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リーナの部屋

 コトコトコト…


「そろそろだね。それじゃあタケル、そこの棚からカップを用意してくれないかい?」

「リーナは自分用とか持ち合わせてたりするのか?」


 俺は人数分のカップを木製のトレイにのせながら聞いてみた。


「いや、そんなこだわりは持ち合わせていないね。あったほうがいいかな?」

「そうだな、個性が出て分かりやすいしな。他の人のと取り間違えもしないですむ。」


 俺がそう答えると、考え込む…が


「そうだね、機会があればマイカップを用意しよう。でも、タケルと間接キスならボクは大歓迎だよ?」


 自分で言っといて顔を真っ赤にするリーナ。これはどうしたものかね…


 そう思っていると、後ろのソファーのほうから


「くか~!くか~!…むにゃむにゃ。くか~!」


 誰だよ!こんなイビキしやがるのはっ、…ヴィオリーンでした。


 隣に座っているレベックも俺の視線の先に流石に苦笑いしている。


「しかたないさ、いつもなら寝てるんだろうし。いろいろ起きすぎたんだろうからね。そっとしといてあげよう。冷めちゃうけど、その時は誰かがおかわりすれば良いや。」


 すでに四つのカップにハーブティーを注ぎ終わったリーナがそう言った。


 だよな、色々とありすぎた。俺も…


「タケル。遠い目をするのは良いけど、これからなんだよ?」

「それは分かっている。この世界に召喚されて、勇者になってこの国を滅ぼしていた可能性もあったんだよな。それに比べれば、魔王のほうが断然いい。」


 机の上にトレイを置きながらそんな事を話す。


「ボクと運命的な出会いもできたし、兵器にもならずに済んだわけだもんね。」

「運命ね。なら、カエルの魔王に感謝するか?」

「は、ははは…そうなっちゃうかな。まあ、さっきタケルが倒しちゃったからもう本人には感謝の言葉を言えないけどね。」


 カップをレベックに渡そうとすると…


「じ、自分は冷ましてから飲みます。舌がひりひりするんですよね。」


 猫舌でした。それならしょうがないか…そう思い、手に持つカップは自分のとして飲んだ。


 ハーブだが、少し甘さがあるな。熱くて飲めないことはないようだ、匂いはリンゴに近いかな?


「どうだい?少し甘く思えるかもしれないけど、ボクは好きなんだ。ラーベルに頼んで用意してもらったんだ。」

「ラーベル?用意してくれたということは、商人か何かかな?」

「あ~明日、いや今日か…会わせるよ。城の庭師?まあ、植物の手入れをしてくれているアルラウネだよ。ボクより昔から居るみたいでネ、色々と頼んだら植物を用意してくれたり、育ててくれたりするんだ。」


 アルラウネね、マンドレイクに人間の血を与えると生まれるとかそう言うのを聞いたことがあった気が…。


「ん?どうしたんだい。アルラウネという種族が気になるのかい?ボクの知識では彼女達は植物のマンドラゴラが年月を経て妖精化したとされているんだ。種族的には妖精だよ?」


 妖精化ときたか…本人様を見てみないことにはわからんがな。


「自分は、あの場所の匂いは色々と混じってて長い時間はキツイです。」

「それは仕方ないと思うよ。レベックは獣魔族で身体強化だってするじゃないか。ボクが思うに鼻が少し良すぎるだけさ。」


 ネコミミがくにゃっなってる!くにゃってへにゃってる…。自分で思っといて何が言いたいんだ俺は。


「へ、へへ…おじ~さま。りーんはまおうになたですよ~。なでなで~。」


 幼い喋り方だな。両親は…


「タケル。その子の両親とか思っただろう?」

「そりゃあ、お祖父さんの事しか出てこないからな、気にはなる。」

「ボクも、教えてもらえてないんだ。ボクがこの国に住んでもうすぐ十年になろうとしてるかな。ボクは、狩なんかよりも多くを学びたかった。だから、親や部族の皆から離れて、様々な者達が暮らすこの国に訪れたんだ。その時には、すでにリーンは独りだった。」


 これは聞くべきではないな。


「そうだ、こんな事を聞くのはアレだけど…タケルの、元の世界に家族は?」


 あ~そうくるよな。


「い、言えないなら…」

「居ない。いないんだ…16になったあの日から、帰ってくることはなかった。だが、叔母なら一緒に住んでいたよ。元気にしているかな?いや、まだ半日も経ってないか…」

「ごめんよ。この話はお仕舞いでいいかな。」


 そして、無言になる。


「あ、あの~そろそろ、お願いできますか?」


 いや、ソファーから動けないのは知ってるよ、ヴィオリーンが膝を枕にしだしたもんな…


「ぬるいくらいだが大丈夫か?」

「それくらいで大丈夫です。ありがとうございます。」


 両手で受け取るとちょびちょびと舐めるように飲み始める。


 これはこれでいいものだ…。すっかりネコミミに毒されているな、俺。


 すると、自分の椅子に腰掛けていたリーナが立ちあがるとハンカチ?ガーゼか、まあ、白い布を取り出してソファーに近づく。そしてヴィオリーンのよだれを拭い始めた。


「困ったものだよ、この子にはね。さっきの話になるけど、この国に来てすぐに城のほうに招かれて、色々と話し合いに参加してね。いつの間にか、リーンの家庭教師さ!勉強しながらでも合間に教えてくれればいいからってたのまれちゃったんだ…ヴィオロン陛下に。とても名誉なことなんだろうけどさ、勉強嫌い過ぎてね…教えるボクは頭を抱える日が続いたよ。」

「やっぱり家庭教師とかしてたのか…」

「ん?なんだい、タケルには想像できてたのかい?」

「ああ、今度は俺の家庭教師になるのかね?」


 俺の言葉に目を細めると、よだれを拭いた布をポケットに大事そうに…そう、大事そうに入れたのだ。なんで?


 ゆっくり歩きながら机の前、いや、俺の横に来ると…


「家庭教師がいいのかい?もっと違う形もアリだと思うんだけど?」


 仕草が色っぽいんだよな、オトナな感じがする。


「例えば?」

「それは、ボクの口からは言えないかな~♪」


 教えてくれないことばかりだな…リーナ先生殿よ。


「それにしても、タケル裸足だよね?足の裏痛くない?」


 今更か…足の裏はどうやら丈夫らしい。確認してみたが、少し汚れていただけだった。でも、ずっと裸足でいるわけにもいかないよな。


「今の時間帯でも動ける子に用意させるかな。」


 リーナはそう言うと机の上の綺麗な石を握り、指で弾いた。「キーン」と音がなり…


 ドタドタドタと廊下側から足音が近づくと「ガチャリ」と扉を開け


「失礼しマースッ!!!」


ゴスッ!


 入って来た人物の顔にその握っていた石を投げつけた。







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