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優しい朝食を

 仲がよろしいようで何よりだな。うん。美しい花が二輪も咲き誇っているなんて…目の保養にいい。


「なんだい?タケル。嬉しそうだね?ボクたちの事で何か?」


 俺の微笑みに気付き、微笑み返すリーナ。


 こちらに向けられた赤紫色の瞳がまるで宝石のルベライトトルマリンようだ。夜中の妖しさと違ってまた一段と美しく思える。


 その隣りにはエメラルドのような瞳をもつラーベル。


 ここが別世界なのではと思ってしまう。まあ、異世界だけど…


「トライ陛下は私達の仲むつまじさに微笑んでいられるようですね。うっふふっ、さあ、どこからでも御覧になってくださいな?」


 そう言いながらその場で一回転。ふわりと広がるスカート部分がまた純白の花のように思える。幻想的だな~



 ク~



 …。なんだい?この無粋な音は!…ちょっとカワイイじゃないか?


「は、ははは…この場所はいい匂いがするからね。ごめんよ~タケル、そんな顔しないでくれ。」


 俺が音のほうにジトッとした眼差しを送ると、リーナがおなかを押さえながら苦笑い。


「いや、いいんだ。そういえば…食事とかはどうしてるんだ?この世界、しいてはこの国の食事事情を知らないんだよ。ご教授願おう。ついでに、朝食にしようかね?腹ペコ姫様?」


 腹ペコ姫様は顔をリンゴのように赤く…リンゴ?あ、そういえば…


「なあ、ラーベルさん。ハーブティーのための葉っぱとかも調達してくれるのか?まあ、その時は種でも苗でもいいんだが、菜園の一画に植えようかと思ってな、用意とかは可能かね?」


 俺が急にラーベルにハーブの話をしだすと、キョトンとしてしまった。いや、その顔も大人びた雰囲気から離れていて、愛らしさがあるんだがね。


「え、あ、はい。大丈夫ですよ?その時はお好みのハーブをご用意いたします。本当に畑をご自身で、菜園もなされると?」


 さっきのは冗談で言ってきていたのか?


 からかうのがすきそうな感じは確かにするが、俺の返事を冗談だとでも捉えていたのかね?だが、俺の気持ちは本物だ。


「当たり前じゃないか!野菜は~うまいだろう?」


 その発言に今度は顔を赤くしていたリーナがキョトンとした。なんだ?俺は今、ヘンなこと言ったか?


 野菜はうまいって話なだけだろう。


「タケルのイメージは、お肉、お肉、お肉、がつがつ~ははは~!肉汁たっぷりなスープだぜ!野菜はつけあわせで十分だぜ~。って思っていたよ。その逞しいカラダを支えているのは圧倒的な肉食からだとばかり…。」


 なんだいその偏見!二十歳過ぎたらな、脂っこいのがきつくなったの!それに、肉って言っても魚だってあるしな、畑のお肉とまで言われているダイズも心強いし…。


「ふっふふふっ…だめですよ?お野菜をちゃんととったほうが筋肉はつくんですからね、リーナさん。それに、偏りすぎたらぷよんぷよんになっちゃいますよ。程よくが一番です。」

「そうだぞ、ラーベルさんの言う通りだ。俺はそこまで肉は食べない。野菜のうまさを知っているからな。」



 クゥ~



 …。おいおい、お嬢さん貴女もか!


「ふっ、ふふっごめんなさいね。野菜のうまさなんか今の状況で説かれたらお腹が空くのは道理だわ。陛下もそこは気付かないふりでも良くってよ?あら、リーナさん。そんな顔しちゃって、アナタだって先ほど腹ペコ姫なアピールをなされていたじゃありませんか?ふふっ。」


 腹ペコ姫様が二人もいらっしゃる。ははっ、まいったね。後からハーブの話すればよかったけね。


「俺が話し出さなければすぐにでも食事にいけたんだがね、だから申し訳ない。今のは聞こえなかったという方向で…」

「なら、ボクの方も聞こえなかったということでお願いするよ!」

「それなら朝食はまだまだ後ね、リーナさん?お腹が鳴るほどは空いてないという事でしょう。」

「ぶー。なら、ラーベルもお腹は空いてないんだね?ボクは空いてるからタケルと食堂に向かうよ?」

「ふふっ、冗談です。ささ、陛下はその様子だと食堂の位置もご存知でないでしょう?参りましょう。」


 庭師の仕事をしていても、全く汚れない白い手袋には驚きだ!あれかね、エンチャント?


「この手袋が気になるのですか?これは私の一部ですからね。陛下の仮面みたいなものだとお考えください。ちなみに、この帽子もサンダルも同じく、そして、このドレスも私の一部なのです。…うっふふっ、だからと言って裸ということではありませんからね?そこはお間違えないように。」


 全身、俺の仮面みたいにアーティファクトということなのか?


「ん~タケルの考えは少し違うかな。彼女の服はアーティファクトではなく固有のアイテムといったところかな。ちなみに、帽子はボクが手を加えたんだ。だから、帽子だけはアーティファクトで問題ないかな。」


 そういわれてもサッパリだがね。ご教授願おうか?


「詳しい勉強は次ぎの機会といたしましょう?リーナ先生。私はお腹が空きました。ささ、トライ陛下と共に参りましょう?」

「そうだね、タケルが質問したり疑問を口にしたら説明したくなるようだ。これはいけないね、あ、ラーベル。例の品は後からお願いね?それじゃ、行こうか。」








 食堂も一階と、専用部屋とかではなく、食堂そのままといったところだね。セルフというわけではなさそうだが…まあ、大勢で一緒に食事ができるようにと言うことかね。


「なあ、リーンは起きてないのかね?」


 お盆を持ちながらふと思う。


「え?リーンは部屋にもってこさせるんだよ。だから、食堂まで出てくることはあまりないかな。」

「そうですね、ヴィオリーン様はご自分のお部屋で食事をなさいますね。」


 なんだと?独りにしないでと言っておきながら食事は一人でかよ!


 そう思いながら空いてる席に腰を下ろす。


「そんな不機嫌な顔しないでくれ、なら、タケルが説得してみたら?流石のリーンもタケルの言うことなら聞いてくれるかもね。」

「そうかね?まあ、聞いてみるだけ聞いてみよう。無理に誘うのは無しだ。静かに食事したいだけかもしれないしな。」


 今朝の朝食は少し硬めなパンと、きざんだ野菜と塩を入れて煮ただけの簡単なスープ。質素といえばそうなのかもしれないが…俺にはこれで十分かな。


 日によってはパンだけの日だってあったからな…


 残りの二人も同じようだ。俺が見ていることに気がついたリーナが…


「ん?タケルには物足りないかい?」

「いや、王城といえども贅沢な暮らしではないのだなと思ってな。だが、俺も一般人だからな…パンだけでなくあたたかい野菜のスープがついてくるだけでも十分さ。」

「あらあら、陛下は意外と…ふふっ、今朝の食事は優しい味がします。なぜでしょうかね?」


 なぜだろうな、だが俺もスープを一口ふくむと優しい気持ちになれた…


 薄味だが、うまい。



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