昨夜はお楽しみでした。
「お、おい。ラーベル。なぜ私の家に向かう道を?」
ふ、ふふ…乙女の秘密です。
「おーい。そんなに引っ張らなくても私はついてくるのだが?」
気持ちが昂っているのです。
心と身体が疼くのですよ!
あらあら、私ったら…こんなにもオープンだったかしら?
過ぎ行く方々に微笑を見せながらも、バスさんと二人で歩いているのをアピール。
悔しそうな方もいますが、祝福されているような方も…
さあ、バスさん。
楽しみましょう?
「で、いったいラーベルはバス将軍に何をしでかしたんだい?」
「14回。」
「へ?」
「ですから~14回バスさんが…ね?」
「ね?って言われても…。」
ソファーに横になるリーナを眺めるラーベルさんは恥ずかしそうにしながらも何かの回数を言う。
いや、まさかね。
「私としては、今まで待った20年ということで20回はと思っていたのですが…。」
「20年て…。」
「あら、そうでしたね…。この国に来たその日から私はバスさん一筋でしたの。」
「す、すごいわね…ラーベルちゃん。アタシにはそんなの無理だわ。途中で関係が変わってしまいそうね。」
ムーちゃんも驚く片思い。いや、両想いか…。
しかし、それで20年だから20回しましょう?となるのが凄いわ!
「何を言うか…我からすれば十年そこらではのう…はあああぁ…ラーベルも昨夜か。」
「?もしや、いいえ、この様子からすると…リーナさんは…。」
「ん。有言実行したんだ。そして、ボクはこんな状態なんだけど…。ラーベルは、そのー痛くないの?何回もしたんでしょう?」
そうなのである。
「うふ、うふふ…私を誰だと思ってるの?」
なにその敵キャラみたいな言い方。
ラーベルさんはスゴイ方なのかね?
「そりゃあー『眠り姫』の名を持つ、戦える庭師だろう?」
「んもう。リーナさんもその呼び名?」
戦える庭師!
眠り姫と聞くと寝てばっかりのお姫様か…
御伽噺とかそんな感じを受けるのだが…
「まあいいわ。それでね…私はまだまだイケそうだったんだけど、バスさんが14回目で気をうし…じゃなくてお休みになったの。」
おうい、言い直すのが遅いですよ。
気を失うほどって…。
「それで、今朝起きたら私はお肌艶々だったわー。まるで肥料をもらえた花々のように。」
その例えはどうかと思うんだがね。
「うっとりしてたら、バスさんが目を覚まして『腰が…』って言い出しまして…。」
激しかったんですね?
「魔王陛下に頼めばすぐによくなりますよ?って言ったら…『そ、そんなお願いができるか!昨夜はお楽しみでした。ですが、朝起きると腰を痛めてました!なんて…それで回復魔法お願いしますだなんて!』って言うんですよ涙を流しながら…。」
そりゃ涙も出るわな…立場の所為か、行いの所為か…どの道普通の感性ならお願いはできないだろうな…。
「ですから、理由を言わずにリーナさんに湿布を用意してもらおうということで…。」
「いや、思いっきり今言っちゃってるよね?」
「そうね、バス将軍も赤面でしょう…。アタシなら、二三日は寝込むわ。」
「ふ、そんな…たったの10回そこら…あの時の地獄と比べれば…」
アコーだけ自虐的な笑みを…
話を逸らそう。うん。
「でだ、俺らに知られたわけだが…将軍は大丈夫なのか?」
「もちろん。ぐっすりですよ?」
その笑顔が恐ろしい…眠り姫。
「将軍のあの巨体でも、ラーベルの眠り攻撃には負けるのか…流石だね。」
「いえ、普通ならそこまで効かないのでしょうけど…。今回は、私がとても元気でしたから。かわりにバスさんはまあ、その、元気を出しちゃってたわけですし…私に。」
苦笑い気味に言う。
まわりもつられて苦笑い。
お元気ですね。
「湿布ならひき出しにあるからそれを持って行っていいよ。それと、予備の湿布用の布も。植物性のを簡易に作れるだろう?ラーベルなら。」
引き出しを漁るラーベルに声をかけるリーナ。簡易なら作れるのか?
「そうね、湿布用の布はありがたいわ。予備が切れたとなると…まあ、早めに植えておくわ。それじゃー貰って行くわねー。あ、それと…バスさんは寝かせておくから、昼からの会議は私が参加しますね?ツィンバロムさん♪」
布切れと、薬を大事そうに抱えながら扉へと向かい、昼からの話をして…出て行った。
「わかったわ。はー寝ようかと思ってから色々と起こるわね…これじゃお昼からも何か起きそうな予感。アタシも今のうちに睡眠をとっておかなきゃ…じゃーね♪」
眠たそうにしながら右手をパタパタして出て行くムーちゃん。
ホントお疲れ様です。
「では、私も…軽く朝食を頂いてから休憩を取らせていただきます。」
「お疲れ様。アコー。」
「んっふふ…では、陛下。失礼します。」
そうだよな、アコーは朝食まだだったんだよな…。
お疲れ様と声をかけると、やさしく微笑みながら一礼して出て行った。
「よし、我も寝るとするか!」
そう言いながら俺の肩をポンポンするヴィオリラ先生。
「はようおろさんか。教え子の隣に決まっておるじゃろう?」
「む、先生。塔でお休みになられては?」
「ぶー!我は疲れた。トライを貸してくれるなら別に構わんが?ふひ、ふひひひ…じゅるり。」
「な、先生。ささ、ボクの横が空いてますよ。タケル、先生を下ろしてくれないか?」
元気だよな…。
「ふふーにしても、なかなかの…。このソファーでだったのじゃろう?」
っ!?
「そんな…そんな格好で匂い嗅ぐ先生は見たくなかった!」
ああ、俺も流石に…どうかと思うぞ?
ただの変態にしか見えない。
「よいではないか、よいではないか!」
その言葉の使い方、どうかと思うぞ…。
「で、トライは寝らんのか?我の隣が空いてるぞ?ささ…」
「俺は止しとくよ。まあ、適当に本でも読ませてもらうさ。読んでもいいか?リーナ。」
「ん。タケルに絵本を読んでもらえるのかい?」
え?そっち?
「いや、そうじゃなくてだな…」
「なんじゃ、読んでくれんのか?」
「まあ、冗談だよ。タケルの気になったのを読んでおきなよ。ボクは休ませてもらうね?」
「ああ、お言葉に甘えさせてもらうよ。知らないことばかりだろうからね…。」
「本を片手のその様も絵になるのう…ふひひ…イイ夢が見れそうじゃ。」
幸せそうにそう言いながらまぶたを閉じた。
さてと、なるべく静かに読みますかね。