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ヴィオリーンのココロ

『俺は、回復魔王トライオス!この国の新しい王だ!』


 城内に響き渡る。どうやら、伝石を誰かが使用したようだ。


 私の目に映るのは新しき魔王と宣言したトライオスの後姿。


 凛々しく、逞しい。彼の右手につけられた手袋を見て、胸が高鳴る。


 ああ、私たちの勇者様。


 彼が纏わしてくれたローブは御爺さまの匂いがすっかり無くなって、変わりにトライオスの匂いがする。


 ぽーっとしてしまう。顔が熱いのがわかる。


 無意識に自分の下腹部へと私の右手が伸びる。


 !?だめよっ、昨日の夜だって二回も…






≪陛下は、ヴィオリーン様をお姫様抱っこしながら自分に声をおかけになられました。何よりもヴィオリーン様のご容体を心配なされていました。リーナ様に対してもまずはご自身の事より…ヴィオリーン様を救ってくれと懇願なされていました。≫


 これは、昨晩、私が自分の部屋に戻る最中にレベックから聞いたトライオスとの出逢いである。


 そんなことも知らずに強く言ってしまった。糾弾した。


 しかたないわよ、あの時はほんとに苦しくて、苦しくて…うう…。


 それを救ってくれたのもトライオスだった。


 魔王の間で私にやさしく声をかけてくれたのもトライオスだった。


≪おい、お嬢さん。大丈夫か!?この煙たいやつの所為なのか?≫


 私が煙を吸い込み体勢を崩すと、風のように一瞬にして傍に現れ、包み込むように支えてくれた。


 顔が近く、その時は自分の頬が赤くなるのを感じた。


 このまま見ていたら、変な気持ちになりそうだったから顔を逸らした。


 その後、私の目の前でローブを纏って魅せた時には…もう私は彼の虜だったのかもしれない。


 次に気付けば見慣れたリーナの部屋だった。


 苦しく、意識が朦朧とした時、あったかい…お父様を思い出させてくれる。優しい手が、私の額におかれていた。


 私を苦しみから救った温かい光。それはその手が発していた。


 その手を離したくなくて、もっと触っていたくて…ううう、彼は困ってなかったかしら。


 まあ、リーナに離されちゃったのが残念だったわ。


 バグパスの研究により呼ばれた存在ではあるが、魔王の間で彼の背を見たとき、彼はまだ勇者として機能していなかった。


 私たちの国を滅ぼす可能性も皆無。


 だが、彼の背に描かれているものをレベックから聞いたときは歓喜してしまった。そう、本当の意味で私たち三人の勇者となったのだ。描かれていた内容は、墓場まで持って行くつもりでもある。


 恥ずかしくて言えないものね…。彼の背に口付けをしたなんて…


 それが、必要な契約だったとしても…






 はあ、はあ、だめね…おかしくなっちゃうわ。


「リーナ。私、調子が優れないわ…。」


 隣に控えるリーナに声をかけるが…聞こえてないのかしら?


「ふふっ…ラーベル、機会が訪れたじゃないか!バス将軍に気持ちが伝えれて良かったね…。流石タケル、やっぱり…ボクも、行動に出るよ。先生やモニカに先を超されちゃったら心が折れそうだからね…。うん。今夜だ…素材ならある。ラーベルも快く…ん?どうしたんだい?リーン。」


 真剣な顔だったわね。それに、まさか、ラーベルがあのバスを好いていたとは…意外よね。でも、リーナは知ってたのね…。


 リーナが先生と呼ぶのは屋上の塔に住まうヴァンピールのヴィオリラ様だ。はっきり言って苦手な方である。


 モニカは、村から追い出された先祖返りの少女である。


 人間は自分達と違うものを極端に嫌う。


 もちろん彼女が悪いわけではない。その親も知らなかったであろうことだが、ある出来事により額から角が生えることを知り、知られ…この地へとやって来た。


 憔悴し、やせ細っていたのを保護したのだ。その後は、アコーに頼み城のメイドとして雇う形となった。


 で、何でその二人の事が出てきたのかは気になる。


 だが…


「お~い!リーナ、杖をとりに行きたいのだが?」


 トライオスがレベックを助け起こした後、共にこちらに近づいてくる。


「ん?タケル、どうするんだい?」

「決まってるだろう?皆を救う!」


 へ?意味が分からないわ、ううう…ステキな胸板!はあはあ…じゅるり。


 だめよ!そんな眩しい腹筋!目が離せなくなっちゃう…


 そのまま彼の下腹部に視線が行きそうになるのを必死にこらえる。


 ああああっ!!!


 私は寝起きから盛るような変態じゃないわ!


「どうした?リーン。顔が真っ赤だぞ?」


 ああ!だめ、感じちゃう!その声が心地いい!!!


「あ~タケル。気にしないでくれ。何となく察しがつくからね。も~リーンったら、ボクみたいにしゃんとしてないと、タケルにいつも心配されちゃうよ?」


 はい!大歓迎です!ってちがうちがう…。


「そ、それで…トライオス。皆を救うって?それに杖がどうしたの?」


 そう言う私の目を見て…優しく微笑んだ。ああああん!だめよ!それ卑怯だわ!


「バス将軍から聞いたんだ。民について、医薬品も足りてないそうだからな…。杖を用いて、回復魔法の効果と範囲を広げるんだよ。もちろん、この手袋の力も使う。そうすれば、一人でも多くの民を一度に救える。さあ、グズグズしている暇は無い!いくぞ、まずは杖が置いてあるリーナの部屋からだ。その後は、バス将軍の案内に従って広間に向かおう。」

「流石タケル」

「私たちの魔王ね!」


 リーナがおなじみの台詞を言おうとしたので、先に言ってあげたわ!ふふっ!


「ぶー。まあいいや、それじゃあタケル、行こうか。」









 その後、杖を持ち、私からローブを受け取ったトライオスは、城内外の兵たちに自分の名が知られていることに驚いていた。


 まあ、伝石で伝わっていたなんて気付けないわよね…。


 その照れ笑いがカワイイ!うふふっ!いいわね…。堪らないわ!押し倒しちゃいそう!


 門から出れば先ほどまでトライオスを恐れていたはずの兵たちも整列し、敬礼していた。


「陛下。では、参りましょう。」


 そうバスが言い、先導する。


 そして、城下町の広場へと着く…


 トライオスは無言で頷くと、杖を掲げ、回復魔法を唱える!




 その日、広場を中心に奇跡が起きた。





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