門まで走ろうか!
楽しいな!筋肉が踊るようだ!ははは…
「なあ!聞いていいか!タケル!」
「なんだ!ギータ!答えれる範囲なら可だが!」
声はかけてくるものの、エレクト将軍は槍の構えを解かない。
俺も拳を握ったままだが。
「カトブレパスはやはり拳か!」
「応!」
「見事だな。して、あの巨体だ…どうする?」
「あー。バス将軍の大盾を曲げてしまったから代わりとして進呈するさ!もちろん、食べれる部位はみんなに分け与える。俺はどちらかといえば食が細いんでな、食いきらん!」
俺の返事が面白かったのか、槍を地面に突き立てると腹を抱えて笑い出す。
「はははっ!あの大盾を、か?はははっ!確かに!背の皮や、骨なんかを使って作ってあるらしいな。それなりに使い込んであったから思い入れがあるかもしれんが…品が良くなるな!明らかに今回しとめたやつのほうがイイモノ作れるぞ?職人も儲かるだろうなぁ!これほどの素材が溢れていれば、色々と他所に出荷もできるだろう。」
おお、それはいい事を聞いたぞ!
「バジリスクだって鱗や皮は需要があるからな。タケルが弱らせ、わたしがとどめを刺したワイバーンも国庫を潤おしてくれるだろうさ!更に今回の討伐した魔物の肉や素材で…民に食料を用意できる。」
イイ笑顔だ!
俺もつられて微笑んだ。
「でだ、流石にこの巨体…荷車では厳しい。だが、わたしたちには力がある。意味が分かるよな?魔王陛下。」
「それはなにか?あの門まで競うか?」
「ああ、このまま手合わせもいいが、有意義なものにしよう!あの門まで走ろうか!」
「なるほど。子ども達は?」
「そろそろ、わたしの連れていた兵が着く。先に、シタールを向かわせていたからそこまで時間はとるまい。荷車にはそこそこ載ってはいるが、ボンゴがいる。バジリスク数十匹なら過重積載にはならん!」
あー、ムーちゃんの側に居るあの鳥さんがシタールさんね。
で、今視界に映る荷車を引いているのがボンゴさんだろう。
「脚に自信があるんだな?」
「なんだ?飛んでばかりだから鈍っているとでも言いたいのか?」
「そうだな。だから、ハンデいるか?」
「何を言うか!すでに重さで差があるだろうに。更にもらったらかっこ悪いじゃないか!」
そこでかっこ悪いも何も無いだろうに…俺は苦笑いしてしまう。
すると、表情を引き締めた彼は…
「シタール!わたしの槍を頼む!今から、新しき魔王と門まで競走する!」
皆が待機してる方へと大声で伝えた。
『はあ!?』
まあ、困ったような返事だよな。
今まで戦ってたのに、今度は競走とか言い出すんだから。
「では、参ろうか。」
「後から後悔するなよな?」
「何を言うか!ハンデもらって勝っても微妙な空気になるだろう?それは流石に恥ずかしい。」
「ならば、清く戦うか?」
「まあ、どの道重さに差があるのだがな。」
「そこは、俺のほうが力が上だから構わんだろう?」
「だが、脚での勝負だ。負けるつもりは無いぞ?」
お互いに不敵に笑うと、対岸へと跳んだ。
まさかとは思いましたが…。
「ただ走るんじゃないんですね。」
「そうみたいね。陛下ちゃんもエレクト将軍ちゃんも…担ぐつもりよ。」
うはー!なにそれ!逞しい!
わたくし、きゅんきゅんしちゃいますよ!
「おーい!着いたでよー!シタール!多分、そこにいる三人組の持ち物だからさ頼むでー!おではこのバジリスク載せとくでなー!」
おやおや、ボンゴさんが着いたようですね。
「おお、吾の剣!」
「僕の鞄に武器も!」
どうやら、持ち物を手放していたようですね。
よかったです。
本来なら魔物にあさられるか、野盗に盗られるかですからね。
「ああ、下着類!よかったー!替えが無いと危ないとこでした!」
ええ、女としてはそこは大事…
「勝負する時には大事ですから!」
え…。
え?
これには子ども達は首を傾けますが…察しがつく我々としては苦笑いです。
「そんときゃ裸だべ?まぁーひとによっちゃー雰囲気を大事にするだべか?まあ、興奮するべかね?」
おうい!ボンゴさん!直球すぎますよ!
会話に参加しながらもすでに半分は載せ終わっているので、仕事のできるかただというのは伝わりますよね。
奥様もいらっしゃいますので、そこら辺はまあ…人によるとしか。
わたくしとしては…そりゃあ、興奮してもらいたいですよ?
相手がいませんがね…。
とほほ…。
その時…
ズウウウウウウンン!!!!!
大きな音をたてて大地が揺れました。
ええ、向こう岸から跳びましたね。
そして、着地しました。
お二人とも嬉々としていますが…
片や頭のないカトブレパスの前足を担ぎ、片や胸に穴をあけ首から血を流すワイバーンの後ろ足を担いでいるのですから。
ズズズズ…
と引きずりながらも走ります。
てか、走れてます!
それに速いです!
「「「「ナニアレ、スゴイ!」」」」
子ども達が目を輝かせながら見入ります。
スゴイとしか表現できませんよね。
私も叫びたくなりましたが、先ほどまでお二人が戦っていた場所に槍を回収しに行きます。
忘れないうちに行動することが大事です。はい。
『おうーい!シタール!乗るかー!乗らんなら将軍様と子ども達、客さんらは先に連れて行くべよー!』
し、仕事速すぎです。
口調はのんびりなのに…
手際が良すぎる気がします。
『おうーい!』
「今行きます!」
もー。気が短く思われちゃいますよ?
ふと思った!
「なあ!どこがゴールだ!」
「門だ!はあはあ。」
いやいや、ぶつかるでしょうに!
俺はまだ余裕があるが、流石にギータのほうは無理がきているな。
討伐からの帰りだ、外で何日か過ごしていた彼には疲労が溜まっていたのだろう。
「ならばここで終いだな!今回は、お預けだ!疲労が見えるギータに勝ててもつまらん!次に期待するぞ?」
「はっ!そうか!うれしいやらくやしいやら!だが、これからが楽しめそうだからな!負けで構わん!」
そう言い合い、お互いに荷物を手放し…
門にぶつかった。