会議前の『あーん』
ぼーっとしている姫様をスルーし…
「それで、メイド長はなんのご用で?」
なにその視線!先生とメイド長の視線が痛い!
「このタイミングでよくもまあ…おぬしは動じぬ男よのう…。」
「はい。姫様が何だかかわいそうです。」
お茶が甘かったということだろう?
そんなよだれくらいでわーわー言ってたらキリがない。
間接キスとかで騒ぐオンナノコデスカ?
「ボクも流石にその反応はどうかと…。」
なんと、リーナまで俺を残念そうに見る。
「俺は気にしてない。それでいいだろう?」
「姫様が気にしてるんですよ!これが新たな王!なんと、鈍感な!」
「そうじゃのう…まあ、機会はまだある。気を余り落とすでないぞ、リーンよ。」
「うわわーん。トライオスのバカー!」
なんだなんだ!俺が悪いのか?
「我とて幻術に魅了が効かぬのじゃ。協力して、頑張ろう…。虜にして魅せよう!」
「ううう…はい。先生。」
ヴィオリーン姫とヴィオリラ先生は俺の膝の上で硬い握手をした。
何を頑張るのかね?
まあ、仲良くなるのはいいことだよな。うん。
「姫様とヴィオリラ様が固い結束を!すばらしい!私、感動しました!」
ハンカチを取り出すと涙を拭うメイド長。
そんな大げさな。
「ああ、ボクは恵まれているんだと…今思えた。」
リーナがなぜか遠い目をした。
恵まれている?
いや、恵まれてるのは俺のほうなんだがな…。
キミのようなステキな女性に好かれているなんて…幸せだよ。
「もー。このタイミングでリーナ様にだけ熱視線ですか。ホントに陛下はリーナ様だけなんですね…。これじゃ、モニカもチャンスは無いでしょうね。」
メイド長が苦笑い気味にそう呟いた。
「それでですが、私がこの部屋に来たのはですねー。様子をみにきたのが一つと、会議の前の軽食をお持ちしました。」
「軽食?」
「はい。おなかいっぱい食べてしまうと…眠くなっちゃいますよね?だから、軽食です。」
部屋から一旦出たメイド長は、台車をおして来た。
ふたを開けると、サンドイッチかね?
パンの間に葉物野菜と干し肉をスライスしたものがはさんである。
簡単につまめるものだね。
「これはおいしそうだ。にしても、もうそんな時間か…。」
「いや、トライが本を読むのに集中してただけじゃろうに…。」
そうなのか…。
にしても
「先生。リーン。下りないのか?」
「「なぜ?」」
え、二人そろって真顔で答えた。
「今から一大イベントだろうに…。我自らトライに食べさせてやるのだぞ?」
「そうよ、私と先生がトライオスに食べさせてあげるんだからね♪」
「うむ。そうじゃのー見返りは…我たちにも『あーん』っと食べさせてくれればよいからの。」
お子様だな。
メイド長。なぜ、ウィンクしながらサムズアップを?
俺がサンドイッチを皿からとるとまるでひな鳥のように二人して待機する。
すげー目がキラキラしている。
まず先生に近づけると…
ヴィオリーンがとても悲しそうな表情になった…
うぐ、これはどうしたものか…
多分、これでヴィオリーンのほうに近づければ先生が悲しむだろうことが伝わってくる。
仕方ないので、もう片方の手にもサンドイッチを持つ。
そして、二人同時に口元に近づけた。
幸せそうにもこもこと口を動かす様は俺の心も穏やかになった…が
「ひょっひょーこえ、マスタードひゃいっひぇゆ?」
「んゆ、たしかにゅ。ちと、ピリッと…」
なんだ、苦手なのか?
コンビニのヤツとかは普通に使われてるとか表記されてたりするが、手製では食べるか、作った本人に聞かないとわからんわな。
俺は、アクセントとしてはいい気がするがね。
「私的にはアリだと思うのですが?姫様も食べれないわけではありませんよね?」
苦手ではないようだが、何か問題が?
先生は口に入っていたものを飲み込むと…
「トライが苦手じゃったらどうする?」
「そうよ。トライオスの好みがわからないじゃない!」
続けてヴィオリーンもメイド長に苦言を申し立てる。
俺の心配かよ。
「え、あ、あ~、その~、陛下はマスタードは苦手で?」
「問題ない。」
俺の返事にあからさまにほっとする。
「よかったー。今更ながら気付きました。好みの問題があることを…。不覚でした。」
まあ、誰にでもあるさ。
アレルギーとかがあるんだったら大問題だが…
俺は持ち合わせていないからな…
しかし、世界が違えば苦手なものも後々出てくるかもしれないな。
ゲテモノを食す習慣がある可能性も無きにしも非ず。
見た目に反しておいしい可能性もあるかもしれないがね。
図鑑にもそれっぽいことが書かれてた。
描かれてもいた。
手描きだが、なかなかリアルだったな。
食べてみたい気もするな。ドラゴン肉。
「今度から気をつけるがよい。ならば、次は我とリーンの番じゃな!リーナはそこで指を咥えてみているがよい!」
なにそのドヤ顔。
これはアレか、逆のパターンだな。
どちらのを先に食べるか…
右往左往してればその分顔を曇らせるかもしれないので…
俺は二人の手首を優しく包みこむように持ちながら近づけ
サンドイッチを二個同時に食した。
「おおう!我はとてもキュンキュンしておるぞ!」
「いい、実にいいわ!う、く…だ、だめよ!このタイミングで下腹部が!!!」
ヴィオリーンは幸せそうにしたのち、スゴイ汗をかき始めた。
何が起きた?