アコーの記憶・3
苦手な方はスルーしてください。
翌朝、宿屋から追い出されたとだけここに記す。
私は艶々ですが、ディオンの様子はちょっと表現しがたい…。
これは仕方ないのです。
「…。」
会話がないのは慣れてますからね。
「…一つだけ言わせてくれ。姉さん。もう止してくれよ?」
…。
「はあああ…どうしてこうなった。」
私のいた環境のせいよ。
そう言ったら無言になった…
無言のまま町の外へと…
どこ行くんだっけ?
「…シンフォニア。」
どんな国?
「魔族が国王。そして、多種多様な種族が生活しているんだ。」
詳しいわね。
「知り合いから聞いた。」
そう、お姉ちゃん以外の人と普通に話せるようになったのね。
「おい、涙を流さないでくれ。いつもひとりだったみたいじゃないか!」
みたい?何を言うのかしらこの子…
ぼっちーだったでしょう?
「あ…うん。首の事で気が休まらなくてね。」
あ?固定すれば大丈夫~とか言ってたくせに!
「うぐ…ごめんよ。姉さんみたいに笑い合える様な感じは無理だよ。アホーにはなれない。」
アホーじゃないわよアコーよ!
ああ…このやり取りが当たり前だったあの頃が懐かしい…
「今からでもそう言うやり取りができるようになれるよ。そのためにも前に進もう。」
そう…ね。そうよね…
あの時間を…
「姉さん。急ぐために方法がある…」
さて、なんでしょう?
「虫車だ。」
虫?
「ああ、とっても大きな虫だ。」
ははっ!そうね…水分不足でおかしくなったのね、ディオン!
虫なんて大きくても私の半分くらいでしょう?
「いや、姉さんこそ現実を見ようよ。あそこに見えてるだろう?」
あはあははは…顔が引きつるのが…
私、うまく笑えてるかしら?
だって、あれは建物でしょう?
「いや、虫だ。世の中広いんだよ。特に、人間国にいた時間が長い姉さんからすれば知らなかったんだろうけど…一たび外に出てみれば魔物や大型の生物が跋扈する世界なんだよ。つまり、人間国の中でも特に現実から隔離された世界に居たわけだ。」
詳しいわね?
「そりゃあ、狩ってたからね。」
買ってた?どこで売ってたの?
「いや、違うよ。狩だよ。ハンティング!それでお金も稼いでいたし、力もつけたんだ。あいつの首を刎ねることもできた。」
そう…。ディオンは…
「ごめんよ。こんな形での復讐は望んでなかったかもしれないけどさ…。」
復讐…か。
私にはなんとも…壊れた身としてはもうどうでもいいとしか思えない…
それで、話戻すけど…あれ虫なの?
「そうだよ、ほら、となりに飼い主が…」
飼い主って…飼ってるのね。世の中広いわ~
私が家族と住んでいた頃の家ほどのサイズが…動いてる!
その隣によしよし言いながら撫でてるおじいさん!
食われるんじゃない?
「失礼なことを…して、乗るのかね?それとも見とるだけか?ワシのランちゃんを。ほうれ、この光沢がなんともいいのじゃよなあ~男ごころをくすぐるフォルム!ふひひひ…」
ランちゃんって…
「姉さん。乗せてもらおう。すみません、なるべくシンフォニアに近いところまでもしくは、シンフォニアにお願いできますか?」
「ほう?おぬし達…ほうほう…」
ほうほう言いながら自分の額の角や真っ白なあごひげを撫でる…
そう、角なのですよ!
「なんじゃ、お前さんのほうが珍しいじゃろう?頭ズレとるぞ?」
あら、いけない…
…よし、これで…
「姉さん。なぜわざわざ頭を外した?」
いえ、どれほどずれてるのか分からなかったので一度取り外して調節してからね…
「いや、外さなくても微調節くらい…」
「ほっほっほ…愉快な子じゃ。だがのお、シンフォニアに行くのであれば、今見えとるあの町に荷物をな、その後なら良いぞ?」
あら以外…あっさり交渉成立?
