黒糖飴だぁ
負ぶっている子は様子からしても危ないな。
肩を貸りているやつも少し意識が…
「く…王子。もうよいのです、僕を置いて逃げてください。少しでも時間を…」
おやおや~
朦朧としているのか、把握しきれていないようだな。
てか、王子?
「アダン!おい、アダン!もう大丈夫だ…。我々は助かったんだ。」
ネコ君は必死に語りかける。
「ですが…この傷ではまた足を引っ張るだけです。」
ふうむ…。
「お困りのようですね。王子?」
俺は尋ねることにした。
「な、なぜこのセイヨウが王子だと!?」
な、なんと!そうくるのかネコ君よ!
「いや、そこのアダンさんだっけ?君の事を王子って…。」
「な、なんだって!!なんてことだ…。で、助けてもらったことは感謝しているが…吾が王子だということは内密に。」
「お、おう。了解した。で、だ、その二人もそうだが、君も回復させようか?」
俺がそう言うと…
「いや…どこに回復薬がある?そなたは上着を失い、手袋も片方、角も片方しか残ってないではないか。そのような者から頂くなどとは…吾もそこまで落ちるつもりは…」
うわーそうだよな!そなた、なんていわれちゃうよな!
他所の人からしたら今の意見そのまんまだよ!
元から片角でしたーとか。
手袋も右手しか元からつけてませんとか。
服は流石にアウトか?
「いや、まあ、そこは…ね。「レジストフィールド!」「メガヒール!」「ギガヒール!」ふうむ…背中の子には、「テラヒール!」」
「は?え、うそだろおい!メガにギガだと!?更にテラまで!?」
「ふ、ふひいいいいぃ!僕、気持ちよくて幸せでしゅううううぅ~♪」
アダンさん、とろけた。
驚く無かれ!余裕です。
「回復魔王だからな!」キリッ
マスタリーだぜ?効果は抜群だ…と思う。
「ちょっとお待ちください。今、回復…魔王と?魔法ではなく?」
「ああ、数日前に魔王になった。トライオス・タケルだ。」
丁寧な口調になったぞネコ君。
「カエルの魔王とやらをこの目で見に来たつもりだったが…更に魔王が代わっていたとは。」
「それはお供を連れてか?」
「ああ、このアダンとアンズは吾が例え第3王子であろうとも国にとっては宝も同然だといってな。まあ、無茶しないためのお目付け役だろうな。…っと、失礼しました。魔王陛下。」
そんなかしこまらなくてもいいんだがなぁ。
「先ほどの無礼の数々を…」
「いや、それは俺のかっこうが悪かった!だから、頭を上げてくれ。それに、普通に話してくれてもいい。念のため訊くが歳いくつだ?」
く…ミミが愛らしい。だが、ネコではなく…ネコ科の何かだろうな。
「ふうむ…気さくなのが好みなのですな。…歳は20になる。」
「俺は21だ。だからあまりかたっくるしいのは無しだ。」
「承知。ならば、タケ。此度、感謝する。このお供たちの分もだ。相変わらずよだれをたらして呆けているからな。肩も背中も、なんだか冷たい液体が…アンズまで呆けて…て、アンズは毒を受けて重傷だったはずなのだが…皮膚も痣のようなものがひいてる…。なるほど、回復魔王なわけだ。」
俺はタケ。なんだろう…懐かしい呼ばれ方だ。
俺は懐かしさのあまり遠くを見た。
「ねー陛下ちゃーん!獣人さんたち無事~?」
対岸からムーちゃんが呼んでいるようだ。
「あの御仁?ご婦人?は、妃か?」
「疑問符だよな。俺の嫁ではないよ。将軍の一人だ。」
「なんと!てっきり…。それに、将軍?見た目では分からぬものよのう。」
「ああ、そんなもんだ。だろう?王子様?」
「む…セイとでも呼んでくれ。ヨウのほうだと上の兄達と混乱するからな。」
「あ~あれか!なんとかヨウで統一してるわけだな。」
「左様。だから、セイで頼む。タケ。」
にやりとする口元から見える牙はなかなかだな。
あ、そういえば…歯磨きどうしてるんだ?
心配になってきたんだが…
木の棒でもかじるのか?それとも、爪楊枝的なので引っかかったのを取るくらい?
何かしらの動物の毛を使って作ったブラシかね…。馬や豚がいるのならばありえる。
それとも、この世界の普通が斜め上を行っている可能性も…
ああ、トイレの事がある。
「なあ、その…将軍が手を振ってるけど…何を考えてるのだ?」
「ああ、歯磨きだ!」
「…。」
そんな目で見ないでくれたまえ!
重要なことなんだぞ?
俺は、アダンさんを担ぐと先に跳び、ムーちゃんの側に着地する。
続けてセイと、おぶられているアンズさんがその側に着地する。
そういえば…
「その…ふと思ったんだが、いつまで獣化は続くんだ?」
「直らん。残念なことにな…無理をしすぎたらしい。」
バス将軍のようなものか。
それなら仕方ないとしかいいようが…
「陛下ちゃん。邪視効かないのね。それに、頭が消えてるわよ?」
「スキルを使ったのが不味かったな。普通に殴るだけなら無くならなかったかもしれない。」
おうい、何だその目は!
二人してコイツおかしいんじゃね?的な目を向けるんじゃない!
「陛下ちゃんのデタラメは今に始まったことじゃないわ。諦めてちょうだいな?」
「うぬ。タケに普通という言葉は無理かもな…。」
普通が無理なのかよ!
すると…
子ども達の方が慌しい…
見に行くと…
「チョークスリーパーホールドだと!?」
俺は思わず叫んでしまった。
バルちゃんが、あのバジリスクにキメていた!
「ううううぅ!へいかの角を返せ!」
凄い形相で凄いこと言ってるよ。
俺の角とか…
ん?先ほどまでしていた首飾りが…
食べられた?
すると…
首をキメられているバジリスクの身体が輝きだす。
眩しさに目をそらす。
あ、そうか…今仮面してないんだ。
輝きがおさまると、そこには…
「黒糖飴だぁ…あははは…おいしいなぁ♪」
俺の角の味が黒糖飴だと?
「ちょっぴり、いえ、かなり…ビターな黒糖飴!」
なあ、それはもう別物じゃね?
「ねえ、陛下ちゃん。ホントに…元人間だったのね、バジリスク。」
「そのようだ…。なあ、セイ。布とか持ってないか?流石にこの格好は…。」
「そうだな、おなごが生まれたままの姿でおるのはちと目のやり場に困る。布なら、アダンが纏ってるやつでも取ってくれて構わん。」
そう言われたのでアダンさんを下ろすと、マントのようにしていた布の結び目を解く。
そして、バジリスクだった?いや、人間だった?少女に羽織らせた。
「店員さ~ん。新商品どこです~ふふふ~。」
首を絞められてたせいか…少し、いや、かなりトリップしてる。