魔軍将・ツィンバロム
バルちゃんと別れた後、バルちゃんを追いかけてたらしいアコーに遇う。
オシオキは終わっているらしく、頭を支えながら早歩きだった。
朝は弱いのね。
「陛下おはようございます。うう…。」
俺を見ながらなぜか涙目。
俺なんも悪いことしてないよ?
「…したでしょう。…リーナちゃんと…したでしょおおおお!!!」
魂の叫びを聞いた。
「うわ~ん。聴こうと思ったらモニカに壊されちゃうし、朝からバルちゃんが信号石を持ち出すし…うう、陛下ぁ~。」
俺にすがりつき、頭が落ちそうになるが、すぐさまアコーの頭を抱え込む。
「むゆっ!」
少し強かったか?そう思っていると、す~はす~は聞こえてくる。
「これがリーナちゃんと愛し合った陛下の匂い!!!せめて、せめて今だけは堪能したい!」
俺に抱きつく姿勢となった。どうしたもんかね…。
「あ~このタイミングで言うのもなんだが、モニカはアコーから没収した伝石で俺とリーナの…を盗聴してたらしいぞ?」
「っ!?な、な、なぁっ!モニカっ、いつの間に…確かに目の前で砕いて見せたのに…やられた。モニカも要注意だったのに…くう~。」
ぐ、押し付けられる見事な双丘。柔らけぇなぁ…俺の腹筋にぶつかり形を変え続ける。
不味いぞ。そのまま位置が下がったら…色々と不味い!
「お~いアコーや、そろそろいいかね?俺は屋上から見る景色をだな…」
「行きましょう。朝食まだですけど…行きましょう。陛下とのお時間のために!」
ふらふらだよ?気持ちの問題なのかね?夜型で朝から昼間が苦手なのだと言うアコー。
「少しすればすぐに戻るんだぜ?それに、バルちゃんのことは?」
「いや、陛下がお持ちじゃないですか。信号石。」
は?これは伝石じゃなかったのか。そう言えば、バルちゃんも弾けばピカピカと…
「そうか、このバルちゃんがくれた石はアコーのなんだな?」
「いえ、城の備品です。バルちゃんが出かける際は持たせるのは当たり前ですが、それとは別のを持ち出したので…。どうしたことかと思いましてね。陛下のために持って行ったとは…微笑ましいですね。ふふっ♪」
そこまで心配されたのか。
モニカ恐ろしいな…子どもからどんなイメージもたれてるんだよ…。若いのに。
やっぱ鬼化でサイズが変わるからか?
角生えた状態のモニカを危険視してるのか…。
「考え込むお姿もステキです…陛下。ポッ♪」
口で言うなよ…。
「なあ、モニカは恐ろしいのか?」
俺の腕に支えられたアコーはキョトンと…
「恐ろしいも何も…昨日の朝は麻痺毒を盛られ、鬼化状態のモニカに毒牙のナイフで襲われたのでしょう?それほどの事があって問題視してないのはどうかと…。」
あ、そうだったな…。リーナも危険視してたね、毒盛られた内の唯一効いた彼女だからこその…
「リーナちゃんが言っていたことは強ち嘘ではないようですね。実際、二度も攻撃を仕掛けた私に対してもこのようなやさしい態度ですし…。」
そう言いながら、ぐりぐり、ふにふに、くにゅっくにゅと…
とても、おもちもちもちです。
「俺は一切怪我をしなかったからな。」
「陛下は不思議な方ですね。あ、今更ながらも…回復魔法ありがとうございました。あの時は、リーン様のことばかりを考えていたので、陛下は敵、情けをかけられようが、易々と頭を下げれませんでしたから。まあ、頭下げたら落っこちちゃうんですけどね…。」
「やはり、固定したままはイヤか?」
お礼を言われると照れちゃうね。話題を変えるために、頭について…
うわ~あからさまにテンションが下がったよ。
「イヤですよ。せっかく自由な国にこれたんですよ?泣いても良いし、笑ってもいい、怒ったっていい…そんな国にせっかくきたんです。囚われの身でも、無理やりされるわけでもない、コレクション扱いもされない…見世物にもされない…。」
過去にどれほどの事があったというのか…
自由がなかった。それだけは伝わってくる…
俺は空いている手で涙を流すアコーの背を撫でた。
「あったかいなぁ…。やっぱり、仕えるならリーン様や陛下のような…そんなお方が…。」
仕える相手を選べぬような暮らしをしていたようだ…。
「はあ、ふう、はあ、ふう。落ち着きました。ありがとうございます。陛下。また、お世話になっちゃいましたね。私がお世話する側なのに…。甘えてしまいたくなる。ずるいお方だ…。」
何だよその言い方は。
「悪かったな。そういわれても、こんな感じなヤツが新しい魔王なのだと諦めてくれよ?」
「諦めるかどうかは…まだ、分かりませんよ?」
アコーは、いたずらっ子のような幼い笑みを浮かべた。
「なあ、ふと思ったんだが…。アコーは格闘とか強いわけだよな?仕える相手選べたんじゃ…」
俺の言葉に眉をはの字にする。
「あ~この国にきて、城でメイドとして仕え始めてからですよ。それまではそれこそ、ただの頭が取れるだけのメイドでしたから。」
いや、ただの頭が取れるって時点で普通じゃないよな?
「となると…モニカもこの国に来てから、あのような鬼化を取り入れた戦闘技術を?」
素人ではなかった。そう思える動きだったもんな。まあ、ナイフは折れちゃったけど…。
「鋭いですね。まだバス将軍しかご存知ではない陛下に言っておきますね。将軍は5人いたそうです。」
「いた?」
「…はい。お一方、私がこの国に来る前に旅に出られたそうで…」
「となると4人なわけだな…それで、なぜ急にその話を?」
「それは…」
それは…
「それはねぇ~アタシがメイドさんたちにスキルや魔法、戦闘技術をおしえてるからなの。エクササイズもエアロビも、ヨガもいけちゃいわよ~♪メイド道を極めれちゃうわよ~♪」
下は黒のピンヒールにぴちぴちな黒のレザーパンツ、上は白のタンクトップ。
短く切られた髪の色はプラチナブロンド。瞳はヴィオリーンと同じく赤。
少し、耳が尖っているのが人ではないのだと伝えてくる…。
ぱっと見はモデルさんかと思った。
ただ…
その股間のは…おしぼりですか?
性別が分からなくなるんだが?
胸はあるのにポールが付いているのかね?
「魔軍五将が一人、ツィンバロム様。」
俺から離れたアコーがそう呟く。
「はあ~い♪」
呼ばれたから返事をしたようだ…。
明るいかたですね…。
将軍のその笑顔はとても眩しかった。