バジリスク・リーダーとコトコ
コトコちゃん15さい。
そう。
俺があのコンビニで働き始めた頃の…
無言で逃げたお嬢さんだ。
元の世界でもファンタジーな事があるのだと実感した瞬間だった。
「まさかのまさかよ。まあそんなかんじでねー気付いたらトカゲで、リーダーに生肉すすめられたわけ。」
トラックに…っとおもったら生きていて、自身の手を見れば鱗が生えていたそうだ。
それで、少し大きめで、模様の違うリーダらしき人物、じゃなくてバジリスクについて行動してきたと。
「んでねー、用水路?の途中から…」
その発言にギータが
「それが本当だとしたら、バジリスクが掘ったのではなく、何者かがすでに地下に空間を…これは、ツィンバロム将軍には?」
地上に出るために穴は開けたが、そこまでの通路はすでにあったと…
ムーちゃんが調査をと言っていたが、そのために姿が見えないのか?
「将軍様には言ったわよー。それを門の近くで待機してた兵隊さん達に言って、その後はあたしの服とリューのなんとかかんたら…っと、しきりに店員さんのことが話題に上がってたわよ?何かしでかしたの?あたしより年下の子よ?流石に…」
そんな目で見ないでくれたまえ!
リュート君のこととなると、俺でも回復させれなかったあのふらつきのことか…
「いや、俺の回復魔法でも調子が回復しなかったんだよ。それを、ムーちゃんならどうにかできると言ってな。」
その発言に眉をひそめるコトコちゃん。
「それならいいのだけど…。ほんとかしら?まあ、リューとバルるんは将軍様と一緒にリューの家に行ってるわよ。」
「そうか。そのリューが何者か知らんが、兵たちも、すでにできていた地下道の調査に向かったのだな。なるべく悪い方向にならないでくれるとありがたいな。川は資源の宝庫だ。そのような場のすぐ側で地下通路だなんて。密漁?だが、それほど珍しい生き物はいないだろうし、密輸か?だが、国全体には防壁がある。地下も硬く、国内外への持込、持ち出しは門のみだ。」
ぶつぶつと言いながら、考え込むギータ。
頭が回るようですなぁ。
しばらくギータの持論に耳を傾けていたが、俺を呼ぶ声が…
「ねえ、ねえ、へいかくーん!このバジリスク…ちょっと見てもらえる?希少種なのか変異種なのか分からないのだけど…解体前にへいかくんにきいてこいってうちの旦那様が!」
おや?サントラさんだ。
希少種やら変異種…
「リーダー。なんか複雑です。」
俺の側で、コトコちゃんが俯きながら呟いた。
辛いかもしれないけどと言いながらもついてきたコトコちゃん。
「やあ、む?陛下。うちの娘はもちろん…二番だろう?三番目以降と言うことかね?」
レコウードさんは、俺の周りのお嬢さんがたを見て顔をしかめながら苦言を…
その発言を聞いた女性陣は…
「二番?はてはて?アンズが一番は厳しいとは思っておりましたが…すでに二番目まで。」
「一番は誰かしら?その前に、レコウードさんの娘って…レベックさんじゃない。」
「ちょ、店員さん!このイケテルオジサマだれだれ!金髪とか!」
なんだろう。お疲れ気味のようだ、俺。
「ちょっとーうちの旦那はやらないわよ?今夜だって久々にハッスルするんだから♪」
「む。ああ、そうだ。それで、はなしが…この個体についてなんだが。」
夫婦で腕を組み、微笑み合った後、そのバジリスクを指差す。
バセットさんの後方から現れたやつだな。
確かにエリマキ部分が違う。
顔つきも凛々しく、知性さえ感じられる。
奇妙な気分だ。
「なあ、コトコちゃん。コイツ以外にキミに話しかけてくるやつはいたかい?」
「…いない。リーダーだけが気にかけてくれたわ。お前だけでも逃げろとか生きろとか…優しかった。」
こう聞くと、しとめるのは不味かったか?
俺の問いに答えたコトコちゃんはよろよろとしながらもそのバジリスクに近づき、両の膝を地面につけた。
目尻から涙が零れ落ちた。
落ちたしずくは、バジリスク・リーダの頭部をぬらした。
「あたし、生きるよ。元の世界じゃもう死んじゃってるだろうけど…こっちの世界で生きるよ。リーダーがあたしを近くにおいといてくれたから、別の分かれたグループのほうにいたら今頃餓死してたと思うから…。機会をくれたあなたに…ありがとう。」
コトコちゃんは、物言わぬリーダーに優しく抱きついた。
『亡き者に感謝する間があるなら…もっと強くなれ。このおれを倒した魔王のように、な。』
え?それは無理だぜ。
てか、誰の声さ!
『なあに、バジリスクなんかに転生した元人間さ…。同じ境遇であるお前には、機会があってよかったな。』
声が聞こえてくるが、そのバジリスク・リーダーの体のほうは光る粒子となって天へと上りはじめる。
「え?うそ、リーダーもトカゲスタートだったの!?うう…なら、リーダーがあたしの代わりに生きてた可能性もあったんじゃない!それなのに、それなのに…」
可能性の話しか…
それはなんとも難しいな。
はたして、リーダーがバルちゃんに気に入られて、そして、俺の角を食う可能性があっただろうか?
ゼロではないにしろ、難しい。
コトコちゃんだったからこそのこの現状なのだといわざるおえない部分が強いしなあ。
『なあに、強者にうたれるは世の定めよ。だからな、強くなるために…ずるっこしようか?』
ずるっこ?ちょ、今の言い方かたっくるしくないし、綺麗な女性の声だった。
ちょっとドキリとしてしまった。
「ふぇへ?ずるはだめだよ。」
そこで正論を上げるのかいコトコちゃん!
せっかく綺麗な声の女性、じゃなくてリーダーがなにかしらをしてくれると言ってるのに。
『なんだ?肉の時もそうだったが…施しを受けたくないとかか?なら安心せよ、普通のバジリスクなら持っているであろう耐性とスキルをくれてやるだけだ。その姿じゃ自力では習得できまい。受け取れ。』
バジリスク・リーダーの姿が完全に消え去る。
代わりに、コトコちゃんの体全体が少しの間光っていた。
「ん?石化耐性?それに、石化スキルがいくつか…むー。やっぱずるはよくないよ。…え?そんなことは無いって?でも、リーダー。…へ、そうなの?なら、ううん。今はいいや、今度ねー。うん、ばいばーい。」
胸元の宝石のような部分に手で触れながら独り言を言い出すコトコちゃん。
いや、もしかしたら俺とアルトみたいな感じになったのか?
俺は何となく納得できたが…
他の皆はバジリスクが消えたことに驚いてるし、話し声が聞こえたことに驚いてる。
そして、独り言を言うコトコちゃんに残念なものを見る視線を向けていた。