麻痺と毒牙と口付け
おや?スープを飲んだリーナが無言でうつむく…
カランッ!
スプーンを机に落としてしまったぞ!それに、少し顔色が悪い!?
「…覚悟!!!」
パキーン! カラン、カラン…
「は!?」
変な声を上げるメイドさん。
食事を用意してくれたメイドさんが攻撃してきた。それも、毒々しいナイフで…
だが、俺の首に当たると刺さることなく、傷つけることなく折れてしまった。
メイドさん ポカーン。
「うっふふっ…優しい味は麻痺毒の類のようでしたね…。現にリーナさんが調子を崩されております。でも、私にはまず植物から生成された毒等は効きませんからね~♪でも、トライ陛下は規格外としか言いようがありませんね?」
リーナが苦しそうにしているが、マイペースなラーベル。ただの麻痺だからか?それでも、どうかと思うがね。いや、俺も冷静すぎるか?にしても、ナイフの方が折れるとはな…
「俺に言わんでくれ。は~俺人間やめてんだな…。ナイフが刺さらないとかどんだけだよ。仕方ないな、リーナが恨めしそうに見てるし。「レジスト!」」
リーナの身体が淡く輝く。
<レジストが LV3 に上がった!>
レベルが上がったぞ!って、レベルってどこまで上がるんだ?
<まあ、ほとんどの魔法は最大でLV10でしょうかね。>
へ~じゃあ、まだまだ上がるわけだな。
<普通の方は1から上がらず仕舞いでその生涯を終える方がほとんどですがね…。規格外様。>
タケルは、勇者様から規格外様になったようだ!…俺に言われてもな。
「ありがとうタケル。やっぱり驚かないよね…。毒殺しようとしてきたメイドに反撃すらしないなんて…女性に優しいからかい?」
「いや、俺には一切問題がなかったからな…。リーナが望むならまあ、考えとくよ。」
「…トライ陛下。自分に被害がないからって…そんな感性、ある意味怖い。」
ラーベルさんから怖がられてしまった。仕方ないじゃないか、リーナが麻痺した以外被害がないんだから。
<平和ボケとかのレベルじゃない考えですね。>
俺らの会話に呆然とするメイドさん。
「そ…んな…アコーから状態異常系の魔法が効かないと聞いて麻痺毒を用意して、そして、このため用に毒牙のナイフさえ準備したというのに…な…んで。」
どさり。
あら~倒れちゃったよ?
「服毒かい?それとも、ナイフの効果かな?ボクが思うに、この場合は自業自得としか言いようがないけど…。」
玉のような汗を掻くメイドさん。顔色悪いな~
「レジストフィールド!」
辺りを優しいオーラが包む。光らないと勝手がいいな。うん。ありがとう右手袋、リーナ、ヴィオリーン。
「…あ、あったかい。…あったかいなあ…。うう…うううっ!!!」
石畳の床に頬を押し付けながら涙を流すメイドさん。
「ワタシ…なんてことを…こんなにあったかい方なのに…なのに…。」
あ~悔いているのか?
「あ~泣くな泣くな。俺は別に問題ない。それに、俺は急に現れたよそ者だ。排除しようとしたのは大目に見るよ。だから泣くな。泣き止まないなら、泣き止むまでナデナデしてやろうか?」
床に這いつくばっていたメイドを起こしながら、頭ナデナデ。背中もさすってあげる。
「ごべんなざ~い!ううう…ワタシ悪い子です~!」
悪い子なのか?それに、急に幼くなってない?
「も~タケル。皆にやさしくしてたらキリがないよ?ささ、自分で起きたまえ!陛下にこれ以上ご迷惑をかけるんじゃない!」
「…はい。申しわけありません、リーナ様。」
しょぼんとするメイドさん。はらりとたれる前髪を退かすと…OH!額に角が…
いや、驚くほどでもないな…俺もヴィオリーンも角あるじゃねーか。忘れちゃいけねーが魔族だぜ魔族。そしてここはその魔族の国なんだからな。
「ボクたちに麻痺毒を使った件は、誰の差し金だい?」
ん~離れてみても先ほどより小さく見える。おかしいね?
「ワタシの独断にございます。ヴィオリーン様を王とするアコーの考えに同調したワタシの…」
「で、ボクやラーベルにも毒を盛ったのは?」
「仲がよろしいご様子だったので…もし、ワタシが陛下になにかしようとした場合行動を起こされることを心配してのことです。ですが、当の本人それにラーベル様にも効果がなかったとは…」
ね~ね~、しょんぼりしてるからってだけじゃない気がするんだよ、やっぱ縮んでない?
「はあ~。当の被害者がこんなのはちょっと同情するかな。で、タケル…。この子が縮んだことが気になるんだろう?」
良く分かったな!それに、同情するってなにさ?
「トライ陛下はマイペースで面白い方だということですよ。まあ、私に毒物が効かないことを知っている方は僅かですからね。うっふふっ…今日からアナタもその一人ですよ~♪」
ラーベルさんにマイペースといわれるとは…
「話が脱線してるよ。ある意味被害者なのはボクとメイドのほうじゃないか…。」
「それで、なぜ縮んだの?ご教授願おうか?俺はちゃんと被害者だぜ?ただ、気にしてないだけだ。」
俺がそう言うと、メイドさんは申し訳なさそうな表情をした。
「申し訳ありませんでした。新しい魔王様が、急に顕れた存在と聞き…怖くなってしまったのです。アコーからそれとなく聞きましたが…聞いている分では不安が募るだけでした。ヴィオリーン様を崇拝していたあのアコーですら諦めた表情でいたので、ワタシ…行動を起こそうと思ったのです。」
は~崇拝とか…怖いね~
「だそうだよ…でも、渾身の一撃で振るったナイフが折られるとはね…レジストフィールドをうけて今では普通のナイフに戻ってるし。タケルなら何でもありな気さえし始めたよ。さすが、ゆ…っと、魔王様。」
勇者と言おうとしてやめたな。周りにはあまり話すべきではないと判断したのか。
「はい。鬼化して振るった渾身の毒牙、首が落とせればよし、落とせなくても傷口から毒による攻撃…だったんですがね…。」
鬼化か…
「で、メイドさん。まだ、俺をどうこうしようと思う?」
俺は、椅子に座りながらそう質問する。
「メイドさんといわれるのはイヤです。どんな考えよりも、今は名前で呼んでもらいたいと思う気持ちが強いです。タケル様。」
名前知らんがな。頬を朱に染めながら俺に近づくメイドさん。
近くね?ちょ…
「んっ。」
へ?なんですと!唇を重ねられた…
そして、重なった唇を離すと今度は俺の耳元で囁いた…
「モニカにございます。タケル様。ワタシの身体は角の先から爪先まで全て、アナタ様のモノです。どうか、ご自由にお使いくださいませ。」
凄い爆弾発言だな…