焼きバジリスク
鉄串らしきものに刺された肉。
そう。
そうとしかいえないものを万遍の笑みを携えながらもって来る…テツさん。
イイ笑顔だ!だが、焼いただけだよな?
「今の時点ではこのような品物しかご用意できませんでしたが、最高の焼き加減で、最強なタイミングで塩をふるいました!ささ、獣人国の皆様方、王、将軍。」
あら?俺とギータの分まで…
「俺としては、民の皆はこの肉が目当てであろう?俺に食わせる分があるのならば…少しでも多く、民に分け与えてはくれないか?」
ショックを受けた顔をする。
まあ、せっかく用意したからだろう。
ちょ、テツさんスゴイ涙目…
罪悪感がががが…
「流石に厳しいこと言うなぁ。タケル。それを言ったらわたしも食べ辛くなるでは無いか。」
ギータが苦笑い気味にそう答える。
「このバジリスクは一匹を除いたすべてをかなり状態の良いままにしとめてあるんだ。それをやってのけた本人が要らないとは…ワイバーンのとどめだけをもらったわたしにはおこぼれ一つもまわらんぞ?」
図鑑にかいてあった通りの倒し方をやってのけただけなんだが…
今思うと、図鑑は食べれる、食べやすい、品質を保ちやすいとかそういうことが書き足されてたな。
リーナが書き足したのかは不明だが、ありがたい限りだよなぁ。
っと、脱線してしまったな。
俺は、ギータの言葉に…
「俺が民に振舞った。いや、今この国に来てる者たちも含むからなあ。ギータもその一人だろう?なら、問題ない。俺が食わないだけでいい。」
ちょ、テツさん涙と鼻水が…
正座してるモクさんからも嗚咽がもれる。
「うう、く…昔のことを思い出す。」
「ああ、兄者。あのお方もそう言って、無償で肉を…それがきっかけだった。そうだった…ああ、より良い肉を手に入れるためには自らを鍛える事こそが必要なことだった。だからあのころは…」
「生焼けだったその肉は…その肉は…うまかった。腹だけではなく魂が歓喜したのはあの時だった。念願の店もこうして立ち上げ、われらが至った熟成肉も皆に認められた。」
二人して恩人らしき人物のことや、今までのことを思い出し、語り出す。
だが!
「あのお…マテをされているような気分なんですが、僕たちはそのナイスでグッドなお肉様をいただけないのでしょうか?ちらつかせられているだけでは、腹も、心も満たされないと思います!」
「おい!アダン!吾らの立ち位置を間違えるでない!確かに満たされないが…じゅるり。」
マテを教え込まれたのか?
調教されているな?
アダンさん。ちょっと心配だよ。
いや、そういうプレイが好みなら仕方ないのか?
そう思っていると…
小さな手が俺の左手をにぎった。
その小さな手の持ち主は…
「タケ様。なぜアナタ様は…アナタ様はそこまでのお考えをお持ちできるのでしょうか?このアンズには理解できません。家族でもなく、絆があるわけでもない、知り合いでもない…そんなやつらは汚いものを見る目をむけ、無関心を装いながらも蔑みながら歩き去って行く。なのに、なぜ?」
アンズさんの声が震えている。
ありえない!
そう言いたげな眼差しを俺に向ける。
だが、この言い方からすると…
その者にとって近い存在にならなければいけないと思う気持ちがあるのだろう。
そうでないと与えられなかった。
密になってこそ築けるものは確かにある。
だがそれだけではないのだよ。
あー難しいものだな。
どう表現していいものか?言い表せばいいものか?
行動も、まあ、千差万別だから結局は俺のあり方だけではないのだがね。
あちらの世界にいたときも言われたことがあった。
『やさしいと言ってしまえば簡単だが、そのあり方はどこか歪で…』
そう俺に言ったのは誰だったかな…
苦笑い気味な俺は何となく眼下の茶褐色髪に白いもみ上げな少女の頭にポンポンとかるく触れ、優しく撫でる。
「アンズさんからすればありえないのだろう。まあ、他の人からもありえないだろうが…これが俺だ。俺なんだよ。理解できない気持ちが悪いやつと言われても、呼ばれても…俺は…」
俺の手を握る力が強まる。
「アンズ…です。さんなどと呼ばないでください。アンズです。そして、アナタ様の…そのあり方を、行動を、理解してみせようと今心に誓った。一人の女です。」
背丈の違いと、前髪のせいもあって表情は分からない。
だが、理解してみせようとは?
「とりあえず…気持ち悪いとか言ったヤツを殺しましょう!はい!案内してください!」
えぇ!?
ちょっとはオブラートに包んだりとかさ!
案内しようにも世界が違うんだけどね?
てか、殺すつもりならゼッタイ案内しないよ!
「俺は気にしてないし、昔の話しだ!アンズ!落ち着いて、まずは腹ごしらえだ!ここに、俺が狩ってきて、テツさんが調理してくれた焼きバジリスクがある。」
テツさんが持ったままの肉の刺さった串を一本拝借すると、片膝をつき、アンズに見えるようにする。
「もらってくれないか?」
彼女のグレーの瞳を覗きながら囁く。
アンズは呆けていたが、頬を赤らめると
「…は、はい♪」
柔らかい笑みを浮かべながら受け取ってくれた。
串に刺さる肉を一つほお張ると、もこもこと食べる。
うおっ、かわいい!
これが小動物的なアレか!
俺が見ているのが気になったのか体ごと俺の視界から退く。
俺そんなにがっついてた?
っと思っていたが、彼女の動きを目で追うとクリスタさんの近くで止まり…
「おい!これを受け取れ!タケ様がお渡しくださったお肉だぞ?敵に塩を送るようだが…それでも、このアンズだけが特別視されることは望まない。良きライバルであらんことを。」
「あら?陛下の真似事かしら?でも…頂くわ。…アンズさんから頂いたこのお肉、とてもおいしいわ。」
「ぬ。これはタケ様が!」
「それを持ってきてくれて、分けてくれたのはアンズさんでしょう?…まあ、負けないわよ?」
仲良い?
まあ、同じくらいの背丈ではあるんだけどね。
お互いにイイ笑顔だ!
だが、その後のアンズの一言が…
「まあ、タケ様からは他のメスのにおいがした。ソイツにもちゃんと表舞台に上がってもらい、正々堂々と…。」
俺の頬をやな汗が流れた。
そんな光景を…
「で、僕たちは?」
「ん?もごもご…んっくん。まだ食わないのか?アダン。」
「ちょ!王子!いつの間に!あ、テツ様。いただきます。」
「うむ。腹を満たしてくれたまえ。作ったがわとしてはやはり最高な状態で食べてもらいたいからな。」