ラーベル無双
「ふ、ふふ…。あら、すみません。退いていただけないでしょうか?」
そう、私はラーベル。今、バスさんが夕食をとるであろうお店をまわっているのです。
ですが、陛下のおかげかまわりはこの時間帯にしては活気だっています。
バスさんは静かな場を好みますので…。
それにしても、次のお店に行きたいのですが…
「へ、へへ…綺麗なお嬢さん。おれっちがエスコートいたしやしょうか?」
「いんや、おらが案内するべ。」
「はんっ、訛りやろう共が…わいがつれてってやるんじゃ!ぐひひ。」
獣人の方々が退いてくださいません。
もっと手入れをしないと…撫でたくなりませんよ。
困りましたね~。
すると、お店の奥のほうでは…
「おい、あのバカ共は見ない顔だが…あのラーベル様だと気付いてねえのか?」
「そうらしい。最近来たんだろう。そうでもなけりゃ命知らずだぜ…。」
「俺も知らないときは一度やられたことがあるぜ…。」
「「マジか!」」
「おめー見た目に寄らず、勇者だな。」
「はは、だれだってあんな綺麗な嫁さん欲しいって思うだろうさ。」
「まあ、そうかもしれねえがな…。」
あら、私のことをお話で…。
お忍びのつもりでしたが…これは他所でも時間がかかりそうですね。
早くバスさんと…
うふ、うふふふ…
「やべーおれっちを見ながらほほえんでくれてる…。」
「なわけねーべ。みまちが…おおう、えぇ顔だべ。」
「ごくり。我慢ならねえ…わいとイイコトしようやひ!?」
我慢ならないと言ったイヌミミさんをふわりと避け、その過ぎ去る肩を人差し指の爪で一突き。
ドサッ
あらあら、ふふ…。明日の朝まで起きませんよ?
私が眠ってしまったイヌミミさんに視線を送っていると…
「な…おれっちにわ今のは何が何だか…おい、寝てるぞ?」
「べ…ふひゅっ!?」
スカートを翻しながらウサミミさんの首筋をこつんと…
バタッ
のんびりやさんね~
「な、おい!どうな、へっ!?」
キツネミミさんの眉間に爪を近づけながら…
「ごめんなさいね?私は大切な殿方を探している最中なの。だから、お邪魔虫さんは…おやすみなさいね?」
こつんと額をつつくと直立不動のまま眠りへと落ちた。
だめね~欲だけじゃダメなのよ。
バスさんみたいじゃなきゃね?
いえ、バスさん以外はどの道無理ね…。
全くきゅんきゅんしないんですもの…。
「やっぱきれーだよな。」
「技もそうだが、佇まいがね…。」
「だろう?知らなきゃ声もかけたくなるさ。だが、気がついたら次の日の朝だもんな…耐性持ちでもかなり高くないと無理らしいし…。」
「マジかよ?」
「ああ、おれもその話は聞いたが…かなり手加減してもらっていたとか…。」
「流石、『眠り姫』様。」
「おいよせ、本人はあまりその呼び名は好きではな、ひっ!?」
んもう、眠り以外も可ですから。
眠りだけだと思われるのはイヤなんですよね…。
麻痺も毒も多種多様に…一度触れた植物の成分は生成可能なんですよね…。
私はそう心で呟きながら席で私の話をしている方々に近づきます。
「夜中にごめんなさい?あの方々のこと…おねがい、ね?」
勤めてやさしく言いますが、すごい勢いで顔を上下する皆さん。
あら、この方はどこかで…
「え、あは、お久しぶりです…。」
ん~?
あ、そうでしたね…。
「またお休みします?」
「っ!?」
そんな、顔を青ざめなくても…
「た、確かに次の日の朝は目が覚めるとスッキリ心地いいですが…今日は遠慮しておきます。」
あら、残念。
「え、まじか!?次の日の朝がスッキリ心地よくなるなら…お願いしようかな…。」
「おまえ、チャレンジャーだな…。」
あら、あらあら…確かにこの方はあまり眠れてないのでしょうね…。
私は、即座に生成すると…
「では、これをどうぞ。弱めではありますが、寝不足や眠りが浅いようであればお使いになられてくださいね?」
そう言いながら紙に包んで手渡す。
なかなか鍛えられている指ですね。職人さんでしょうか?
「あ、ありがとうございます。ん?おれの指がどうか…いたしましたか?」
「いえ、お仕事ご苦労様です。」
「っ!?」
あらあら、そんなはしたない顔を…
「っは!?こんなとこ見られたら嫁に殺される!」
あら、既婚者でしたか。
ふふ、殺されるだなんて大げさよね。
「大げさだぜ?にしても、ラーベル様。どうしてこちらへ?」
そう言う彼はお店のマスター。
念のため聞いてみましょうかね…。
「バスさんを見てません?」
そう言うときょとんと…
「へ?ああ、バスか。いえ、将軍様ですね…。今日は見てませんね。」
「おれは見ましたよ。あの、昼飯所で…。」
職人さんがズボンのポケットに大事そうに包みを入れながらそんな事を…
「昼飯所…ああ、レコウードがやってる店か?でも、夕方にか?」
「昔からの友達だからだよ…。」
そう言うのは先ほどまで顔が青かった彼…
ええ、私も知ってますよ。
一目ぼれしたときに隣にいた金髪さんですもの。
「皆さん。ありがとうございますね。」
私は、胸が躍るのを必死に抑えながら、勤めて冷静に感謝の意を伝えました。
「っ!?いえいえ、にしても将軍になにか?」
っふふ…。
「あら、レディーに言わせるおつもりで?」
私はそう言いながら踵を返すと出口へと向かいます。
「うわさは本当だったんだな…。」
「あいつらも気の毒に…」
「知ってれば間抜けな面見せながら店内で眠らずに済んだものを…。」
そして、扉を開けようとすると…職人さんが…
「あ、あの!もし、指輪が必要でしたらおれの工房にでも!ご要望に応えてみせますんで!薬、ありがとうございます!」
ふふっ、やっぱり職人さんでしたね…。
バスさんに合う指輪…ふふ、私とおそろい…ふふふっ♪
イメージしながら振り返り…
「その時は、おねがいしますね?」
「はい!」
イイ寄り道になりました。
まさか、指輪を作ってくださる職人さんにあえるとは僥倖です。
軽い足取りでお店に向かいます。
彼は確か…そう、レベックさんのお父さんですよね~。
ふふ、ふふふっ♪
私とバスさんの子ども!
男の子かな~女の子かな~
それに、何人欲しいのかな…
欲しいかな?
私でも子ができることは緑の魔女さんとの手紙のやり取りで知っていますからね…。
うふ、うふふ…じゅるり。
金髪さんのお店の前に来るまで…
邪魔してきた方々を眠らせたのが…計11名
悪い事してた方々を麻痺させたのが…計4名
まあ、悪い事してた方々は兵に預けましたよ。
眠らせた方々も周りの見ていた方にお願いしましたからね。
恋する乙女は止められないのですよ?
ふふ♪
そして、私はお店の扉をノックした。