民は、あっ
私と陛下を交互に見る兵隊さん。
そして、口を開く。
「あのぉ、陛下。そちらの女性は、ハーフリングですよ?お嬢さんはちょっと…無理が、ひっ!」
あら、私ったら兵隊さんを睨んでしまいました。
無理とか言わない!
いつも心に女の子!
乙女心ですよ!
いくつになっても!
ね!
「ふむ?んー、ハーフリングね?ふむ。して、紫髪のお嬢さん。あちらのお嬢さんが迷子なんだね?それ以外の二人に関しては…俺と共通認識でいいかな?荷物をぶつけたのに怒鳴り散らしたということで。」
あらら?ハーフリングをご存知でない?
まっさかー
「すみませんね、世情に疎くて。」
陛下が謝ります。
あら、私ったら表情に出てたかしら?
「いえ、お気になさらずに。お嬢さんだなんて呼ばれたこと無いので新鮮です。それと、陛下が言われたとおりです。」
陛下はなるほどと呟くと、子どもの前へと移動します。
「さて、お嬢さん。いや、貴女のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
ちょ、なにそれ!
いーな!いーなー!
問いかけられた子どもは顔を真っ赤にしながら…
「テナーです。へーか。」
まるで恋する乙女のよう!
ぐぬぬ…。
「テナーちゃんか。いい名前だ。さて、と…そちらの、マカラスさんにシェケレさん。もし問題が無いようなら、お力添え願いたいのだが、可能かな?こちらの、テナーちゃんのご家族を探すお手伝いをお願いしたいんだが。」
「っ!!!へ、陛下…。」
「うううう…。」
ぴしゃりと背筋を伸ばすお漏らし男と、未だに涙を蓄える大男。
「それは兵にお任せくだされば…。」
おずおずと提案するが…
「かかわったのは俺らが先だ。困ってる子一人助けれないで偉そうにはしてられないからな。それに、背丈も足の速さも俺に利がある。そうだな、遅れそうだと伝えてきてくれないか?」
すると変化が起きる、見ていただけだった民達が…
「テナーちゃんのお母さんはいませんか~」
「テナーちゃんのご家族は~」
「おーい、だれかー」
子どもの名前を出し、呼んでまわる。
観客が減り行くその光景を陛下は微笑みながら見ていた。
あら、陛下ったらお上手。
「まいったな。これではテナーちゃんと居られる時間が減っちゃうな~。」
「ふふっ♪へーかはこの国にいてくれるんでしょー。じゃなくて、いてくれますよね?なら、いつもお側に♪」
あらあら、子どもだと思っていたら侮れないわね。
「みつかりましたー!へいかー!テナーちゃんのお母さんが見つかりましたよー!」
嬉しそうにしている複数人の男たちに囲まれ、護衛されるように訪れる女性。
「ああ!テナー!よかった!怪我とかしてない?」
「へーかが魔法をかけてくれたんだよー!」
「っ!?あらやだ、旦那よりも逞しいわ。」
ねえ、子どもの前でその発言はいかがなものか…
屈み、子どもに視線を揃えていた陛下を見た感想がなんとも…
「…ちょっとまって、へーか?かかか…」
信じられないといわんばかりの眼差しを黒い仮面に向ける。
「ああ、テナーちゃんの友達の…へーか、だ。はじめまして、かな?」
ちょっとー!
友達とか!
ずるくない?
なら、私も友達…
「なんだろうか…陛下って…なんだろうか。」
ブツブツと小言を言う兵隊さん。
さっきから何の役にも立ってないわよねー。
よくパン屋さんで見かけるディオンくんや、いつも親切なマルノトさんとちがってダメダメですねー。
私の視線に気付いたのか、とても気まずそうに顔を逸らした。
「あ、ああああ、あの、その、えっと!見返りとかは…。」
慌てながら何かしなければと言い出す母親。
「そういわれてもなあ。そうだ、俺は今から広場に向かうんだよ。ここに居るみんなも行くのかな?」
ぐるりと周囲を見渡す陛下。
「は、はい!鍋物の手伝いに向かう最中に娘とはぐれてしまいまして…。」
おっかなびっくりとしながらも答える。
「おお、そうか。なら、道案内を頼もうかね。とても助かるぞぉ。」
その言葉を聞いた陛下は少しわざとらしいですが、頼みます。
「陛下。それは…」
兵隊さんが口をはさもうとすると…
「さあ、ここの騒ぎは静まった。キミにはキミの仕事があるだろう?そろそろ…退場願おうか?」
あーだ、こーだと言うだけの兵隊さんに少し機嫌を悪くしているようです。
その言葉をきき、慌てて頭を下げると王城の方へと去っていきました。
「さて、キミ達の協力には感謝する。今は手持ちも何も無いが…これだけは言わせてくれ、ありがとう。」
…。
頭を下げる陛下に言葉を失う人々。
陛下に感謝されたと、言葉では頭に入ってきますが…光景を理解できません。
頭を上げたかと思えば足を動かし方向を変え、また頭を下げる。
前方向に頭を下げ、感謝を告げると…微笑んだ。
「ああ、陛下…。」
「これほどのお方が…新しき王。」
「あれ、幸せすぎて視界が悪くなってきた。目が心が沁みるぜ。」
「アナタ様のお心に少しでも近づけれるよう、心がけて…」
「おなかいっぱいになりそうだぜ!幸せだけで…だが、悪い気がしねえ。」
「でも、バジリスクの料理は食べてーなー。」
ふむ。最後のお方のは確かに。
私も、無料で振舞われるとのことをお聞きして向かっていたんでした。
「そうか。ふうむ、そんじゃ行きますかね。みんな、周りにはちゃんと目配りするんだぜ?」
ひたすら頭を上下する大男。
お漏らし男に関してはなぜか敬礼である。
「っとそのまえに、そうだなー今度ははぐれないように俺の肩にお世話になるかい?」
え!?
その逞しい肩に!
無言で頷く子どもを優しく抱えると右肩に乗せました。
「ふぁー♪たかーい!」
「っ!?テナー!陛下に迷惑を!」
「大丈夫ですよ。こうみえて丈夫ですから。」
ええ、丈夫過ぎますね!
あー、そのまま広場に行っちゃうのか、あ?
なぜ、私のほうを向いているのでしょう?
目が何かを語ろうとしているようにおもえて…
「さて、紫髪のお嬢さん。どうです?俺の左肩空いてますけど?てか、お名前を…」
な、ななななな…。
え、っとあっとえ、え、あ、えっと…。
顔が熱い!
「お名前は聞けそうに無いか。ふうむ、乗ります?」
私顔縦ブンブン!!!
それに微笑む陛下は、私を軽々とすくい上げると左肩に乗せます。
あっ
ま、まずい。これは不味いわ!
自身の下腹部からやらしい水音が聞こえた。
内腿をぬらすそれは…
陛下にばれないことをひたすら祈った。