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その背に恋をする。

 オレ、リュート。


 ここ数日、高熱を出して寝込んでたらしいんだ。


 昨日の朝、目が覚めたら、かーちゃんが泣きながら陛下が~って


 奇跡だとか言われちまったよ。


 あーあ、どんな魔王様だったんだろう。


 近くに住んでるやつらに聞いても、広場からこの西通りの方まで魔法を~とか、南門まで~とか、畑にいた連中も~とかで、肝心の陛下に関しては…


 黒き仮面の貴公子だとか…


 その言葉を聞いたとき、なぜか胸の奥がトクトクと不思議なリズムを奏でた。





 結局、聞けた話からの姿は


 魔王のローブを纏い


 魔王の杖を掲げ


 その手には黒い手袋、それも右手だけだとか…


 黒髪で、その顔のほとんどは黒い仮面によりわからず


 そして、右側にだけ生えた黒角


 黒い陛下。


 それだけ聞くと悪そうだが…


 驚いたことに、回復魔法を唱えると白くなったとか…


 スゲー!


 で、夕方くらいにバルねーちゃんがオレが目が覚めたことを聞きつけて見舞いに来てくれたが、そのまま何人かで明日、いやもう今日か…まあ、これからになるが、遊びに行くこととなった。


 付き添いがいるから川まで行けるとか。


 きれーな貝殻とか石があればいーけどなぁ~


 陛下にプレゼントするんだっ♪


 そう言いながらこぶしを握ると、バルねーちゃんからクスクスと笑われちまった。


「へいかはねー、見返りは求めないと思うんだよ~。」


 なんだそりゃ。むつかしー言葉使うよな、バルねーちゃん。


「バルねーちゃん、陛下に詳しいの~?」


 ライアはそう言いながら首を傾げる。


 東通りに住むオレより一つ下の女の子。


「おらもきになるー。」


 そう言うのはオレと同い年のガル。


 狼の獣人らしいのだが…


 ぽちゃぽちゃしてる。


「はーなんで、あたちが子守なんかを…はあああぁ…。」


 ウサミミをだらしなく垂れさせてるのが今回の付き添い、ライアの近所に住んでるバセットねーちゃん。


 数年前まで一緒に遊んでた仲だが、いつのまにかオトナ気取りである。


「あたちとか言ってる時点でどっちが子守かわかんないよね~。」


 ライアは悪気は無いのだろうが…ご本人が気にしてることをズサリと言った。


「ううううう…。」


 あちゃー涙目になっちまった。


「なくなよー。おらのおよめさんにしてあげるからさー。」


 狼がウサギを嫁に?


 ナニソレ怖い。


「ガルは無理ね。まず、痩せなさい。」


 すげー。一瞬でキリッっとなって突き刺さる言葉を…


「えー、これくれえがこどもは元気だ、がははははーって。とーちゃんいってた。」


 余り、気にしなかったようだ。


「で、バルにへいかのこと聞くんじゃなかったのー?」


 頬を膨らませるバルねーちゃん。


 そうだったそうだった…


 ん?バルねーちゃん、そんなきれーなの持ってたっけ?


「へへ、えへへ~これはねー。リーナにお願いしたの、へいかの角だよ~。」


「「「「 え? 」」」」


 オレを含めたみんなで驚く。


「あ、あたちなんて…将軍様に今日のお茶は無理だから~今はこの列どうにかしましょうねーって言われただけで、陛下の声も顔もしらないんだよ?」


 そう、何を隠そう、将軍様のメイド部隊に入隊したばかりなのである。


 でも、魔法ライセンスはすでにBランクを頂いている。


 ちょっとしたエリートなのである。


 だが、『あたち』なバセットねーちゃん。


「リーナと姫様が首からさげてたのを、いーなーって言ったらね、ちっさいけど~って言いながらも昨日の夕方、リュートのお見舞いの後にもらったんだー♪」


 そう、何を隠そう、城に住んでるんだよな。


 バセットねーちゃんも付き人として今回バルねーちゃんのそばに居る。


 すげーよな。


 文字通り、住んでる世界が違う。


 話をしているうちに川に着く。


 お日様が反射してキラキラしてて、まぶしーなー。


「で、へいかのこと聞かないの?」


 もうそのことはいいや、バルねーちゃんが恵まれてるってことだろう?


「ぶー。へいかに会わせてあげようかと思ったのにー。」


 そ、それは…


 その時、近くで何かが崩れる音がした。


 見渡してみると、川の側の土手が崩れ始めている…


 見る見るうちに大穴となった。


 そこから出てきたのは…


 大きなトカゲ?


「っ!?な、なんで…バジリスクが!」


 え、魔物?


「あたちの後ろに隠れて!」


 そう言いながら懐から杖を取り出すバセットねーちゃん。


 何かを唱えて杖の先端をバジリスクに向ける。


 すると、バジリスクは首と胴がお別れした。


 すげー。


 魔法、すげー。


「そこは、あたちがすごいと…え?」


 動きが急に鈍くなるバセットねーちゃん。


 何か起き…


 振り向こうとした時…


「だめっ!みちゃダメよ、目だけはダメだから!」


 そう叫ぶバセットねーちゃんだが、今倒した、だ…ろ?え?


 穴が増え、そして、一つの穴から複数のバジリスクが…


 そ…んな…。



 カランッ



 ねーちゃんは見てしまったらしく、杖を落とした。


 そして、動かない。


 いや、動けない。


 石化状態だったっけ?


 あー、バセットねーちゃんが戦えないなら…


 オレタチハ…


 そう絶望した時だった…


「きてくれるよ。」


 優しくささやいたのはバルねーちゃんだった。


 その手に握るのは陛下の角が使われていると言った首飾り。


 足元には、砕けた石ころ?


 誰がくるんだよ!


「へいか。」


 は?こんな川まで陛下が?


 回復魔法が使えるだけなんじゃないのかよ?


 回復魔法に長けただけの、回復魔王だろう?と…


 オレは混乱したが、昨日感じたことを思い出す。


 それでも、かっこいいとおもった。と…


 すごいとおもったと…


 素敵だと思ったと…


 会ってみたいと思ったと…


 無意識に言葉が口からもれだす。


「…陛下。」と


 だが誰も来ない。


 興奮したバジリスク達が四足で駆け出す。


 鋭い爪、尖った牙。


 動けなくなった獲物を無残に引き裂くその魔物がオレの元へと…




 ぐしゃり…


 ごすっ…


 どごっ…


 ずぱぁあああぁん…


 








『その手には黒い手袋、それも右手だけだとか…』


『黒髪で、その顔のほとんどは黒い仮面によりわからず』


『そして、右側にだけ生えた黒角』


『黒い「陛下…。」』


 そよ風のごとく現れ、瞬く間にバジリスクを素手でしとめた彼。


 涙と鼻水でぐしゃぐしゃなみんなに向けて振り返りながら微笑むと…


「無事か?いや、まあ…怪我してたり、痛い所があったら言ってくれよ?」


 オレは、その日その時その背に恋をした。




 その光景を…


「むふー。やっぱりタケルおにいちゃ…じゃなくて、へいかはきてくれたでしょう?」


 ドヤ顔で、威張りながらバルねーちゃんが見ていた。




 タケル陛下…。


 ああ、甘美な響き。


 胸の奥がトクトクと歓喜のリズムを奏でた。







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