己が身を盾に
「ごあぁあああぁ!!!「シールドバッシュ!」」
バス将軍のその言葉と共に大盾全体が赤く輝く!
なんだそれ!?
<スキルです。>
魔法じゃなくて?
<スキルです。>
スキルね。その違いは?
<MPではなくSPの消費です。無い場合は、自分のHPを消費します。>
へ~俺はそんなもの持ってないぞ?
<…。嘘つき。>
え、え~!!!知らないんだもん!知らなければ嘘をついたとはいえません!
<はあああぁ…。「シールドブレイク」って言ってみてください。そうすれば分かりますから。>
そんな残念そうにため息をつかないでください。ん?シールドブレイク?聞き覚えが…
「おおおおぉ!!!「シールドブレイク!」」
俺の左手首から先が赤く輝く!おお、スキルだスキル!使えたぞ~!!!
その勢いのまま左拳を握り、向かってきたバス将軍の構える輝く大盾を殴る。
ずううううん…
お互いにぶつかり合うと周囲に衝撃が!土煙が舞う。
ぐ、重いな…だが、左手だけであの巨体から繰り出された突進の威力を押さえ込んでる時点で凄いな。
それでも、俺の両足が地面にめり込む。
「流石勇者!!!だがっ!「シールドバッシュ・改!」」
俺を称えると共にスキル名を叫ぶと、先ほどよりも赤々しく輝く大盾。
ずずずと俺の身体が後退し始める。あれか?相撲で言う「電車道」ってやつだな…
俺は足元を見、そして後方を振り返る。
不味い、後ろにはレベックが…。
俺とバス将軍のぶつかり合いの衝撃で、しりもちをついたらしい。
M字に足を開いている。
…。だめだ、去れ!俺の煩悩よ!
男(?)に欲情してどうする!
このまま俺が押し負ければレベックはただじゃ済まないだろう。
大怪我、下手すれば…マズイな…
まてよ、俺にはまだ右手がある!バス将軍も続けてスキルを発動させたんだ、俺もできる!はず!
「俺は退くわけにはいかない!約束したんだ!この国を、民を導く魔王になることを!!!それを支えてくれると言ってくれた子たちのためにも倒れるわけにもいかない!よく知りもしない俺のためにその身を盾にしようとしたレベックのためにも…俺はあぁぁ負けないっ!「シールドブレイク!!!」」
右の拳も輝く、黒い手袋の白いライン部分が赤々しく。
まるで血管のようにさえ思える。
赤黒く輝く右の拳を大盾に振るう!
ゴシャリ!
大盾そのものがくの字に曲がる!そして…
「おおおおお!!!!」
「ごああああ!!!!」
俺は拳を振りぬく。
吼えるバス将軍の巨躯が浮かび…勢いを殺しきれずに吹き飛ばされる。
二転、三転と勢いよく転がり続け、ひしゃげた大盾も吹き飛ぶ。
城の壁にぶつかってやっとその勢いが止まる。
盾を持っていたバス将軍の腕もただでは済まなかったらしく、途中から変な方向に折れている。
<スキル・【シールドブレイク・改】を覚えた!>
「そんな!将軍!」「我々はお仕舞いだぁ!」「ふひ~!!!」「ひ、ひい~!」
などなど、騒がしいな。なんだ?叫ぶだけ叫んで、嘆くだけ嘆き、その場から何か行動する様子すらない。
おいおい、こんなやつらのためにわざと吹き飛ばされる方向を無理やり変えたのかよ?
そんなことしなければもう少し軽傷で済んだだろうに…
バス将軍が後ろの兵たちを巻き込まないために、その身を無理してずらしたというのに…
気付かず、ただ絶望するのか?
なあ、将軍さんよ…こんなやつらを守りたかったのか?
俺はそう思いながら、バス将軍のもとへと歩む。
「おおぃ~!将軍よ!このような者達がためにその身をかけるのか?それなのに、レベックを巻き込もうとするとは…矛盾しているな?」
俺が言葉を投げかけると反応し、肩を震わせる。
「ぐ、あ、はあ…はぁ。やつらとて、親家族、兄妹、恋人、大切な者達がいる。悲しむものたちがなっ!私が、私が潰してしまっては…ぐぅ…。独りな私が…ただ尽きれば誰も何も言うまい。」
「よく言う。将軍様の目と耳は節穴か?ちゃんと見ろよ、その子の背中。見えないとは、聞こえないとは言わせないぞ?」
「え…あ…ら…ラーベル?」
そう、俺がバス将軍に近づこうとしたら駆け出し、まるで先ほどのレベックのようにだが、彼女はバス将軍のすぐ傍に立った。
ああ、想い人なんだな…彼が…。
そうでもなきゃ、兵すら近づかないこの場に庭師が来るわけが無い。
「トライ陛下、彼の命だけは…どうか、どうかお願いします!陛下っ!」
その華奢な身体をバス将軍を守る盾のようにし…
大粒の涙を流しながら叫ぶ。
「どうやら独りじゃないようだぞ?悲しませるのか?将軍を好いてる彼女を。」
「ぐ…う…私のような戦人を好いてくれるだと…。戦うだけしか能が無いこの私をっ!彼女のような美しい、高みの花が!」
あ、今までとは違う意味で顔を赤くし、涙を流すラーベル。
「ええ、私は…バスさん。あなたのことが好きです。今まででも、これからも…。」
おおう!恥ずかしい!聞いてる側が恥ずかしい!
「か…は…はは、そうか…両想いか…はは…そうか、なら、幸せな気持ちのまま…逝ける。さあ、勇者よ…とどめを刺せ!私とて、君を慕うレベックを巻き込もうとした身だ、何も言えまい。」
「バスさんっ!陛下っ!」
唖然として、俺とバス将軍を交互に見るラーベル。
かたっ苦しいな…別に俺らは無事だからな、べつにどうこうしようとは思わんがな。
<やっぱり、ずれてますよね。勇者様の感性。>
いいじゃないか、悲しまなくて済むんだからさ。
俺は無言でラーベルに近づき…
「少し退いといてくれ…」
とだけ告げる。不安に揺れるエメラルドの瞳を真っ直ぐ見据え、無言で頷く。
すると、心配そうにしながらも横にずれる。
「っとまあ、俺やレベックは無事なんだよな。ラーベルさんに頼まれなくても、バス将軍をどうこうするつもりは無いんだよな。」
「ぐ、勇者よ…なにを!?」
「あ~はいはい。俺はただの勇者じゃないんだよ。魔王でもあるんだ。詳しい話は後で、リーナとヴィオリーン姫を交えて行おう。」
俺は、折れたバス将軍の腕に触れながら今後について話し合いをしないとなと考えながら…
「「ヒール!」「ヒール!」念のため「レジスト!」」
俺の魔法により輝く!
<回復魔法の熟練度が上がった!>
<ヒールが LV3 に上がった!>
<メガヒール LV1 を覚えた!>
<メンタルヒール LV1 を覚えた!>
<ん~でも、メンタルヒール意味ありますかね?>
<だって、勇者様の回復魔法は心にも作用するのですから…。>
そう言われましても覚えちゃったんだが…。
「な、あ?腕が!私の腕が!本当にただのヒールなのか!?何者なんだ君はっ!」
ん?俺か?俺は…
「俺は、回復魔王トライオス!この国の新しい王だ!」
言ってしまった。うん。
回復魔王と…