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一人じゃないさ。

 なんだかなあ、異世界に来て泣かれてばっかりだ。胸元が温かい。


 しがみ付いて顔を上げようとしないリーナの髪を、その背をゆっくりと撫でる。


「リーナだって言ってくれただろう?俺はリーナの勇者様で、魔王様。この勇魔族という種族からして、俺に平凡なのは無縁だろう。なら、やれるだけやってみるさ。国を失うような、住まう場所を失うようなことは決して起こさせやしない。もしも、未然に防げなかったとしてもだな、最小限に済ましてみせる。怪我人が出ればすぐに飛んでいって傷や痛みを消してみせるよ。」

「…。タケルならできちゃうんだろうね。そう思ってしまう、感じてしまうボクがいるのは確かだ。でも、タケルは一人だ。」


 呟くリーナに俺は…


「いいや、一人じゃないさ。そして、独りじゃない。傍に居てくれるんだろう?そう言ってくれたのはどこの誰だったかな?」

「なんだい?ボクを口説くつもりかい?」

「なんだよそりゃ、先にその気にさせたのはリーナだろう?俺だって、あの時ヴィオリーンを抱えてこの部屋に入ってきて、リーナが顔を上げた時からな…魅力を感じていたんだぞ?俺の世界じゃそうそういないような美人さんだからな。」

「っ…へへっ、まさか同じタイミングとはね。ボクも流石にあの時は息が止まったよ。ボクに色恋は無縁だと、訪れないのだと、この歳になって思うことがあったからね。」


 いや、まだリーナ20代半ばじゃないか。俺がそう思っていると、顔を上げ至近距離で俺の表情をのぞくリーナ。


「?この世界じゃ特に決まりがあるわけじゃないけど、種族や部族によっては10を越えたあたりで、とか…早い所や、寿命が短いからとか、成長が早いからとか色々な理由で若年結婚は珍しくないんだよ。」


 異世界だからとは限らんがな。元いた世界でも早い所は早いし、事実日本も結婚の許される年齢はそれなりに早かったりする。


「ボクの居た部族も15からオッケーみたいな感じでさ、でも男共はプライドばかり高いヤツばかりだったから嫌気がさしてね、15を迎える前には出て行ったのさ。ボクよりも狩の成果が低いのに、女は男が狩ってきた獲物を捌いて調理しとけばいいんだとか、まぐれだとか、調子に乗るなと釘を刺しにきたり酷い有り様だったよ。一人ならまだしも、何人も居たね。」


 うわ~なにそのダメ男共。流石にイヤになるよな…そんなやつらばかりの集落なんて、居たくないよそりゃ。


「多くの獲物を獲った時はね皮や羽を加工したりして、旅の行商人に売ったりして路銀を貯めていたんだ。絵本はそんな時に物々交換だったけど手に入れてね。ボクは狭い世界から出る準備をし始めていた。だからね、子供っぽい生活も無ければ、殺伐としていたんだ。」


 凄いな、中学生くらいの子供が旅をするために狩して加工して、それを売ってお金貯めてただなんて。


 俺なにしてたかなその頃…うん。バカだったな。その頃は両親も居たし、ただ変わり栄えのしない毎日を送っていた気がする。


「この国に来てからは、ダークエルフということもあってね、まずはこの王城に呼ばれたんだよ。ただ安宿探してうろついてただけなのにね。大げさだったよ。ふふっ…」


 当時の出来事を思い出したらしく可笑しそうに笑う。


「ヴィオロン陛下と王宮魔法使いバグパス、後は将軍達が集まってる所は流石に居辛かったね。息が詰まりそうだったよ。でも、ボクが部族からのはぐれ者だと知ってもらったらね、今度は陛下が直々にボクの前で頭を下げてきたんだよ。孫娘のことをお願いしたいって。」


 そりゃ何でだ?それに、ダークエルフは扱いが違うのかね?


「タケルの疑問は何となくわかるよ。エルフは普通、集落や部族からは離れないんだ、よっぽどな事が無い限り、ね。だから、何かあったのかと慌てられたんだよ。ローブとかで耳や顔隠しておけばよかったかな…。陛下がわざわざ頼んだのはね、その頃のヴィオリーン姫は自室に引き篭もることが多かったし、同年代の友人なんて呼べる子も居なかったんだ。魔王の孫娘という肩書きが常に付きまとっていたからってのもあるけど、無口で会話もあまりしたがらない子だったのも原因かな。」


 今ではツンツンしてるが、昔は気難しい子だったんだな。無口って、想像しにくいな…。


「表向きは外部からの家庭教師、中身は一緒に勉強をする姉妹みたいな関係だった。時が経てば、いつの間にやらボクは研究部屋持ちの研究者だよ。いや~この国でのボクの10年、長いようで短かった。石ころと一日中にらめっこするような日もざらにあったからね。」

「ん?なあ、その先生とやらはいつ知り合ったんだい?」


 ふと疑問に思った。歴史の先生が出てこないぞ?


「ん?先生はね、満月の夜にしか現れないんだ。だから、今日みたいに月が出てないときはまず会えない。気難しいおかただよ。すぐに拗ねちゃうから…。それでも、綺麗な満月の日の夜に屋上の塔の側で何度か話をしているうちに歴史を教えてくれたんだ。ボクが絵本の話をしたときはすごい形相をされたけど、結局それがあったから勇者の話を聞けてね…。」


 寂しい表情をする。部族を飛び出すきっかけにもなった勇者の物語は、人間国に都合のいい様に作り変えられた、本来は悲しい出来事だったと。


「そう、か。この世界にも月は出るんだな。なら、太陽も普通に昇るのか?」

「当たり前じゃないか。ふふっ、面白いこと言うね。なんなら、異世界での初めての朝日、ボクと一緒に屋上で見よっか?」

「ほら、俺は一人じゃねーよな。傍に居てくれるじゃねーか。よくも一人と言ってくれたな?」


 何となくくすぐりたくなった。他意はない。湿っぽい感じを吹き飛ばしたいと思いはしたが…。


「ぷ…ふふっ!よ、よしてくれ!ふふっ、に、苦手なんだっ!あ、あははは…」




 少しして笑い疲れたのか静かになった。


「ヒドイじゃないかタケル。罰として添い寝してくれよ?」


 罰でいいのでしょうか?


「どの道、タケルの部屋はまだ無いんだ。このソファーで我慢してくれ。」


 ソファーの側面をリーナがカチャカチャといわせると、背もたれが倒れた。おお~ハイテク!ソファー・ベッドってやつか。


「どうだい?お手製なんだ。中に稼動するように色々細工が詰まってるのさ!」

「ん?すごいな。」

「あまり驚かないんだね?」

「まあ、普通に売ってあるからね。」

「な、なんだって…。そんなぁ、…この異世界人めっ!」


 異世界人でごめんなさい。でも、魔法があるからこっちの世界の方が凄いのか?


 でも、科学技術のほうが凄いのかね?


 どっちがいいだろうか…。





















アコー「おや?おやおや?細工してまで盗聴していたというのに…リーナちゃんの笑い声だけでしたね~。わくわくして損しちゃいましたかね?…別な日を期待しますかねっ♪」




ディオン「…姉さん。」

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