魔軍将・バス
ミシミシと聞こえるが…無事だろうか?
「心配なされるなら、私にも寵愛を!プリーズ!陛下!」
うん。問題なさそうだ。
「アコー。それに、モニカ。そう簡単に寵愛とか言うなよな…。もっと自分の事は大事にしなきゃ、俺なんかに期待したってしょうがないだろう?よそ者だぜ?不安の種だぜ?」
「なんだいタケル?気にしてるのかい?ボクは気にならないよ、むしろタケルのおかげで今までよりも見える景色に色がある。ふふっ、こんな気持ちになれたのは生まれてはじめてさ!」
嬉しいことを言ってくれるねえリーナは。
「…。そのことですが、ワタシのようにタケル様を見ずに聞いただけで誤解や、不安をもたれる方がおいでだと思うのです。それにつきましては、いかがなさいましょう?」
アコーを開放し、俺を見ながら不安を口にするモニカ。
確かに、知らないヤツからすればひと月でまた別な魔王になったわけだもんな。
それも、知っていた者ではなく、今度は得体の知れない片角の魔王。
「側近がおられるわけでもなく、急に現れたとなりますと…将軍方や兵、城の者達には最低限把握していただかないと。その後は、城下町の広場で民に知ってもらう方向ですね。」
顎に手を添えながらラーベルが話す。
将軍は複数人いるのか!?こじれそうな気がしてきたぞ。
すると、城内に放送?がながれる。
『魔王バグパスよ!民の代わりに我らが討ち取ろうぞ!覚悟せよ!』
へ?バグパスだと!?
「いや、まさかっ!彼が行動に出たのか!もっとタイミングを見計らってからだとボクたちは考えていたのに!よりにもよってタケルが魔王になったことを知らない兵たちが…不味い、不味いよ。」
そうか、こういう可能性もあったわけだな。ヴィオリーンが言っていたな、痺れを切らしたと。なら、兵が行動を起こしてもなんらおかしくはない。だが、タイミングが重なった。
いや、タイミングのずれが問題となったのが今の放送だろう。
兵の元に向かうため席を立つ。
「陛下。向かわれるのですね…こちらにございます。多分、城門前でしょうから…。」
姿勢を正し、言い放つアコー。まるで別人だ!
「タケル!ボクもついていくよ。兵たちに説明する必要がある。」
俺はリーナの言葉に無言で頷き、アコーに催促する。
ここが出入り口か…。
大きめの扉を開き、俺とリーナは踏み出す。
「貴様は何者だ?なぜ城から出てきた!魔王バグパスはどこにいる?リーナどういうことだ!」
急に質問攻めをしてくる…牛?いや、バッファローのような獣人?
その後ろには数十人の兵たちの姿。
「彼は獣人ではなく魔族だよ。確かに獣人の血は流れているけど…。彼は、魔軍将の一人、バス将軍だ。まさか彼が行動に出るとは…。」
背に大盾を背負っており、立ち姿は俺の背丈を有に超え、アコーの倍くらいはあるだろうか?
声は低くズシリと響く。
「なぜ私の質問に答えない、リーナよ。」
「!?彼は、新しい魔王だよ。詳しい話をしたい、だから、兵を下げてはくれないか?」
慌てて答えるリーナ、だが、不十分らしい。
「何を言い出す。ソイツが魔王だと?ふざけるのもたいがいにしろ!」
「リーナ様の話は本当です!バス将軍。あのお方はトライオス陛下、バグパス様を倒し、新しく魔王となったのです!」
俺・リーナとバス将軍の中間地点に移動し声を上げる…レベック。
「レベック!何を言い出す!馬鹿にするんじゃない!まず、そのトライオスとは何者だ!!!魔王を倒せるほどの存在だと!まさかな…。」
「そのまさかだよ。バグパスは召喚に成功した。でも、召喚されたトライオス陛下によって討たれた。ボクは実際に見たわけではないけど、ヴィオリーン姫が目撃なされた。」
リーナが説明するが…あれ?…雲行きが怪しい。
彼の後ろの兵たちも慌しそうにしだす。
「ぐ…ぐがあああぁ!!!勇者だな!貴様!勇者なのだな!この国を脅かす勇者なのだなぁああああぁ!!!」
そう吼えながら大盾を構える。
「バス将軍!トライオス陛下はこのお国のために魔王になると言ってくださいました!決して、脅かす存在などでは!」
「だまれ!おまえの言い分だけではどうにもならん!どれほど危険な存在なのか分からんのか!」
聞く耳持たずか。嫌な予感がする…。
「どけぇ!レベック!今この場で、勇者を始末する!退かぬなら…」
「自分は退きません!この身、陛下のお志に捧げる所存にございます。」
レベックは大きく両腕を広げ、俺を庇うように立ち続ける。
その後姿はとても小さく、触れれば簡単に折れてしまいそうなほどに…
言葉ではなく行動で意志を見せる。
レベックの小さい背中は、とても誇らしかった。
「ならば、レベック。お前ごと私の攻撃で屠るまでだあぁ!!!」
そうくるか…
同じ国の兵の血を流すことを選ぶのか将軍よ。
強い意志を持つ兵の命を巻き込むのか?
レベックの行動がどれほど凄いのか、バス将軍の後ろに控える兵には分かるまい。
尊い犠牲で終わるには惜しい。
退いてくれ、レベック。お前は、俺にとって大切な存在だ。
その命、失わせるつもりはない。
そのタイミングで…
「なにこの状況?私、寝起きなんだけど…」
寝惚け眼のヴィオリーンが現れる。
「すまん。リーン。このローブ預かっといてくれ!」
俺は、ローブを剥ぐとヴィオリーンに被せる。
「ああ、お似合いだよ。ヴィオリーン姫。俺に何かあったら魔王として尽力してくれよな?こうしてローブが纏えるんだ、資格はあるさ…。」
そうヴィオリーンに囁くと駆け出した。
…バス将軍のもとへと。
「そんな!トライオスっ!アナタ死ぬ気!?」
「タケル!そんな!まってよ!タケルぅ~~~~!!!」
悲そうの叫びをあげるヴィオリーン、リーナ。
だが、魔王トライオスは止まらなかった。
「おおおおっ!!!レベッ~ク!」
「ごおおおおぁ!!!勇者ぁ~!」
二人の声が響き渡り
ずううううん…
ぶつかる音が響き、衝撃波と共に城門前は土煙により視界が蔽われた。