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魔軍将・エレクト

 胸部に当たったらしいワイバーンは、頭部の無いカトブレパスの側でのた打ち回る。


「おおー元気だな~。」


 思わず呟いてしまった。


「ねえ、陛下ちゃんにとってワイバーンって?」

「ん?そりゃあ、横取りしに来たカラス?」

「鳥扱い…。それも、自分でも疑問符なのね。」


 散らかされたり、横取りされたらそりゃぁ追いやりたくもなるさ。


 ただ、当たるとは思わなかったな。


「当たったことより、当たった後の事が凄いんですけど。」


 バセットさんよ、何が凄いんだ?


「そんな不思議そうに首を傾げないでください!凄い音したじゃないですか!アレ、石が当たった音じゃないですよ?それに、近くに落ちてたただの石で強靭なワイバーンの胸に傷どころか穴開けて…。」


 しかし、生命力が高いのだろう。


 瞳には諦めの色が無い。


 それどころか、態勢を立て直して食らいつこうとさえ思っているのだろう。


 俺を視界に捉えると…



『ゴオオオオオオオガアアアアアア!!!』



 ゾブッ!



『ガ!?ガガカッ!!!』



 そして動かなくなった。


 首の途中から生えるのは、見事な『槍』。


 どこから飛んできたのかは不明だが、その一撃は強靭なワイバーンの皮膚を貫通し、大地に縫い付けている。


「ねえ、その強靭な皮膚に石ころで穴を開けた陛下ちゃんが何で凄そうに見てるの?それに、あの槍は…」


 ムーちゃんは、槍を見た後、空に視線を送る…


 それに続いて鱗付きのお嬢さんが同じようにして空を見て…


「【魔軍将】?でも、ここにいるモデルさんみたいな将軍様も【魔軍将】よ。どゆこと?」

「それはですね、魔軍五将と呼ばれている方の一人ですね。今回は周辺の魔物の調査に向かわれたと…」


 ふうむ。空にいるということは…飛べる?それとも、何かしらの飛行手段があるのかね?


「へー。にしても、すごいわね。店員さんみたいに見れないステータスがあるわ。」

「そうかもしれないわね。陛下ちゃんにはそれとなく言ったかもしれないけど…彼が、シンフォニア最速よ。」


 魔物の調査…。それに、シンフォニアで一二を争うほど…


 俺は、自分の口角が上がっていることに気付く。


 ふふ…頼もしいな。将軍とやらは。


「タケ。そんな顔するんだな。」

「僕としては、野生の勘が働いて、今すぐにでも逃げたいくらいですけど…。」

「おおう!押し倒されてめちゃくちゃにしてもらいたい!はあはあ…タケ様。」


 俺の顔はなんなんだよ!


 逃げたくなるとか傷つくぜ…。


 アンズさんに関しては、両腕を自身の体にまわし、くねくねとゆれている。


 お元気ですね。


「てことは、魔軍将・エレクトさんだったか?」

「あら、名前は知ってるのね?」

「ああ、メイド長がそれとなく言っていたからな。にしても、調査とかなんとかだったなら、無事に帰ってきたわけだな。よかったよかった。うむ。」


 俺は何となく頷いた。


「わたしはよくないのだがね。」


 んん?誰の声?


「キミが呼んだではないか、エレクトだ。」

「い、いつのまに!?」

「なあ…ツィンバロム。コイツは何だ?驚いてるような言い方なのに…全く驚いていない気がするのだが?」


 俺は驚いてるつもりなんだがね。


 彼が空に浮いている事に…そして、背に翼があることに。


 こちらの方々は反応を期待しすぎなのでは?


「あははは…エレクト将軍。彼は…魔王陛下よ。名を…」

「トライオス・タケルだ。よろしく!」

「ああ、そうか。ふざけているのか?わたしをバカにしているのかね?コレが魔王?カエルの次は片角だとは、この国は…弱体化を希望しているのか!ふざけるなよ!武器を構えよ!わたしはあのワイバーンに槍を使ってしまったからな、武器は無しだが…魔法で沈めてくれる!さあ、武器を!」


 血の気が多いなあ。


 てか、俺武器なんか…。


「なんだ?女子どもの前で恥をかきたくないと?ふっ、愚かな。それとも何か?わたしと戦うのが怖いか?」


 機嫌を良くする彼は…愚かなのかね?


 話をしている間があれば一撃でも俺に当ててくれればいいものを。


 まあ、近くに子供たちがいるからかね…。


 少し下がるか…


「ふっ、無言で後ずさりか…。逃げるのだ…え」


 彼は、俺が今まで居た場所を指差しているが…そこには誰もおらず。


 呆ける彼の肩に、踵落しをきめた。


 即座に反応したようだが、構えた片腕では勢いを殺しきれず、川に勢いよく落ちる。


 水柱が上がるが…


「幻術か!卑怯者め!わたしがなにもせず待っているのを利用したな!「アクアスピア!」」


 上がる水柱を利用し、そのまま攻撃魔法を放つ!


 俺は着地し、向かってくる『水でできた槍』を叩き潰す。


 ぱしゃり!と音をたてて、水へと戻る。


「魔法の無効化か!その姿で、魔法職だったのか!幻術まで使いおって!ええい、こうなれば…」


 宙へと戻る彼はそう叫んだ。


 俺はただ反射的に手が動いただけなんだけどなぁと思いながら次の相手の動きを待つ。


 みんなから距離をとったので、もしもの事があっても巻き込まないだろう。


 念のため無事かどうか、手を振って確認すると、黄色い声援がかえってきた。


 なんだろう…。気分がイイ!


「ぐ、く…本来ならあの者たちはわたしが一人でワイバーンを倒したことにあの声を上げてくれるはずだったのだ!かっこよく倒せるタイミングを見計らっていたというのに…」


 は?いまこいつなんて…


 なあ、見栄を張るために…


 タイミングを待っていた?


「急に落ちたときは何事かと思ったが、まだ息があったからわたしの槍スキルで倒したのだ。」


 俺は、昂っていた気持ちが冷めるのがわかった。


 コレが魔軍将?


 コレがシンフォニア最速?


 横取りに長けたクズにしか思えなかった。


「まあいい。あの者たちから好かれているようだが、わたしの魔法や技を見れば…わたしに魅入るはずだ。だから、なるべく無様に負けるのだな!せいぜい足掻けよ?」


 そう言いながらにやりと笑う彼の顔は、物理的に歪んだ。


 俺の左拳が見事にヒットした彼は、ワイバーンの近くに落ちた。


 砂煙が上がる中、彼は怒りをあらわにする。


「くそっ!くそっ!くそっ!こうなればてかげ…ん?ワイバーンのこの胸の穴…は、ははは…どうやらわたしは思い込みが激しかったようだな…。武に長けるものを魔法職だなどと言うとは…。」


 彼は嘲笑すると、ワイバーンに突き刺さる槍を引き抜いた。


「なるほどな。ならば、槍を使い勝負してこそはじめてイーブンか。新しき魔王とやら…いざ!」


 先ほどとは違い、明らかに武人の顔を見せるエレクト将軍。


 俺は…自身の口角がつりあがるのを感じた。




 


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