笑うらしいよ。
その顔はまるで、穏やかに口を開け、微笑みながら寝ている者のようだった。
その者に近づく影が…
「ねえ、知ってる?絶望した時…笑うらしいよ。」
近くにあった棒を拾うと…
バルちゃんは、自ら作った水たまりに横たわるバジリスクをつついた。
「本来、笑みとは攻撃的なものでね…牙なんかをアピールしたりする動作なんだよ?」
反応がないことを確認すると、俺の顔を見てそんな事を言った。
「それはアレか?俺の素顔が恐ろしいのか?恐怖の余り…失禁するくらい。」
俺のその発言に、ウサミミさんは両手でスカートを押さえた。
それもなぜか、汗だらだらで…
顔は流石にハンカチかなんかでいちど拭ったようだが…
「そ、そんな見ないでください!陛下に見られたら…漏らしちゃいます!」
おうい、俺の顔は暴力的なのか?
俺は悲しくなってウサミミさんから視線を逸らした。
「ちょ、そういういみじゃなくてですね!トイレ行きたくなっちゃうって事ですよ!」
え、なにそれ…俺の顔見たら尿意が湧くのかよ!
「もー誤解ですってばー!ぐうう…陛下のイメージが違いすぎてあたちの あたち がヤバイ!」
涙目で言わんでくださいな。
「もー、やっぱりバセットはお子様よね~。」
桜色髪の少女がくすくすと笑いながらウサミミさんを見る。
ふうむ。バセットか…
「おらは、そんなきにしない…だからさ、およめさんになってくれよー。」
少年よ…。大胆だな。
「ならやせ…」
「へいかみたいなおとこになってみせるからさ!おらがしあわせにする。まもるよ。」
バセットが言おうとしたところで、先ほどより力強く、キリリとした顔で言った。
すげーなぁ。こんなこと言える男は早々居ないだろうに。
その顔を見た彼女は一瞬だけだが頬を緩ませた。
ああ、今のは見えたぞ!脈アリだな!頑張れ…ぽっちゃり君!
「ふ、ふんっ…ガルのくせに…。そんなには待っといてあげないんだからね!」
コレがツン!
「ねー、今バルが話してるとこだったんだよ?」
不愉快といわんばかりだな…バルちゃん。
だが、今の俺達は知らない…。
このガル少年が、数年後…超大型の魔物を一人で倒すほどの英雄になることを。
おいおいバルちゃん…。
機嫌が悪いからって…気絶してるバジリスクの尻尾を持ちながら、うろうろしないでください。
他の個体に比べて小さいからそこまで重くないのかもしれないけど…
生き物でそんなことしちゃいけません!
そう思っている俺は…絶賛、亡骸を移動させ中である。
状態がよいものと悪いものを選別しているのだ。
自分がやったとはいえ…20近くものバジリスクは…多すぎる。
「へ…陛下。ほんとにオレたちは何もしなくていいのですか?」
と言うのはリュート君。
彼は…自称男の子だ。
自称と言うのは…まあ、なんかモヤモヤするんだよ。
そう、まるで…ムーちゃんに近い感じのどっちも的な…
バルちゃん曰く、昨日の朝、俺の回復魔法のおかげで目を覚ました。
そう、嬉しそうに言っていたお友達だそうだ。
そのせいか、先ほどは「この命、陛下のために…。そう、陛下のものです。」などと恐ろしいことを。
いや、まてよ…そういやモニカに同じようなこと言われたな。
自分の命軽視しすぎだろうに…。
回復魔法をかけたにも拘らず少しふらつく様子だったので、休ませている。
その側では…すでに腹筋運動を一人でしているガル少年。
俺のシックスパックをちらりと見るたび無言で頷くと腹筋運動を再開する。
やべー、やっぱりこの子凄いわ!
でもな、腹筋運動ではこの腹は無理だぜ?俺がトレーニングをだな…
え?残りの二人?
ああ、バセットさんとライアちゃんか…
聞くな。
小らしい。
そちらを見ないように心がけている。
もちろん、ガル少年もだ。
だから、俺の方ばかり見てるのかもしれんがね。
しばらくすると…
遠くのほうから…
「…ル~~~~~!!!!!!」
なんとかル~と叫ぶ声が聞こえる。
この声は…
「…バル~~~~~!!!!!!」
近づいてくる…
バルちゃんの知り合い?
「ツィンバル~~~~~!!!!!」
だれそれ!
てっきり…バルちゃんかと…
「あ、ママ!」
へ!?
俺はその発言に驚いた。
そりゃ驚くでしょう!
だって…
「陛下ちゃーん!!!!!」
どう見ても声の主、ムーちゃんだから…。
「え、バルねーちゃん。アレ、将軍様だ…よ?」
おうい、友達にすら知られてないのか!
謎多き少女、バルちゃん。
その正体は…
魔軍将・ツィンバロムのご息女でした。
小から帰ってきたバセットさんはすぐさま敬礼した。
「将軍様。あたちたちは陛下のお力により無事です。わざわざ子ども達のためにこのような場所まで…ううう。」
その姿を見て、右手を上げるとパタパタと左右に振る。
「そこまでぴしゃっとしなくていいわよ。アタシは、娘が魔物にと聞いて走ってきたんだから。」
「娘?」
「そう、アタシがおなかを痛めて産んだ、ム・ス・メ♪」
そう言いながらむぎゅーっとバルちゃんをハグする。
「本当の名前は『ツィンバル』だなんてオレしらなかった~。」
呆けながらそんな事を言うリュート君。
「あら?アナタ…っふふ。アタシの部屋にきなさいな。無理はダメよ。多分、陛下ちゃんでも流石に今のアナタはどうこうできないはずよ?」
ぬ…やはり、ふらつくのには何か理由があるのか。
リュート君はムーちゃんの言葉に力なく頷いた。
「ああ、俺の回復魔法ではあまり力には…」
「そんなことはありません!陛下!タケル陛下!オレは…オレは!!!」
そんな大声出したら、あらら…。
ふらつき、すぐさまガル少年が支えた。
「事実だ。俺は万能ではない。できることは限られている…と思う。」
俺のその言葉に顔を赤くし、涙目になる。
「それでも…それでも…オレの憧れです!」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。」
慕ってもらえてるんだな…俺なんかがさ…。
「あらあら、ステキなファンをお持ちね?陛下ちゃん。」
「俺は恵まれてるんだな…そう思えた。」
微笑みながら聞いてきたムーちゃんに微笑み返した。
「ぶー。ママ、飼っていい?」
雰囲気が好ましくなかったのか、あいかわらず気絶しているあのバジリスクを指差しながらとんでもないことを言い出す。
「ねえ、ここに並べてあるのって…全部、陛下ちゃん?」
「ああ、俺…いや、この綺麗に首が落とされてるの以外は俺だ。」
そう、一匹はバセットさんが魔法で倒したらしい。
切れ味バツグンデスネ。
「一も二も無いわよ。この数はちょっと…それに、穴を掘って現れたということが少し気になるわ。」
嫌な予感でもするのかね?
「ねーママー。飼っちゃうよ?ねえ、飼っちゃうよ?」
バルちゃんが言うが…
スゴイ悩んでいるらしい…
娘に返事をせずに、気絶する小さめのバジリスクを穴が開きそうなほど凝視していた。