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仮面と右手袋

「早く早く!かっこよくてお似合いですから~陛下。」

「ふふ~、くろくておそろいだね?へいか?」


 キラキラしているレベックが催促してくる。バルちゃんも嬉しそうだ。


 あの後は急かすレベックの後を追い、早歩きなリーナとヴィオリーンの後ろをついて俺もバルちゃんをおんぶしながら歩いた。まあ、歩幅の関係だよな。早歩きな彼女達とまったく距離が開かないのは。でも、都会な人たちは歩くペースが早いんだっけ?


 部屋に入ると、リーナの机の上に顔の上半分を隠すくらいの仮面とレザーグローブ?まあ、右手袋が置いてあった。これらが完成品らしい。


「なあ、黒すぎやしないか?黒ずくめの男だよ、これじゃ…不審者だ!」


 黒い仮面に黒い右だけの手袋を指差す黒髪に黒い角を生やした男。手に持つ杖も白と黒の意匠。身に纏うローブも黒っぽい。わぁ、通報されちゃう!


 そんな俺の態度にリーナは口を尖らせながら…


「しょうがないじゃないか。素材も黒だし、タケルの角も黒なんだ。でも、兜被って徘徊しているメイドな不審者に比べれば雲泥の差だよ!せっかく喜んでもらえると思ったのに…」


 やめてくれ!そんな顔をしないでくれ。エルフ耳も力なく垂れる。その悲しむ姿に心が痛む…。俺は何てヤツなんだ、頼んでおいてこんな仕打ちを彼女に…



 ゴスッ!



「っ!?タケル、どうしたんだいっ!自分の頬を自分で殴るなんてっ!」

「ごめん。リーナに頼んだのは俺なのにさ…。不快な思いをさせてしまったクソ野郎のことを殴りたくなったんだ。驚かせてしまったことも謝るよ。」


 謝罪のために頭を下げた俺にリーナは近づき…


「ボクは…ボクは大丈夫。だから、顔を上げてくれよ?あ~あ、カッコイイ顔が赤く腫れて台無しじゃないか。ふふ、丁度いいところに仮面があるや♪これで気にならないね?痛みは消えないかもしれないけど…。」


 優しい声色で語りかける。殴ったせいで赤くなっている頬を優しくなでると、その手をそのまま頭のほうに持って行き、さらさらと俺の髪に触れる。そして、もう片方の手で俺の顔に「カチャリ」と仮面を取り付けた。


 俺がゆっくり顔を上げると…


「…っ!!!似合ってるじゃないか!えへへ…予想以上だ。」

「ちょっと、ちょっとリーナ退いて、見えないわ。…っ、い、いいんじゃないかしら。魔王様?ふふっ。」

「陛下、お似合いですよ。」

「ん。にあう♪くろだからだね。」


 ご好評のようだ。ならいいか…。それで、手袋の方はどうしたんだろうか?


「おや?手袋のことが気になるのかい。それはね、レベックやリーンがボクに言ってきたんだ。タケルの全体にかける魔法は眩しすぎる。ボクとタケルが眩しくなくても他の人は困るだろうってさ…。タケルは魔法を使うとき右手が手首から先にかけて白く輝くだろう?だから、そこまでの範囲を覆う物があったほうがいいと指摘されてね。できた品がこれだよ?最初は白い手袋だったんだけど…タケルの角を組み込んだら最終的にこんな感じに…」


 そう言って手袋を持ち上げながら見せてくれる。軽く伸ばすと白い溝?ラインが入っている。


 あ~眩しいって言われたもんな。俺自身眩しかったんだし、そこの所を考えてくれたのか。


「まあ、とにかくはめてみてくれよ。サイズはエンチャントがかけてあるから問題ないし。魔法を使ってみたらどうなるのか確認しておきたいからさ。」


 受け取ると右手にはめる。ブーツの時のようにフィット感がはんぱない。指の開閉を繰り返す。


「実にいい。ありがとう、リーナ。それに、レベックにリーン。眩しい思いをさせてごめんな。」

「ぐ、その微笑が眩しい…。」

「陛下。回復魔法を使う機会が増える可能性がありますからね、周りの意見は大事です。はい。…うう、直視し辛い…。」


 顔を真っ赤にしながらそっぽを向かれてしまった。やっぱ、仮面が変なのか?小声だったから余りよく聞こえなかったし…。


「さてさて、魔法の方はどうかな?個人にかける魔法は淡く光るだけだからさ…エリアヒールを試してみてくれないか?」

「了解した。では、いくぞ…「エリアヒール!」」


 手袋の白い溝が輝く。抑えられているようだな…これは勝手がいい、だが、威力が上がっているような気もする。熟練度が上がったからか?杖のおかげもあるのか。


「おや?気付いたのかな?その手袋自体にも回復魔法の範囲が広がるように細工が施してあるんだ。一回の魔法で多くの民を救えるようにとのリーンからのプレゼントさ♪元は…お父さんの物らしい…」

「…。大丈夫、大丈夫よ私…。トライオスのためになら、いいのよ…。」


 ヴィオリーンはすこし無理をしながら微笑んだ…。


「…ありがとう。ありがとう、リーン。大事にするよ。キミ達に失望されるような魔王には決してならない。多くの民を守るよ、救うよ、導いてみせるよ。」

「…っ。」


 俺の言葉にヴィオリーンは涙を流し始める…。


「ホントよ?約束だからね?…居なくならないでね?お願いよ?独りにしないでよ…。」


 俺のローブにしがみつきながら喋りかける…。独りか…俺もあの時は、叔母が家に来るまでは…独りだったな。


 恐る恐るだが、俺はヴィオリーンの背に左手を添え、手袋をはめた右手で頭を包み込むように…優しく、優しく撫でた。




 しばらくして…


「もういいわ、大丈夫よ、トライオス。それに、お父様は左利きだったから余り右手袋は使わなかったのよ。左手袋のほうは大事に保管してるし…。魔王になることさえ叶わなかったお父様の持ち物が、魔王のために使われるのよ?光栄だと思ってくれるわ…きっと。」


 追究はしないほうがいいかな…。お祖父さんが長い間魔王をやっていたのにも何かしらあったのだろうし、ヴィオリーンのほうから話したくなったら話してくれればいいだろう。


「流石に眠くなっちゃったわ。自分の部屋じゃないと熟睡できないの。じゃ、おやすみなさい。朝から忙しくなるわよ?トライオスも休めるうちに休んでおきなさいな。レベック…バルちゃんの付き添いをお願い。バルちゃんもそろそろ部屋に戻んなさい。困らせちゃダメよ?」

「えー、へいかといっしょはダメ~?」

「はい。バルちゃん、陛下もお休みになられるんですから、ささ、行きますよ。」


 行ってしまわれた。なあ、ヴィオリーンよ。さっきこの部屋でイビキかいて寝てたのは誰だったかな?


「まあ、リーンだからね。しょうがないさ。…ふふっ、ついにボクたち二人っきりだね?」


 そう言ってリーナは妖しく微笑んだ。


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