でもね~来た道なのよね。
まあ、乗せてもらえたから楽だった。
少し前に私達を追い出した宿屋の店主がジトッとした視線をおくる。
私はおしとやかに一礼。
「はあああ…こんなおしとやかそうな嬢ちゃんが…世の中分からんもんだよ。」
ふふふ…そんなものですよ?
「なんじゃあ、この宿屋でなんかしでかしたのかのう?」
ええ、しました。
「「「…。」」」
事実を言ったまでですよ?こらそこ、顔を赤くしない。男でしょう?
「まだ、男の子で通る年齢なんだけどね僕は…男か…うう…。」
おじいさんも唖然としている…。
宿屋のおじさんもなんとも気まずそうな表情…。
ディオンだけは顔が真っ赤だった。
その後は宿屋の食事をいただき、昼過ぎに出発した。
はあああ…朝出発して、昼前に戻って、そして昼過ぎに出発だなんて…
すでに疲れちゃったわ…。
「ランちゃん!ワシらの故郷へ!」
そう言いながらランちゃんの頭をポンポンと軽く叩く。
私とディオンはランちゃんの背中に取り付けられた専用の座席?
まあ、木でできた長いすに布を被せたていどではある。だが、馬車より勝手がいいわね?
ランちゃん。種族名はランドランと呼ばれている大型の昆虫である。
ねえ、ランちゃんってそのままよね…
「愛着があるからいいんじゃないかな?ちゃんつけてるくらいだし…」
ちゃんつける…ふむふむ…
ディオンちゃん!
「…。僕には付けないでくれよ。」
おじいさんちゃん!
「いや、そこはのう…おじいちゃんでよいんじゃないかのう?」
あらそう?それじゃあ、笑顔を取り戻すたびにしゅっぱ~つ!
「「いや、もうずいぶん移動してるから。」」
話している間も確かに移動していたわね…って速い!でも、なんともない?
「それはのう、ワシが魔法で風の抵抗を…」
あ~あ~聞こえな~ぃ。難しいから聞こえな~ぃ。
「…のう、ディオン君。キミの姉さんは…」
「聞かないでください。僕としてもなんと答えていいのやら…。」
そんなことよりお歌を歌いましょう!
…あ、なんも知らないや。
「「…。」」
ふふふっ!楽しくなってきましたね!
「無表情でそんな笑い声とその発言がでるのがすごいのう…。」
「笑顔を取り戻すためというのは間違えではないですからね…。」
「そうか、困ったことがあればワシに言うてくれ。できる限りはなんとか…まあ、ランちゃんと荷物配達やらがほとんどで家にはおらんことが多いから難しいかのう…。」
「いえ、お気持ちだけでもありがたいです。それに、虫車がこれほど快適だとは…」
「いや、それはワシの魔法があってのことじゃ…他の乗り手は荒いからのう…気をつけとくんじゃよ?」
そうなのですか…。
そして、夜には小さな村に泊まり、次の日の昼にはシンフォニアへと辿り着きました。
本来なら一週間はかかるとのことでしたが…
ふふふ…運がいいですね。
使いきっていなければいいのですが…
「縁起でもないこと言わないでくれよ姉さん。」
あら、ごねんなさいね。
これからよね…。
私の物語はまだまだ続く!
「なあ、アコー。なぜこんな話をしだしたんだ?」
屋上で俺は右隣に控えながら昔話をしだしたアコーに言う。
「え?そりゃあ…ヴィオリラ様がなぜそう言う類の知識を豊富に…とツィンバロム様と共に陛下が聞いてきたからじゃないですか。」
「いえ、それでアコーちゃんの昔話になるのがちょっと…壮絶なのね。てか、ディオンちゃんと…」
左隣にいるツィンバロムさんがご感想を…
あの後は俺が屋上からの景色を見に行こうとしていたと話し、ついてくると言い、今に到る。
ああ、俺も聞きたくなかったよ。友達の…経験を…。
「そこですか?いいじゃないですか…そのころは大変だったんですから。」
アコーは朗らかに笑ってはいるが…なんとも言えんよ。
「我としては…複雑じゃのう…。」
ん?いつの間に…
俺の後ろにとても複雑そうな表情のヴィオリラ先生がいた…。
今回は黒なんですね。
白もいいけど黒もなかなか…