の者たちと交替だ。料理人たちもそろそろ切り上げだろうな。そう、明日だ明日!今日はゆっくり休んで明日の会議に備えるのが妥当だな。」
腕組みしながら帰る気満々なギータ。
「リックさんがお待ちですからね~。さて、陛下、こちらの王子…じゃなくて客人は?」
シタールさんがニヤニヤしながらギータを見た後、俺のほうに向き直るとセイ達のことを聞いてくる。
王子って…
「まったく…アダンは口が軽いのだ。吾は目立ちたくないのだぞ!」
ご機嫌斜めだなぁ~
尻尾がゆらゆらと揺れていて、無意識に掴みそうになった。
「王子。申し訳ありません。ですからそんなに機嫌を悪くなさらないでください!」
普通に王子って呼んでる時点でどうしようもない気がする。
「城のほうで部屋が空いているのならそこがベストな気がするのだが…。」
「掃除が今からですと…。」
そうだよな。
先に前もって滞在しますとか言っていたなら専用に用意できたかもしれないが、お忍びらしいからなぁ。
「なら、わたしの邸に迎え入れよう!来客用の部屋もちゃんと完備してあるし、わたしが出ている間に大掃除も済ましてあるだろうからな。では、参ろうか!セイヨウ王子!アダン殿!」
キラッキラしてる!
笑顔が眩しいぜ!夕日のおかげもあるのだがね。
そして、アンズさんの名前が出なかった件について…
「ばいばい!セイヨウ様~!アダン~!」
俺の横で手を振って、見送っていた。
「へいかくーん!あたしと旦那はこれから久しぶりのデートなの。だから、こんなことを頼むのはあれなんだけど、この包みをお願いね?中身はお肉よ!子ども達へのお土産ね♪」
サントラさんが、とてとてと俺に近づくと包みを手渡してくれる。
「ワイバーンのお肉もモクさんから分けていただいたからね?シディに渡してくれればいいわ。」
おう!シディ!
少し心配だなあの子…
働いている場所を見に行く必要があると俺は思う。
わりと切実に!
俺は了承すると包みを受け取り、こちらに手を振りながら調理をしているレコウードさんに頭を下げて広場を後にした。
もちろん、くっつきむしつきで…
「ふははは!待っておれよメスネコめ!このアンズがタケ様とうふふふーなところを見せてやれば悔しがるはず!」
「なるべく険悪にならないようにしなくちゃ。がんばれ私!あーでも、レベックさん…」
ちなみに、アンズは俺の左肩に座り、クリスタさんは俺の右手をにぎりながら歩いている。
また乗りますか?っと聞いたら…
『今、びしょびしょなんです!だから、乗るのは無理です!』
って言われた。
額は汗でびっしょりだったが…
はて、どごがびしょびしょだったのだろう…
レコウードさんのお店につき、ノックする。
『はーい♪』
かちゃりと開かれ、顔を覗かせたのは…
「おかえりなさい♪陛下、お夕食になさいます?それともお背中拭いましょうか?やっぱり…ぼく?」
やっぱりってどういう意味だ?
こらそこ!
エプロンをゆっくりと、たくし上げるんじゃない!
えろい!
動作がえろい!
「…。タケ様。その子、オスですよ?少しばかりとはいえ欲情なされるのはいかがなものかと…。確かに見た目ではこのアンズ、敗北ですが。」
「確かにかわいいのよねぇ。男女問わずに人気の『あの』お店のご指名ナンバー2。」
人気の『あの』店?
男女問わずなのか!そして、人気は2番!1番は何者なんだ!
スカート穿く店なんだろう?
ナンバー1も男の娘なのか!
「こらー!シディ!タケルさまを困らせちゃだめだよー!」
この声に癒された。
不毛な考えへと陥りそうだった俺の思考が正常化された!
「っ!?なん、だと…。」
俺の肩から降りて、シディ君の開けた扉の間から声の主を確認したアンズは唖然としている!
なんだ!何か中でおきていたのか!
気になったので、俺はシディ君の肩に優しくぽんぽんと数回触れ、包みを渡すと扉を完全に開け中へと入った。
「あ、タケルさま…と、クリスタさ、ん?ん?…。クリスタさん、陛下が嗅覚の良い獣人でなくて良かったですね?いえ、もしお気づきならそりゃあ優しく包み込まれるように抱いていただけたかと思いますよ?」
なんだと!
「そういうアナタは…獣人でもないタケ様に…それに、アナタ自身獣人ではない?うぐぐぐ…ここまで匂いが!」
いや、そんなことよりな…
「レベックが…ワンピースを着ている!!!」
俺は叫んだ!
俺には衝撃的だったね!
想像よりも120%位、素晴らしい!
俺の感動するその背を…
「はあはあ…陛下がぼくにプレゼント…。陛下がぼくにお肉を…」
危ない思考に取り付かれたシディが見ていた。